第4話 ラグナ・イザード
リクトが家に帰ると、そこにはあたふたと部屋を散らかしながらも、懸命に二人の看病をしているミソラの姿があった。
「ただいま……って、ミソラ大丈夫か?」
「お、お兄ちゃんおかえりー……」
ミソラはリクトを見ると、体から力が抜けてその場に倒れこんでしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
「わ、私もう疲れたよ」
「看病しなきゃいけない人が増えてどうすんだ……」
とりあえずミソラは放置して、先に料理を作ることにした。
しかしその前に、怪我人が無事かを確かめるために寝室を覗いた。
「起きてるか?」
「あ、ああ。君はここの家主かい?」
寝室では、寝込んでいた少年が起きて辺りを見回していた。
「ああ。俺はリクト。で、こっちがミソラ。俺の妹だ」
「そうか。僕の名は……」
名前を告げようとした少年の言葉を、リクトはあえて遮った。
「その前に、今から料理を作るから、その後でもいいか?」
「……ああ。構わないよ」
「じゃ、もう少し待っててな」
そういってリクトは料理の支度を始めた。
しばらくして料理が完成すると、その匂いに反応してミソラも起き上がった。
「もうご飯できたの?」
「ああ。お前も食べるだろ」
「うん!」
ミソラの分の料理を用意した後、怪我をした少年用の料理を用意し、寝室に運んだ。
「すまない。ありがとう」
「謝るのか感謝するのか、どっちかにしてくれよ」
リクトはそういって苦笑した。
「はは、確かに変だね。あ、僕はラグナ。ラグナ・イザードと申します」
ラグナという少年は礼儀正しい挨拶をする。
「名字があるってことは、もしかして貴族なのか?」
「……まあね」
身なりからある程度は想定していたが、本物の貴族を目の当たりにしたのは初めてだった。
「すごいな。俺、貴族を初めて見たよ」
「……そうなんだ。よろしくね、リクト、ミソラ」
そう言ってラグナは手を差し出した。
「よろしく。ところでラグナ……いや、ラグナ殿、って呼んだ方がいいのか……ですか」
「そんな堅苦しくしなくてもいいよ。僕と君は年も近いだろうし」
「そっか。あまり敬語に慣れていなくてな。じゃあこれで」
「うん。そっちの方が気楽だな」
ラグナの紳士な対応に、リクトは若干驚いていた。
リクトが持つ貴族のイメージは、傲慢で平民のことなど路傍の石としか思っていないのだろう、というものだった。
「それでラグナ。どうして君たちはそんなに傷ついているんだ? 一体何があった」
「……それは」
ラグナの口が閉ざされる。あまり話したくない内容なのだろうか。
「まあ、無理に話してくれなくてもいいよ。その怪我が落ち着くまではこの家でゆっくりしていってくれ」
「すまない。迷惑ではないだろうか」
「全然。俺ん家に人がくるなんてめったにないから、ゆっくりくつろいでくれ。ところで、その飯は食べられるか?他国のことに疎いから、もしかしたら口に合わないかもしれないが」
「いや、大丈夫。いただくよ」
ラグナは料理を手に取り、それを口に入れる。
「……うん、美味しい。これは君が作ったの?」
「ああ。小さい頃からミソラと二人で過ごしてきたせいか、大抵のことは出来るようになったよ」
「そうなんだ。両親はいないのかい?」
「……5年前の東西戦争に駆り出されて、そのまま……な」
「……!」
リクトがそう言った瞬間、ラグナは黙り込んでしまった。
「……あ、ごめん」
「気を遣わなくていいよ」
「いや、そういう意味じゃないんだ……」
「……?」
ラグナの言葉の意味を、リクトは理解できなかった。
「まあ、いいや。それより、そっちの人はまだ起きないか?」
「ああ」
「その人は酷い重傷だ。なあ、ラグナとその人の関係性はどうなっているんだ?」
「……それについては、彼が起きてから話そうと思う」
ラグナは神妙な面持ちで答えた。
「なら、しばらく安静にしててくれ。まだラグナも怪我や疲れが残っているんだし、あまり無理はしないでな」
「ありがとう。少し横になるよ」
そういってラグナは横になった。