5
「やったぁ! ありがとう! だけど……ママへのプレゼント……」
「大丈夫だ。おじちゃん、ママのお友達なんだ。おじちゃんから必ず、一個はママへ渡すよ」
少女は『へ』の口をして悩んでいたが、決心したらしい。深く頷いてくれた。
「いい子だ。約束だよ」
心なしか、口調も変わった気がする。
そう。約束。何があっても、啓介は約束だけは一度も破らなかった。血に染まった笑顔で、下からそっと頭を撫でる。
「くちゅん!」
「寒いのか?」
「うん、ちょっとだけ。マフラーわすれちゃった」
寒いのに忘れる事なんてあるのか、と思ったが、昼は確かに玲奈の笑顔を思い出すほど温かかった。新首都から飛行機を乗り継ぎ、徒歩でここまで来たのだろう。
「……そうか。そしたら、貸すよ、これ」
「えっ」
疑問符が聞こえてきたが、彼は続ける。
「お守りだ。井上啓介の友達、と言えば、この辺りの誰もが道を譲ってくれる」
今日は本当におかしい。命よりも大切なマフラーを手渡すなんて。
保温されたミートパイ数個と、小さな指輪を交換しながら自問自答した。本当にこれでいいのか。
「悪い、玲奈……」
玲奈への贈り物を渡してしまう。だけどここでこの娘が母を探しに行ってしまうと、きっと亡骸を見つけてしまうだろう。
「れいな? ちがうよ。わたしのなまえは、ゆいだよ」
彼は守りたくなった。あの時のように、このユイという少女の心を。
だが片腕を失ってしまった今では、当時よりも無力だ。そして視界も水中で目を開けてるように悪くなっている。この時期じゃなければ出血多量でとうに死んでいるはずだ。
「そうか。ユイ、もう、この区域に立ち入っちゃいけない。一秒でも早く立ち去るんだ」
「え、でも……」
「いいか、ママと一緒に暮らしたいのなら、すぐにここを離れるべきだ。その石に願いを投げかけてみろ。きっと、ずっとママと一緒にいれるから」
「……うん」
その宝石は、色味を失った。どんなに願ったところで、自分ではウンともスンともいわなかった宝石が、いとも簡単に。
「いい子だ」
ユイが立ち去った後、血が巡らない頭で色々考える。また新たに誰かの悲鳴が彼を呼ぶが、もうその正体を確かめる気力がない。
「くっそマズい。こんなの店売りしたら、一日で閉店だぞ」