契約/Contract
その弓が現れる時、わたしはそれを見て想い出す、わたしとすべての生き物のの間、地にあるすべて肉なるものとの間の、永遠の契約を。
人の声がする。
女性の声か男性の声か、僕にはわからない。
ただ一つわかることがあるとするならば、
その声を聴いている僕は、七色の光とぼんやりとした幸福に包まれているということだ。
しばらくして、これは夢だと自覚する。
僕が幸福に包まれることは、もうきっと、
ないだろう。
2044年4月24日(日)6時40分 (06:40 GMT Sunday 24 Apr) 新京府
休校日でも僕は基本毎朝同じ時間に起きるようにしている。特に理由はないのだが、一度見についた癖は治りにくいものだ。
顔を洗い、歯を磨き、買い溜めした朝食を食べる。
ニュースを見ながらの朝食を終えると、部屋の窓を開けベランダから新京湾を見渡した。
新京
2034年6月17日に発生した原因不明の超大爆発は旧神奈川県、江の島を爆心地に周囲一帯を抉りとり、海岸線は川崎まで到達した。この爆発により旧神奈川県はほとんどの土地を喪失、また爆風の余波で東京、旧静岡の一部地域にも甚大な被害を及ぼした。
また、二次災害として起きた津波及び火災により、最終的には人類史類を見ない900万人近い命が失われ、推定死者のおよそ九割が行方不明、遺体喪失という未曽有の超大災害となった。
土地のほとんどを消失した旧神奈川県と一部を失った旧静岡県を併合し2037年新京府が成立した。
僕が住んでいるマンションはこの災害により身元を失った未成年者に提供される災害手当の一つで新京沿岸部(旧神奈川県川崎市武蔵中原)に位置している。
爆心地周辺のみ産出されるミソロニウムの恩恵により、この国は世界有数の経済・技術大国に再び上り詰めた。災害孤児でありながら比較的苦も無く暮らしていけるのはミソロニウムの恩恵他ならない。
ミソロニウム。
3035年に国際連合の派遣した特殊調査隊が爆心地の海底にて発見したこの未知の物質は不明な点は多いものの大量のエネルギーを内包し、1gで四人家族30年分の電力を賄うことができるともいわれている。さらに人体に有害な放射能を一切発しないことからエネルギー界の脚光を浴びることとなった。
2030年代の深刻な少子化、超高齢化経済により日本はその国力を徐々に衰退させていた、この新物質の発見はまさに転機だっただろう。諸外国よりいち早く発電施設を造り早速貿易に活用することでその国力を回復させ、見事に昨年(2043年)のGDP《国内総生産》は中国に次ぎ第二位へ返り咲いた。
2034年の超大爆発はミソロニウムによる何らかのエネルギー変化ということで決着はついたものの、確かな原因は今のところ分かっていない。
そんなものを貿易物、ましては発電に使う燃料なんかに使うのは危険という話も世論では上がっていたがしばらくするとその騒ぎも収まった。
皆がミソロニウムの有益さを痛感したからだろう。臭いものには蓋をしているだけということに皆気づいているのにもかかわらず、民衆はそれ《危険性》を口にしようとはしなかったのだ。
そしてミソロニウムの発見から二年たった2037年
彼らがこの世に誕生した。
彼ら名は、
神託者
僕はベランダからの景色を見るのを止め、部屋に戻った。
次回、
第一章、第二話
神託/Divizer
冒頭の一文は旧約聖書『創世記』を一部引用しています。
序盤は少し短めです。
読んでくださってありがとうございます!