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彼女の面影をユイに見ていると、もう最後の一個になっていた。
約束は、何があっても守る。それが啓介のポリシーだった。命に関わる事だとしても。
皮肉な出来事でユイの願いが成就されたとも知らず、美咲らを葬った第四公園に着いた時、彼は懐から一枚の写真を取り出した。
玲奈は、満面の笑みだった。この時も外は大雪。
「玲奈、ワリぃ。会いに行けそうにねぇわ」
第三公園で、巨大な雪だるまを挟んで彼女と啓介が満面の笑みで一緒に映っている。
啓介は、この季節が好きだった。
雪玉をぶつけてくる玲奈が笑ってくれるから。
雪を背中に入れてくる玲奈にブチギレたから。
大切に飼っていた雪ウサギが死んで、玲奈と共に悲しんだから。
ぴっとりとくっついて離れない玲奈が愛おしく感じたから。
啓介は、この季節が好きだった。
「愛してる」
届きはしない。
雪の迷路と化した崩壊地区を、引きずってきた足を頼りに戻っていく。このまままっすぐ行けば、美咲たちの場所まで戻れるだろう。
何度も滑って転んだ。玲奈がいたら、指をさして笑っていただろう。そしてその度に啓介もテヘペロと舌を出して笑っていただろう。
奪うか、奪われるかの荒れ果てた地で、唯一のオアシスだった玲奈。
互いに楽しい時間を与え、時には本気で喧嘩して、信頼し合っていた二人。
あの指輪が今、手元にあるのなら……間違いなく、願っていた。
幻でもいい。今一度、目の前に彼女の姿を見せてほしい。玲奈とは違う世界に行く前に、あの時の笑顔を見せてほしい。
「愛してる」
伝えたい。何度も言いかけた言葉。そしてその度に、この関係が崩れてしまうのではないかという恐怖に駆られて言えなかった。年齢だって離れてたので自信が持てなかった。
この時、ようやく彼女が言っていた『死にたくない』という言葉の意味を理解した。
何故死ぬのが怖いのか。それは、痛いからではない。