椿との再会
「今日は、全般によく晴れ絶好のお出かけ日和となるでしょう。」
車のスピーカーからは今日の天気を告げるラジオが流れている。
俺は今、晃と一緒にとある場所に向かっている。12月9日。それは俺達にとって特別な日だ。
「本当にいいんだな。無理することは無いんだぜ」
晃は車を走らせながら京介の方を見ることなく真剣な面持ちで問いかけた。
「そろそろケリつけないと前に進めないからな。二十歳の区切りにちょうどいいさ」
京介は窓枠に肘を付き手の甲に顎を乗せずっと外を見つめている。その表情からは感情を読み取ることが出来ず何を考えているのかわからない。
京介は、一日前に誕生日を迎え大人の仲間入りを果たした。未成年から成年になったからと言って社会的な立場が変わるだけで自分自身は何も変わらないし変えようもない。よく二十歳になったら変わるからと言う台詞を聞くがよっぽどの環境変化や決意がなければ人間すぐに切り替わるような事は出来ないだろう。
「お前がいいなら、俺は何も言わねーけど、無理してもよけ悪化するだけだからよ、本当に準備ができてねーなら、やめとけ」
「……ありがとう晃。俺はお前が親友でよかったよ」
晃はチラッと横目で京介を見て念を押すように言葉を発し、少し間を空け京介は親友に深い感謝の意を返した。
その後無言で車は進み住宅街を抜け、山道を走り続けること数十分。とある霊園の駐車場に止まった。
エンジンを切りサイドブレーキを掛けた晃はハンドルからスッと手を離し呟いた。
「ここだ」
京介は無言のまま花束を持ち車を降りた。冬の冷たい北風が全身に降り注ぎ白い吐息が呼吸をするたび吐き出される。車から降りてきた晃は無言で歩き出し京介はその後ろ姿にすがるようにゆっくりと歩を進める。
しばらく歩き墓地が見えてきたところで晃が立ち止まった。
「水汲んで来るから待ってろ」
「あぁ、わりぃな」
晃は水汲み場に歩き出し京介はしばらく辺りを見回してからふと空を見上げた。
「雲一つ無い青空か。佳奈さんに会うには絶好の日だな」
そう呟くと同時に近くでバシャりと水バケツを落とす音がした。
「どーした晃だいじょ」
大丈夫かと言葉を出そうとしたが、あまりの驚きに声が出せず、京介は目を見開いたまま動くことができなくなった。視線の先には茶色のロングヘアにくりっと大きな瞳健康的な肌色にスレンダーな体型を隠すように赤いスカジャンを来た女性が水の入ったバケツを落とした状態で立ち尽くしていた。そして威嚇するように京介を睨み付け奥歯をギリッと噛みしめ口を開いた。
「……きょうすけ」
「……椿」
二人はしばらく見つめ合ったあと、椿が足早に京介の方へと歩み出し胸ぐらを掴んだ
「なんであんたがここにいんのよ!あんたがいていい場所じゃないわここは!今更どのツラ下げて佳奈さんにあいにきたわけ!!」
なおも詰め寄り胸ぐらを掴んだ手に力が込められたが、京介は無言で山城椿から視線を反らすしかなかった。
「何とかいいなさいよ!」
「その辺にしといてやれや。椿」
いつの間にか椿の後ろに立っていた晃はそっと椿の肩に手を置き宥めるように言葉を投げ掛けた。
「……晃あんたがコイツを連れてきたの?なんでよ!?」
「こいつが自分の意思で来たいって言い出したからだ。椿、おまえの気持ちは十分理解できるが、俺達3人想いは同じはずだろ。京介も椿と一緒で十分苦しんだんだ。それに椿は京介の事で誤解してることがある」
「晃!」
「もう十分だろうが!お互いすれ違ったままでこのまま憎しみあって何になる俺らはもう何にも出来ないガキじゃねーんだ!!京介よ、ケリつけないとって言ったよな?ちょうどいい機会じゃねーかちゃんと椿と向き合え!たとえ椿が傷付くことになってもだ!」
晃は怒鳴りながら京介を真っ直ぐ睨み付けた。椿は京介の胸ぐらから手を離し体ごと晃の方に振り返り
「私に何を隠してるの?傷付くってどーゆーことよ」
困惑気味に聞き返した。
「後でちゃんと説明してやるよ。京介がな。それより今は佳奈さんに会いに行こうや。3人でな」
晃の言葉に椿は京介の方をチラッと見て舌打ちをし
「チッ。まぁいいわ。早くいくわよ」
スタスタと歩き出した。
「京介いくぞ」
晃もその後に続き
「ああ」
京介も晃の後に続いた。
此処まで読んで下さりありがとうございます。
今回からシリアスな展開が続く予定です。あまりシリアスが続き過ぎると気が滅入るので合間にちょっとしたコメディも入れます。もう少しでよさこい編にたどり着くと思いますので、よろしくお願いします。