第12話 クーデター
「相変わらずいい子だね、ミソラちゃんは」
「ああ。聞き分けのいい妹だろ」
「ほんと、あんたには勿体ないくらい」
「うるさい」
「あー、それでなんだけど」
二人の茶化しを見ていたラグナは、唐突に話を切り出す。
「まずは、僕の素性から話そうか。リクトにはラグナ・イザードと名乗ったんだけど、僕の正式名称はラグナ・イザード・シルフ。……つまり、僕は西方大陸にあるシルフ王国の第三王子なんだ」
「え、ラグナは王子様だったのか!?」
「……ていうか、あんたは知らなかったの?」
リコは呆れたように尋ねた。
「そりゃ、ラグナとは昨日会ったばかりだし」
「どうやら、まずはあなたたちの馴れ初めを聞く必要があるようね」
「そうだな。まずはそこを話そうか」
リクトは簡単に昨日の出来事を説明した。
「……なるほどね。それでラグナ殿、いやラグナ様。あなたが本物の王子であることの証明は何かあるの?」
「……いや、何もない」
「それじゃ、あなたの話を信じることが出来ないけど……まあいいわ。とりあえず、話を続けてもらってもいいかしら」
リコは真顔でラグナに言う。
「わかった。何故僕がこのような満身創痍でこの東方大陸に来たのか説明するよ」
ラグナは一呼吸おいてから語りだす。
「事の発端は、我が国で起きたクーデターだった」
「クーデターって何だ?」
世間の事情に疎いリクト。その質問にはリコが答える。
「簡単に言うと、国民が武力によって国家に対して反乱を起こすことよ」
「なるほど」
「クーデターの首謀者の名はクリス・カートナー。彼は長年我が国に忠誠を誓っていた騎士だったんだが、突如反旗を翻したんだ」
「前兆はあったの?」
「僕や父上は感じ取ることは出来なかったが、どうやら彼は長い時間をかけて力を蓄えていたらしい。彼は他国と秘匿な取引をして武器を得ていたり、シルフ王国に不満を持っている国民に対して派手な演説を行って反乱の意思を煽ったり、後は賊などと取り引きもしていたらしい」
そう語るラグナの表情は重い。
「クーデターが起こった日は、クリスが近衛隊に任命される日だった。父上や兄上は任命式のためにクリスのすぐ目の前にいたし、クリスの部下も一緒に任命式に参加していたから、父上たちはあっけなく捕らえられてしまった。クリスは父上を人質にすると、瞬く間に王城を制圧。城下町は一時混乱に陥ったけど、国民の中にはクリスに味方する人々が多数いたから、彼らに説得されて積もっていた不満が露になり、気が付けば父上たちに味方する国民はほとんどいなくなっていた」
シルフ王国で起こった出来事を淡々と話すラグナ。
「不満があったってことは、シルフ国王は悪政をしていたの?」
「……悪政といえば、悪政かもしれない。父上は貴族と平民の貧困さをなくそうと様々な対策を講じたが、どれも上手くいかずにいた。つまり、やろうとする意志はあったが、結果が伴っていなかったんだ。その姿を見た国民の中には、父上のことを口だけの王である、と非難する人も多くいた」
「そりゃ、当然ね。どれだけ大層なことを言っても、結果が出てなけりゃ意味がない。要するに、国民の期待に応えることが出来なかったわけだ」
リコはラグナにお構いなしに事実を言う。ラグナもわかっているためか、何も反論はしてこない。