総帥
「あれ?京介くん。何だか一皮むけた感じじゃない?」
「圭吾くんもよ。この前までは背骨抜けてるのかしらって思えるほどにへにゃへにゃだったのに逞しくなっちゃって」
「それなんかより、晃のやつだよ晃の。何でいきなり躍ってるんだ?あいつ確か旗士だったよな」
GW明けの一颯の練習。
相変わらずな椿の擬音語だらけの指導に真剣な眼差しで躍り込んでいる俺たち。
そんな俺たちを眺めながらヒソヒソと呟くメンバーたち。
そしてその状況を壇上の奈美さんはにこやかに眺めている。
「ねぇ奈美さん。あの子たちどうしちゃったんですか?GW前とは比べ物にならないくらい上達が早いんですけど」
「そうそう。椿ちゃんの野生感MAXな指導にもしっかりとついていけてるし」
「なんかしてやったんですか奈美さん?」
インストラクター担当のチーム役員も俺たちの変わり身に興味を持ったらしく、奈美さんの横に並びながらこちらを見ている。
「若さよね。あの5人、バイトの最終日に大阪へ遊びに行ったらしいのよ。それでね、よっぽど激しいプレイでもしたのかしら。京介くんも圭吾くんもあの体力だけは村越くんにも負けない晃くんまでヘトヘトで帰ってきて旅館に着くなりバタンキュー。それとは対照的に高揚した感じで生気に満ち溢れんばかりの椿ちゃんとカノンちゃん。そして、今まで意思疏通の出来なかった椿ちゃんの指導をしっかりと理解し消化している三人。間違いないわ。………あの子たち遂に一線を越えたわね」
「「「え!?」」」
確信めいた奈美さんに驚愕の表情を浮かべるインストラクターたち。こっちにまで丸聞こえな会話に冷や汗が止まらない。
「認めたくないものね。若さゆえの過ちというものを」
遠い空を眺めるような達観した表情で語る奈美さんを絶対零度の表情で見詰める椿とカノン。
徐に奈美さんの横に移動してきた村越さんは壇上の教卓に上がり、奈美さんと頷き合っていた。
そんなよくわからない状況で何を悟ったのだろうか、メンバーたちは練習を一時中断して熱い眼差しを壇上に向けながら静観している。
あ~、嫌な予感しかないわこれ。
「我々は二人の美少女を失った。これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!諸君らが愛してくれた椿とカノンは変わった、何故だ!我々は今、この喜びと悲しみを結集し、京介どもに叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。この勝利こそ、独身全てへの最大の慰めとなる。独身よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ独身!一颯は諸君等の力を欲しているのだ!!」
ノリノリの村越さんに同調しながら雄叫びを上げ拳を力強く掲げる独身メンバーたち。
それとは対照的に既婚者、彼氏彼女持ちのメンバーは椿とカノンに対して拍手喝采である。
「大人の階段の~ぼる~♪」
「can you celebrate ~♪
「家族になろ~よ~♪」
それぞれの世代が集まり合唱まで始まるしまつ。ノリ良すぎだろこの集団!
そんなフラワーシャワーが枚散るようなバージンロードを椿とカノンは無表情に歩き進み、壇上へと上がっていく。
さぁ、ここからは椿たちのターンだ。どんな名言が紡がれるのだろうか。
というか、今までだったらこの状況で真っ先に叫び出す椿が冷静にしているのは不気味だ。
壇上の奈美さんと村越さんは椿たちが上がってくると、さっと教卓前のポジションを空け椿たちに道を譲り、その道を一歩一歩堂々と歩く二人。そして、周囲を見回したあと、短く一言こう呟いた。
「私たちは、この前、田村ゆかり先生に直接指導を受けてきました」
その言葉にバカ騒ぎをしていたメンバーはシーンと静まり返る。
奈美さんでさえ口をポカーンと明けたままの間抜け面でフリーズしている。あっ、これ写メっておこう。
ポチッとな。
村越さんだけは頭に?マークが飛び出ている感じだけど、場の雰囲気に合わせて黙っていると、
「「「えーー!!?」」」
一声に驚愕を奏でるメンバーたち。
さすが田村先生のネームバリューはすごいな。
そして、大人な対応の椿とカノンの成長ぶりに感心していると椿の口がニターと破顔した。
「どう!羨ましい?羨ましくでしょ!?羨ましいわよね!!そうよ。あの田村先生に直接手取り足取りみっちりと仕込んでもらったの私たち。見違えるような躍りのキレそして躍動、可能性という内なる自身を開花し進化した私たちに嫉妬しハンカチを噛みしげながら、羨望の眼差しと嫉妬じみた苦言を言いたくなる気持ちも分かるわ。だから、あなたたちの、お花畑なコメントノリなんて私たちからみたら、ふっ。御可愛いこと。そして、田村先生の偉大さがまったく理解していない村越さん。いちよさこい人としてあえて言うわ、カスであると!」
などと、ほざきながら椿とカノンは腰に手を当てバカ笑いをし、最後は、村越さんの総帥ネタに総帥のネタでしっかりと締めくくった。




