山城 椿
「だから、軽い冗談じゃん。怒るなよ~」
俺は、軽い口調で晃の右肩をポンポンと叩きながらコーヒーをテーブルの上に置いた。
う~ん。まだ晃の機嫌は悪いようだ。
晃は、床に敷かれたホットカーペットの上で胡座をかいて座り、湯気の立つコーヒーを一口飲みゆっくりとテーブルの上にカップを戻すと
「アホかっ!あんな気持ちわりぃ歓迎受けた後に、捨てないで~って連呼されたら、誰だって正常じゃいられねーよ!」
目を見開き語尾を荒げて怒鳴った。
玄関前での一悶着の後、帰ろうとする晃の脚にしがみつき
「捨てないで~!捨てないで~!!捨てないで~!!!!」
と、ホストにのめり込んだ末期女がごとき名演技(うっすらと涙目になることも忘れずに)を実施するという手段を使い彼を部屋に招き入れる緊急クエストを無事こなしたのが今の現状である。
「いや、ついついネタに走りたくなってね」
テヘペロと片目を瞑り舌を出してみたのだが、あまり効果がないようだ。
「今更だけどよ、自衛隊から帰って来てから手口が妙に増えたよな」
晃は諦め気味にはぁ~っと溜め息をこぼしコーヒーを一口飲んだ。
「まっ、そう言うなよ。俺が素を出せるツレなんて数える位しかいないの知ってるだろ」
懐かしむように語る俺を見て
「ちげーねーな」
解ってるよ。というような微笑を浮かべ
晃は会話を進めた。
「それはそうと山城には会ったか?」
「いや、帰って着てからは、物件探しに仕事。市役所行ったり生活用品集めに店巡りやったりその他諸々忙しくて。この部屋も最近やっと人呼べるとこまで片付いたくらいだし」
そうだ。夢の一人暮らしをするには、物件探しと、生活するまでに最低限の家具家電が必要になる。
それらを全て揃えるまではそれはそれは大変な労力と金銭が必要なのだ。
俺の貯蓄はそれなりに有るからよかったもののがっつりと懐事情が寂しくなったのは明白だ。
世知辛い世の中よのう。
「もうすぐ成人式なんだからよ、それまでに一度会っておいた方がいいぞ?てか、会っておけ。」
晃は嗜めるような口調で俺に爆弾を投げつけやがった。
そんなありがたい助言に俺は神妙な顔でコーヒーを飲みながら己の内側で緊急会議を開いていた。
場面が変わりここは京介の真相心理の中。
真っ暗な空間に人1人が入るくらいの四角いモノリス立っていた。
モノリスの中央にはそれぞれ赤色で違った文字が浮かんでおり、それが立場を表すものだというのが分かる。
議長:それでは、今回議題に上がった山城 椿に関して今後の対応について審議しよう)
役員ABC:(((意義なし)))
議長:意見のある者は発言を許可する
役員 A:私は、早急に会いに行き誤解を解いた方がいいと思います。
役員 B:俺は逆だな。今さらのこのこ会いに行ったりしてみろ?おまえ……殺されるぞ。
役員C:僕はそ
役員AB:((おまえは黙ってろ!))
役員A:安心してください。あなたが言うように殺される心配はほぼ100%無いから大丈夫ですよ。ここは法治国家日本なんですから。少なくて半殺し多くても8割殺しで済むでしょう。
役員B:それって安心出来るのか?
役員A:椿さんもモンスターじゃないんですから情に訴えればあるいは道が開けるかもしれません。
役員B:なるほどな!
議長:決まったようだな。それでは、全身全霊を込めて山城 椿の情に訴え温情をもらうということで決まりだ
議長・役員ABC:(((全ては、リア充へのシナリオ通りに)))
ブォンっと音を立て役員ABのモノリスが消えた。
役員C:そんな簡単に行くわけないよ。ふざけていても事態は何も変わらないさ
ブォンっと音を立て役員Cのモノリス も消えた。
議長:京介、後戻りはできんぞ
最後の二人の会話だけは異様な雰囲気を醸し出したままブォンと議長のモノリスも消え真っ黒な空間だけが残った。
「今度時間が出来たら会いにいくよ」
京介は思考の渦から帰還したところで、晃へ返答をかえした。
「そうしろそうしろ」
晃はそう言うとコーヒーを一気に飲み干しスッと立ち上がる。
「んじゃ、そろそろ行くか」
「折角の休日付き合わせてわりぃな」
俺は感謝の意を表しつつ、玄関の鍵を締め、晃の車に乗った。
切り忘れたテレビからは尚もよさこいの放送が流れ続けている。
『それでは、ここでチーム一颯のメンバーにインタビューを行いたいと思います。それではそこの貴女、お名前からどうぞ』
『はい!チーム一颯所属の山城 椿です!』
此処まで読んで下さりますありがとうございます。今回は山城椿という登場人物と京介の微妙な関係を上げてみました。前半はただの晃とは超仲良しをやりたかっただけです(笑)
よさこい関係は山城椿が一颯というチームに入っているという設定を紹介して、次話からまたよさこい話から遠退きます。よさこい好きな人には申し訳ない!もうしばらく我慢してやってください。