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心を持っている者なら、ここで『最後に信じてくれたこの三人が、必ず天国へ行けますように』とか願うのだろう。だがしかし、ここまで荒れ果てた元首都に、そんな心の澄みきった者は最早存在しない。騙し合いの世界で生き抜くには、腕力と、他人を信じない力が必要だった。武器と金は神なんかよりもよっぽど役に立つ。
「政義、竜一、美咲……だったか。来世じゃ、ダチになろうな」
雪たちは、大きな肩や小さな肩の上で寄せ合っている。
壁に休ませてやった紅き翼を持つ天使たちを背に、啓介は再び歩き出した。思い出の場所まで、もう少しだ。
やけに寒い。毎年この時期になると、玲奈がプレゼントしてくれた不格好な毛糸の手編みマフラーが温かく包んでくれたはずなのに。
新品な毛糸のはずなのに、くたくたにくたびれた不良品マフラーのくせして、それはどんな防寒具よりも温かかった。
もう少し。あと少し。
足を引きずる。突如響き渡る悲鳴に顎を上げた。鉄骨が剥き出しになったコンクリートの迷宮。それを伝って耳に入ってくる。この街では珍しくも何ともない。しかしこの声は……
「玲奈……!?」
いや、まさか。彼女はこの腕の中で息を引き取ったはずだ。死にたくないと願いながら、啓介はどうする事も出来ずに頬を撫でたはずだ。
気が付けば、彼の足は祈る気持ちと共に悲鳴の轟く方へと向かっていた。
辿りついた先、悲鳴の主は綺麗な衣服を身に纏っていた。あの時の玲奈と、まったく同じ。この国で産まれ落ちた者ではない。ただやっぱり、神は役立たずだ。声は似ていても、その者は玲奈ではなかった。
「おいオッサン。テメェ誰に断って追い剥ぎしてんだ?」
「お、お前は! い、井上、啓介……!?」
悲鳴を上げていたと思われる少女は、啓介の背後に回る。どうやら年下の女の子には好かれるらしい。正義の味方にでも見えるのだろうか。
「『サン』が足りねぇぞ」
「……へ、へへ。そいつ、たんまりと金と食料隠し持ってやがりますぜ。分け前は七、三でどうです? も、もちろん、あっしが三で」
「ふン。悪かねぇな」