第10話 二刀
「その後、あたしたち三人は近くの街まで避難した。近くといっても、住んでいた村から三日ほど歩かないとつかないような場所にあったんだけどね。その街で、あたしはある女剣士と出会ったの」
「女剣士?」
「そう。これから先、どうやって生きていけばいいのかわからず、途方に暮れていたあたしたちに声をかけてくれた人だった。あたしが自分たちの身に起こったことを説明すると、その人は何を思ったのか、あたしに剣術を教えてあげると言った。あたしは生きる術が欲しかったから、その言葉に甘えて剣術を学んだ。その人から学んだこの剣術のおかげで、今のあたしがあるの」
リコは持っている刀を鞘から抜き出し、ラグナに見せた。
「この剣はそのときにもらったもので、今でも愛用しているわ。東方大陸にしかない剣らしいけど、こっちの武器屋でもあまり見かけたことがないのよね。ほら見て、刀身が少し反っているでしょ?」
「本当だ。剣というより刀のような感じだね。何て名前の武器なの?」
「シミターって名前の武器よ。部類的には刀になるわね。私はもうひとつ刀を持っているんだけど、こちらはサーベルなの」
リコはもうひとつの刀を抜き出した。シミターと同じく、刀身はやや曲がっている。
「どちらも見た目は似ているけど、どう違うの?」
「サーベルの方がシミターより細いのよ。違いはそれくらいしかないわね」
「普段はどちらの刀を使っているんだ?」
リクトが二つの刀を見つめながら尋ねる。
「私は二刀で戦うからねえ。どちらも何もないよ。まあメインで使うのはシミターかな」
二刀は、攻守両方に優れる戦闘形態である。片方の刀で攻撃を受け、もう片方の刀で攻撃を行えるので、攻撃の幅も広がってくる。しかし、その場合は片手で相手の攻撃を受けなければならないため、例えば筋力の差があると防御しきれずに攻撃を食らってしまう可能性もある。
特にリコは女性であるため、片方の刀で攻撃を受け止めるという戦法は取り辛い。故に、リコは両方の刀を用いて防御を行っている。二刀で攻撃を受け止めるには技量も必要だ。リコは師匠である女剣士から、如何に相手の攻撃をうまく受け止めるか、その技術を教わったのだ。
「二刀か。僕の知り合いにも二刀で戦う人はいたが、攻撃も防御も中途半端になってしまうと言っていたな」
「それはその人の技量のせいね。剣術に限らず、武道に大事なのは身体操作能力よ。これがあるのとないのでは、戦闘力に大きな差が出てくるから」
「なるほど……」
「刀は弱い武器として扱われているけど、極めれば何物にも勝る武器になりえる力を持っていると私は思っているの」
真剣な目つきで語るリコ。
「なるほど。それが君の信念なんだね」
ラグナは素直な感想を漏らした。
「……ねえラグナ殿。剣の嗜みはあるの?」
不意に、リコはラグナに尋ねる。
「え? ああ、まあ一応は」
「ならさ、私と手合わせしてみない?」
突然のリコの提案に、戸惑うラグナ。
「……ありがたいお誘いだけど、僕は今負傷中でね。思うように体が動かないんだ」
「そっか。残念ね」
「ごめん。体が動くようになったら、受けたいと思うよ。もっとも、僕はあまり腕に自信はないんだけどね」
「そんなの気にしないから大丈夫。あ、ところで……」
リコはリクトとラグナを交互に見て、
「二人はどういう風に知り合ったの?」
と尋ねた。