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仕事場にて

「おはようございまーす。」

仕事場に着いた俺は、すれ違う仕事仲間と先輩達に挨拶をしながら階段を昇り、事務所入口に設置しているタイムカードをガチャリと打った。

そして元来た道を戻り外の休憩場に向かい、まだ眠そうに欠伸をしているおっちゃん達と共に焚き火で暖を取ろうと手をかざしたところパイプ椅子に座っていた冬眠しない熊さんに声を掛けられた。

「よう京介。このクソ寒い中でまだバイク通勤か?いい加減車の免許取れよ」

リフト乗りのリーダー格である谷口課長だ。年は40代前半で妻子持ち。

見た目はまさに二足立ちした熊であり髪型はオールバック。

街中で10人中10人が目線を下に向ける風貌だ。

そんな谷口さんが足を大きく開きタバコを吹かしながら話し掛けてきた。

「おはようございます谷口さん。近いうちに取りに行こうとは思ってるんッスけど、まだ生活が落ち着かなくて」

谷口さんの斜め横に置いてあるパイプ椅子に座りながら俺は答えた。

「この時期の早朝は路面凍る時があるからよ滑って事故っちゃ洒落にもなんねーだろ?公道ガラガラだからって調子に乗って飛ばし過ぎんなよ」

ふー、とタバコを吹かして放たれた言葉には俺の事を気遣うようなやわらかな感じが混じっており、そんな言葉に俺の胸が少し温かくなった。

谷口さんは強面悪人面であるが、面倒見がよく入社してから俺の事を気に掛けてくれる人情味溢れる人だ。

まさに男が惚れる男って感じでかっこいい。

「まっ、俺の場合は事故っても超かわいい天使ちゃんが毎日見舞いに来てくれるから全然問題ないけどな」

その反面、娘には甘々デレデレのダメ親父であり、ほぼ毎朝と言っていいほどこの時間はスマホの待ち受けに写る小学四年の娘に鼻の下を伸ばしうっとりしてる。

ヤバイ。

変態オヤジにしか見えなくなってきた。

その光景にツッコむ事なんて出来ないので、とりあえず見なかったことにして

「またまた~。事故ったりしちゃ、アケミさんにトドメさされちゃいますよ。」

サラッとおどけた口調で返した。

アケミさんとは谷口さんの奥さんで同じ会社のトラック運転手なんだが、谷口さんを顎で扱う程の猛者っぷりから会社内で『(あね)さん』と慕われてるワイルド美人なのだ。

「ちげーねーな!んじゃ、そろそろはじめっか!!」

豪快に笑いながらタバコの火を消し椅子から立ち上がると他の作業員を見渡しながら谷口さんは叫んだ。

その姿に変態オヤジの面影は微塵も感じられなかった。


さて、俺の仕事はというとフォークリフトで倉庫の中にある数百種類の日用品を決まった数だけかき集めて出荷ベースに運ぶという至ってシンプルな業務だ。

大手スーパーやホームセンターに卸しているので、色々なメーカーの様々な日用品が倉庫内に山積みにされている。数量は卸す店の在庫により変動するので、数量と商品名さえ間違わなければ大丈夫だ。間違えたとしても検品のパートさんが確認するのでその時点で誤送は防がれる。ただ、誰が間違ったかはすぐに分かるので間違わないように確認しつつ作業を行わないとならない。

間違うと谷口さんからの制裁が待ってるからだ。

あれは何としても避けたい。

主に金銭的な意味で。

そうこうしている内に昼休憩のチャイムが鳴り、みな作業を一時中断し食堂へと向かった。

混雑する食堂の中、俺は谷口さんと向かい合いスーパーの弁当を食べていた。もちろん谷口さんは愛妻弁当である。

「よう京介。この前貸してもろた例のアレ、続き頼むわ」

昼飯を食い終わり食後の緑茶を啜りながら谷口さんが周りを気にしながら俺に顔を近付け催促してきた。

「谷口さん早すぎですよ。ちゃんと寝てますか?あんまりハマると体壊しますよ」

「大丈夫だって。そんなやわな体じゃねーよ」

「仕方ないッスネ。それじゃぁ、明日まとめて持ってきますけど、ほどほどにしてくださいよ」

俺は微妙な顔で答えると谷口さんは口元をニヤリと歪めて笑い

「わかってるって。心配すんな。家庭壊すようなとこまでハマるつもりはねーからよ。それより、絶対だぞ。忘れたら俺マジでどーなるかわかんねぇからな」

と軽い脅しの入った言葉をぶつけてきた。

「了解しました。帰ったら即行で準備しておきます!」

「うっし!んじゃ、よろしく頼むわ。くれぐれも周囲にはバレねぇようにな。」

「はい。もちろんです」

というやり取りをしていると昼休憩が終わり午後の作業が始まった。


今日も無事仕事が終わり家に帰って来た俺は谷口さんへ献上する例のアレを忘れないように準備していた。

ふとしたきっかけでアレの存在を知ってしまいその魔性の魅力に堕ちてしまった谷口さんはもう後戻りは出来ないであろう。

アケミさんと娘さんには非常に申し訳ないが、バレなければどうということはない。

例のアレとは何を隠そう“ライトノベル”だ。

いや~、まさかこんな展開になるなんて夢にも思わなかったわ~。

まっ、何にせよ、持って行くの忘れないようにしないとマジ何されるかわかんねーから早く済ましてしまおう。

そして鞄の中に金髪幼女と元人間の吸血鬼が怪異と戦う物語集が納められた。

此処まで読んで下さりありがとうございます。今回は京介の私生活の中で仕事の部分を紹介しました。谷口さんとのふとしたきっかけはまた後日書いてみるつもりです。さて、まだよさこいのよの字もでてきてません。申し訳ない。もうしばらくこういった他愛ない日常が続きます。どうぞお付き合いください。

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