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キュウセイ⇔ワールズエンド  作者: 雪端 裄弘
1話、混乱の前触れ
7/19

2―3

なう(2015/03/08 05:52:01)に改稿しました。

「我々はドルグワント」



 違う。

 そんなことを訊いたのではない。

 組織名なんて、どうでもよくて興味の微塵も起きないことを訊いたのではない。

 ユキは、名前を訊いたのだ。

 お前自身の名を教えろ、お前自身を教えろ、お前自身を形造るものを教えろ。そう問うたのだ。



「違う……」

「なにも違くはないよ」



 少女は当たり前のように言う。

 しかしそれでも彼は彼女を否定する。



「違うよ」

「……なにが?」

「オレが訊いたのは、お前の名前だよ」



 少女の顔が曇る。ユキにはそれがわからない。

 名前を教えることをしたからって、自分のなにかが減ることはないし、隠しているからといって自分のなにかが増えることもない。

 ならば今ここで公言しても良いはずだ。それとも、名前がバレてはいえない立ち位置にいるのか。


 少女の瞳が血走る。



「お前に名乗るような名前はネェよ!! 〈蛇〉!」



 少女が叫んだと同時に砂利から顔を出したのは、幾匹の蛇。バラルには蛇はいない、だから魔力系統操作系能力者ではない。ならば彼女は生成系か。

 ふとウレイを思い出していたユキのことなど得も知れず、少女は手を虚空へとかざす。抑揚のない棒読みでそれらに命令し、手を振りおろした。



「殺せ」



 呼応するように咆哮を鳴らした蛇達は、蛇行し地面に潜り、跳躍して包囲網を敷く。

 そして一斉に突き出した蛇達は、その毒で満ちた牙で噛みちぎりにかかる。

 ユキは一匹一匹の位置を一瞬で確認し、蛇達の行動を大雑把に予測した。


 ……上下下下、左右右、左上左斜め、結局全方向。


 あまりにも大雑把過ぎる予測が終わったら、残る作業はただひとつだけ、処理だ。


 図鑑でも見たことのない品種だ。ひと噛みでも死ぬ可能性はある。

 まぁ、そんな心配は単なる杞憂きゆうにしかなりえないが。


 ニヒルな笑いを浮かべる。


 最も手っ取り早く蛇の動きを止められることは、蛇を殺してしまうことである。



「頭蓋骨と背骨の間を切り開け!!」



 一瞬のうちに発生した『黒いもや』に覆われた右手がスライドすると、けたたましく声をあげる蛇の首が一斉に跳ねた。

 制御と勢いを失った首と身体はぼたぼたと力なく地面へと落下していく。瞬く間に灰色の砂利道の一箇所は真っ赤に染まった。



「…………」



 繰り出した攻撃が見事に防がれたことに困惑も動揺もなく、少女は黙ってユキを睨みつけていた。

 彼女にとってここまでは想定の範囲内。

 ユキが『黒い靄』を発生させたことにより、半信半疑だった気持ちが確信に固まる。

 少女の心の中では「まさか」と「しかし」が存在していた。

 まさか、まだ幼い少年が『大罪所有者クラウンオーナー』の一角を担う少年だとは思えなかった。

 しかし、『始まりの転生者』であることは確実で、開く能力を所有している時点で大罪所有者であることは確定していた。

 なのに殺したくないという思いが捨てきれなかった。


 ……まだまだ弱い。


 情に流されるなど、ずっと覚悟を決めてきたじゃないか。今更だ。

 少女は胸の前で拳を握り締める。



「……殺してやる」

「えー。ずいぶん物騒な言葉使うんだね。きゃー怖い怖いっ!」

「……ムカッ」



 煽るユキに言葉通りムカッときた少女は眉間にしわを寄せる。

 ユキは肩をすくめて少し笑った。



「なんか可愛いね」

「うるさいね。どこがだよ」

「そうやって思ってることをすぐ口に出すあたり? 子供みたいで可愛らしくて見てて微笑んじゃう」

「馬鹿にしてるだろ。それにそれは可愛らしいから笑ってるんじゃないよね。見てて滑稽こっけいだからあざけり笑っているだけだろ」



 少女はだんだんと声を荒げながら言った。

 彼女はとてもユニークな喋り方をする、とユキは思った。

 少年のような喋り方から始まって、最後の方になるにつれて荒々しい口調になっていく。思春期なのだろうな、と納得した。

 人間、誰しもだれかれ構わずに噛み付きたくなる時期があるものだ。人間はそうやって進んでいき、過去を嘆くように人と心を通わせていく。そうして人間は繁栄してきた。それはこれから先も変わらない。



「さて、オレはこの辺でおいとましようかなと思うんですが、どうでしょうか?」



 なぜか丁寧語で言うユキ。

 身体強化の制限時間まであと残りわずかだ。そろそろここから立ち去らないと、本当に殺されるかもしれない。

 しかしさっきからじっとしている彼女の様子からして、本気で殺しにかかってきているとは思えないけれど。

 口からでまかせ、ということなのかもしれない。もしそうだとしてもなんで口からでまかせなんかをする必要があるのか、理解できない。



「そんなの決まってるよ。許すわけないだろうが。馬鹿か、今ここでお前は殺す」



 ユキははぁっとため息を吐く。



「ねぇ、なんでお前はそうやってオレを殺そうとするわけ?」



 出逢ってからずっと気になっていたことをやっと尋ねることができた。

 少女は依然としてこちらを睨んでくるのを止めない。



「そんなの決まってるよ。ムカつくんだよお前が」

「は?」



「ムカつくから」そんなちっぽけな理由が殺される理由になるなど、なんて理不尽な世界なのだろうか。



「うそーん」

「うん。嘘」

「えー」



 なんだ、お茶目っ気があるじゃないかと思った。表情が少し緩むユキ。



「わたしは欲しいんだよ。お前の力がな」

「オレの、力?」

「存在と言ってもいい」

「もしかして、オレって今告白されてる?」

「そう思うんならそうなのかもね。お前のなかではな」

「聞いたことあるよーなないよーな。つまり違うってことね」



 この少女は結構面倒くさい人種のようだ。言っていることがよくわからないし、なにを成さんとしているのかもよくわからない。

 少女はユキを見詰める。



「お前はお前をちゃんと知っていないんだよ。なんでウレイ・クーリアに制限されなければ能力が暴走してしまうかもしれないのか、己の存在がいかに重いものか、なんのために生きているのか。お前はなにひとつわかっていないし、考えてすらもいない」



 神妙しんみょうな面持ちで言う彼女を怪訝けげんに思い、ユキは首を少し傾げて訊いた。



「お前は、オレのなにを知ってる?」

「なんでも、知っているさ」

「そんなのフェアじゃない。そういえば、お前の名前は一体なんなんだ?」

「……ずいぶんと名前にこだわるんだね。さっきも言ったよな。お前に名乗るような名前はねェ。でも、少しでもフェアに近づくようにひとつだけ教えてやる……」



 少女は語った。胡散臭く、嘘臭い、突拍子もクソもない空想染みた話を。

 だけどユキにはどうしても嘘には到底思えなかった。聞いているうちに自分ではない誰かが、彼女に呼応するように身体の中をうごめいているような妙な感覚に襲われるのだ。



「この数日でここ、バラルは落ちるんだ。それは人間でも自然災害の手によるものでもない。神なんて偶像の存在によるものでもない。全ては『鬼』という新生物によるものだ」

「鬼?」

「そう。そして鬼を殺せる力こそ、お前が体内で飼っているもの。人類の叡智えいちを結集され、造られた最強の人間『神子みこ』の力。またの名を、大罪クラウン。お前はそんな化物を巣食わせてる宿主であるとともに、化け物を護るために存在している化け物なんだよ」

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