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O・HA・NA・SHI

『♪♪』

スマホのアラームが、楽しい楽しい夢の世界(剣と魔法の世界俺TUEEEフィーバー)から強制送還の知らせをつげた。

「ふぁ~~~」

時刻は午前四時すぎ。まだ人の活動する気配が無い中、布団という魔道具より身体を起こし、今日も変わらない現実の活動時間が始まる。

「おはようございます~!」

今日も元気一杯朝の挨拶をマシンガンのように浴びせつつ俺は谷口さんとの駄弁り場で暖を取っていた。

自衛隊を辞めて3ヶ月ようやく『さん』付けで目上の人を呼ぶことに慣れてきた今日この頃。

自衛隊時代は『○○一士(いっし)』『△△士長(しちょう)』等と名字の後に階級を付けなければならなかった為、『□□さん』というのはほとんど使わなかった。

教育期間中の日曜に外出許可が取れた時、先輩と日用品の買い物に行った時なんて

「岡三曹!」

「浅野二曹!」

と言ってしまうので、周囲から注目を浴びてしまい、メチャクチャ恥ずかしい思いをしたものだ。

それでもやっぱり『さん』付けで呼ぶ事が出来なかった為、この羞恥プレイは延々と続けられ、しまいには慣れてしまい全く恥ずかくなくなるというスキルを身に付けてしまうくらいに当たり前化していた。

要するに、俺の中ではさん付けは慣れ慣れしすぎるという錯覚に陥ってしまったのだ。

一種の職業病みたいなものだな。

高卒でいきなり社会人の中でも特集な環境に入ったのだから、臨機応変というスキルが身に付いていなかったのが原因であり、当時の俺にもっと肩の力抜けよと言ってやりたいものだ。

「そーいや、今日は仕事終わりに社長が話あるってよ。お前何かやらかしたか?」

缶コーヒーを飲みながら谷口さんから思わぬ一言が飛び出した。

「いや、身に覚えが有りすぎて分からないッスネ!」

「メチャクチャいい笑顔だな!!」

俺のドヤ顔+親指サムズアップに谷口さんはすかさずツッコミを入れてくれた。

さすが関西人いいモノを持ってらっしゃるわ。

「まぁ、ちーとばかり御立腹な様子だったけど、変にテンパって自分で墓穴掘った後、自分の墓穴に落ちて、マイ墓穴でのたうち回らないようにな。」

「大丈夫だってばよ!任しといてください!!」

「……お前たまに口調おかしくなるよな?」

流石に分からないか~と諦めながら、今日も日用品の出荷作業に精を出しつつ、マジで何がバレたんだ?とモヤモヤしながら仕事に汗を流した後、終了のチャイムとともに、社長室へと向かった。

黒塗り木製ドアの前に立ちスーハーと深呼吸を一回。

「よしっ!」

気合い充分覚悟完了とっておきの秘策もシミュレーション済み。

もう何も恐れることはない。

意を決してトントントンと三回ドアをノックした。

「はい」

思ったより、優しそうな落ち着いた声が聞こえ、大きく息を吹い込み一気に肺の空気を放出しながら叫んだ

「物流部谷口班作業員正木 京介入ります!」

するとほぼ間を空けずに

「どうぞ」

という入室許可がおりた。

ガチャっとドアを開け中に入りトアノブを持ったまま回れ右を行い、音を立てずにスッとドアを閉める。そして閉まりきった事を確認し、ドアノブから手を離し右足を後ろに引き回れ右した後、(かかと)(かかと)を合わせ背筋を伸ばし顎を引いて不動の姿勢をとり素早く敬礼をした。

「物流部谷口班作業員正木 京介、社長より召集の命を受け参りました」

一語一語はきはきと言葉を発し最後にもう一度敬礼。

よし決まった。

ちなみに、敬礼は帽子を被っている場合はみなさんご存知の帽子のつばに指先を斜めに揃えたポーズをとり、帽子を被っていない場合は軽いお辞儀のポーズとなる。

今は帽子を被っていないのでお辞儀ポーズだ。

本当は上官が手を下ろしたり、お辞儀をやめない限り絶対に此方が姿勢を崩してはいけない。

この入室許可から敬礼を終える迄の一連を行動は、どこか1つでも抜けると腕立て伏せ実施後もう一度ドアの外からやり直しという事態に突入してしまい、完璧にこなせるまでエンドレスで行われるのだ。

まっ、自衛隊の中だけの話だけどね。

ここはただの一般会社だからそれはない。

なんて楽なんだろう。外は天国か!?

「まぁそう固くならずに座りなさい」

そんな歓喜に浸っていた俺に社長はゆっくりと立ち上がりソファーに座るよう手で勧めてくれた。

「コーヒーでいいね?」

「はい!」

さぁ状況開始だ。

お互い社長室のソファーに座りガラステーブルを挟んでのO・HA・NA・SHIタイム突中である。

社長は、事務のお姉さんが運んでくれた香り立つレギュラーコーヒーを一口飲んだ後、始まりのゴングを鳴らした。

「君の事は調べさせ―」

「すいませんでした~~!!!!」

俺は社長からの先制攻撃を受ける前に事前に用意した秘策、日本最強の防御方法ジャンピングDOGEZAを繰り出した。

「会社のトイレットペーパーとティッシュペーパーが無くなった件ですよね!実はちょうど花粉症と下痢が同時に来る気配があったのでウチに置いてある分では足りなくなると予測して仕方なく―」

「?」

「え?違いますか??それじゃぁ、作業用エレベーターのボタンを連打しまくって壊したあげくボンドで引っ付けたことでしょうか、あれは―」

「いや、違いますよ」

「これも違う!?ってことはまさか、社長が某国民的バスケットマンガの白髪監督に似てるからってタプタプ出来るか出来ないかの賭けをノリノリでやってるのがバレたとか!!あれは俺だけじゃなくて愉快なスタメン達が―」

「ふぉふぉふぉ。正木君、落ち着いて。私は咎める為に君を呼んだわけじゃありませんよ」

社長の一言に思わず頭を上げるとそこには笑いを堪える谷口さんの姿がこれでもかと言うくらいに鮮明に写し出された。

「……なんでいるの?」

俺の口から小学生のような素直な疑問が無意識に言葉として出た。

「いや、墓穴掘るだろうなと思ってよ」

谷口さんのドヤ顔+親指サムズアップが炸裂!効果は抜群だ!

DOGEZAポーズから四つん這いの敗北ポーズへと変えた俺は心でこう思った

『ハメやがったなゴリ~!!!!!』

「中々面白いね正木君は。そんなところに居ないで座りなさい。私は君を今の部署から発注業務への部署変えを勧める為に呼んだのだよ」

「え?でもゴ、あっ、谷口さんが社長が御立腹みたいなことを言ってましたので」

「おい、何て呼ぼうとした?!ちっ。まぁいいか、ありゃ~嘘だ。ガハハハ(爆発笑)」

「ふぉふぉふぉふぉ、まんまと遊ばれましたね正木君。」

「まっ、そういう事だ。久しぶりに馬鹿笑い出来てストレスも解消されたぜ」

「私もですよジャンプからのDOGEZAなんて滅多に見れませんからね」

二人のトークに着いていけずに奇妙な冒険をするスタンド使いに時間を止められていた俺は、ようやく時が動き出し正面に座る社長の下顎を妄想の中でタプタプしまくってやった。

ちょっとすっきりだ。

「何で、俺なんかが事務職に?見た目通りどっちかというと現場向きですよ??」

俺は全力で今までのマイ墓穴を無かった事にする為にも真剣な口調で社長に聞いてみた。

「それはですね、丁度発注職で欠員か出てしまい、どーしようかと谷口君に相談したところ、進学校出身でパソコンも使える正木君を紹介してもらったからですよ。」

なるほど。

つまりは、谷口さんが俺を推薦してくれたって事か。

「どうでしょうやってみてくれませんか?もちろん正社員として」

「是非喜んで!」

マジで正社員!実はただの契約社員的な立場だった俺はいつの間にか着々と正社員の階段を登って行き今まさに頂上に辿り着いたのだった。

「それじゃぁ、詳しくは明日話しましょうか。」

「はい。ありがとうございます!」

俺は社長と谷口さんに感謝の念を込め

「今日は失礼します。」

と挨拶し希望を胸に社長室のドアノブに手を掛けようとした。

「ちょっと、お待ちなさい」

その言葉にギギギという音が聞こえそうな程の動きで首を90度曲げた俺は見てしまったのだ。

「私の『お話』は終わりましたが貴方が私にした『O・HA・NA・SHI』は終わってませんよね」

「で、ですよね~(泣)」

そう言いながら闘気を纏い白髪をメラメラと逆立てる白髪鬼の姿を。

此処まで読んで下さりますありがとうございます。今回はコメディ要素多目に書いてみました。少しでも笑ってもらえれば嬉しいで。次回は少しよさこいネタを書こうかと思います。よろしくお願いします。

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