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本当の言葉  作者: beats
2/2

優しさがとても怖い

今回は「僕」じゃない人

怖いものは人それぞれです

いつからだろう

僕から俺になり、俺から私になり

いつのまにか私から「わし」になったのは。




この世界は残酷で最悪なものだった

命を生み辛くても嬉しくても平凡な人生を歩める

そんなことはなかった



甘酸っぱい恋をして愛して、色んなことがあって…結婚をして…子供が生まれて

これからという時に

妻も亡くなった

病気だった

いつ死んでもおかしくはない状況が

何年も続いていた

それまで生きていたのが奇跡だと言われるほどに…



妻は最後に、わしに微笑みながら

「愛してるわ」とそう言い残すと息を引き取った




だが、死んだあとずっと泣いてはいるわけにいなかった

まだ、小さかった息子を一人で育てるためにわしは死に物狂いで働いた

息子を家に置いて働きに行くことが毎日だった

妻の…そして、わしの大切な息子を守るため


「ごめんな…急に仕事が入っちゃったんだ。父さん、夜には戻るからいい子にしてるんだぞ」

頭を撫でながら呟いた


何度…このセリフを言ったことだろう

ろくに相手もしてやれず月日は過ぎていった



息子は高校生になりバイトをしたい

そう言って少しでも家計を浮かそうと

頑張ってくれた

おかげで息子は就職をして、結婚もした

優しくて少し怒ると怖い




数年後、わしに孫の拓真が産まれた

少し平均よりも小さい元気な赤ちゃんだった


可愛かった


本当に可愛かった



家に来ると色んなものを倒したり、興味をしめしたものをすぐに口に運んだり。

少しも目を離せず、この歳になって慌てふためいていた。


そんな孫も小学生になり、おじいちゃんらしいランドセルを買ってあげる

という行為に満足をしていた




そんな日から少し経ったある日

体調を崩した、わしの所に息子が見舞いに来てくれていた

持ってきた果物を切り皿に盛り付けている

リンゴをウサギにの形にしたり、可愛らしい工夫をしていた

わしには、そんなことは出来なかった

きっと奥さんと、孫の為に頑張っているのだろうと思った


このあと、すぐに会議に出ないといけない息子は

「父さん、大丈夫そうかい…辛かったらすぐに電話してくれよ」

と言い残して、急いで車で仕事先に向かった

わしはその優しい言葉を聞き眠りに落ちた

でも





その20分後だった

息子が事故にあったのは。







わしは息子の葬儀で今までの事を思い出していた


わしと結婚もして少しの間だったかもしれないが優しかった妻は死んで

仕事ばかりしていて、ろくに遊んでやることも出来なかった…

そんな、わしに対してもいつも優しく父親だと言ってくれてた息子も死んだ。


わしは…今まで何をしていたのだろう

愛し合ったはずの妻もその息子も

何も…



守れてなんて…いなかった



そう思うと目から涙が流れそうになる

そのとき…

目の前には涙を流した拓真が立っていた

拓真は、「おじいちゃん」と呟くと

わしの体にそっと抱きついてきた

遠くでお母さんが見ていたのに気付く


なんとなく意図が分かった気がした

わしは拓真を強く抱きしめて頭を撫でる

息子にした時と同じように。


まだ、わしには拓真という希望が残っていた

この世界は…まだ残酷ではなかったのかもしれない

そうも思えた


今度こそ…






わしは決心して拓真を預かることに決めた

時々、父親のことを思い出して泣いてしまう拓真をそっと抱きしめる

泣き止むまで、わしはじっとする

抱きしたわしの顔は拓真から見えない

その時、自分自身も泣いていた

強くなくてはならない

強くあり続けなければならない

拓真を守るためにも心配をかけるわけには

いかなかった

バレないようにこっそりと。


徐々にそんな事も少なくなり

拓真からは笑顔が増えてきた

「おじいちゃん、いつもありがとうね…」

そう言って誕生日でもないのに

プレゼントをくれた

❮なんでもしてあげる券❯

とお菓子の詰め合わせだった

子供らしいプレゼントに不思議と嬉しくなる

「お金はあんまりないけど、僕に出来ることだったら何でも言ってね」

拓真の笑顔と優しさに体が震え涙が出そうになる

こんなにも涙腺が緩んでいたのかとビックリする

「ありがとうな」

お礼を言った声は震えていなかっただろうか

強いおじいちゃんのままであろうとする

まだ、まだ頑張らないと…





しばらくして自分の体調の悪さに気付く

でも気付いた頃にはもう遅かった

病院に行っても先生はよくわからなそうな

顔をして風邪かもしれませんねと言う


自分自身の事はなんとなく分かる

もうお迎えが近いと感じた

やっと妻と息子の元へと逝ける

そう思った


でも、まだやるべきことが残っていた





そして、病院の帰りに拓真と出会った

わしを心配してくれる

今日は帰ってくれと言っても


「でも、おじいちゃんが体調が良くないなら僕、看病するよ!だって一人だと大変でしょ!」



拓真のその優しさが嬉しくもあり

同時にとても怖かったのだ

まるで、息子みたいだったから


動揺した


「いいから帰れ!」



言い放った言葉は最低なもので

でも、間違った言葉ではなかった




拓真に最後にしようと思ってること


それは「嫌われること」


もう…わしに優しくしないでくれ




玄関の戸を締め、廊下を歩く

体は限界を迎えたようで

目から溢れる涙は止まらなかった

ごめん…ごめんな…

わしは一人で謝りながら膝を床に突いていた

もう優しさに触れたくない

もう大切な人の優しい涙は見たくなかった


嫌われれば、見ることはないだろう

そんな、バカみたいなことを本気で考えている

わしは自分で思っていたよりも弱り切っていたみたいだ




もう強くなんてなかった

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