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キュウセイ⇔ワールズエンド  作者: 雪端 裄弘
1話、混乱の前触れ
2/19

1-1

 炎天下。

 セミはミンミンとけたたましく声を上げ、じめじめとした風がそれを巻き上げる。

 外とは反して涼風が吹くラーメン屋の中では、セミに呼応するようにではないけれど、ずるずると麺をすする音がする。


「マジかよ……」


 クレイの二杯目完食を見て箸が止まったユキは、引き気味に言った。

 体格ががっちりしているし、スポーツマンだからと言われればそうなのだろうなと納得できるのだが、この後まだ五杯程待ち構えていることを考えると半端な食欲ではない。加えて餃子が半端ではない量も存在している。

 どんだけな大食漢だよ、といつも呆れるのがユキである。

 厨房をチラッと覗くと、亭主のおばちゃんが急ピッチで料理しているのが見えた。


「ユキが食わねぇんだろ。俺はいたって普通だと思うけどな」

「いや、だとしても大玉七杯は食い過ぎだろ……」

「うっせ、じゃあお前も食えばいいんじゃね? ほら食え!」


 そう言って大量に頼んだ餃子の三割くらいをユキに押し付けた。三割くらいと言っても軽く五〇〇個は超えている。

 ユキはうへー、と声を漏らした瞬間、クレイの三杯目のラーメンがテーブルにコトっと置かれた。今回はとんこつラーメン(こってり背脂入り)だ。


「お、美味そうじゃねーか!」

「お食べー。えっさっほいっさ!」

「…………おいし」


 餃子が以外と美味しくてユキはびっくりした。


 がらがらと出入り口の戸が開く。

 入ってきたのは、クレイの所属する野球部のマネージャーである、みこと・アウラ・かえでだ。

 アジア県とヨーロッパ県のハーフということで、背格好はアジア県となんら変わらないが、唯一青い目だけ受け継いでしまったために、学校では大分苦労したそうだ。

 よく「お前はヤンキーか?」と尋ねられるらしい。


「クレイ! あんたまたこんなとこで油売って! 部活出やがれコノヤロー!」

「どっちかっつーと買ってるんだけどな。ズルズル……」

「うっさい! 言葉の綾だ!」


 楓は頬を赤くしてそんなことを言うが、けっして言葉の綾ではないことに気付いていない。

 クレイは楓に睨み付けられているのにもかかわらず、箸のスピードは下がることは疎か、むしろ逆に上がっていた。


 楓が黙々と食べていたユキに気付く。


「あっ! ユキくんじゃん!」

「こんにちは。家の兄がすいませんね。食べ終わったら行かせるんで」


 ユキはぺこりと頭を下げながら言うと、楓はぶんぶん手と頭を振った。


「ううん、ユキくんが謝ることじゃないよ!」


 足蹴。


「この馬鹿が悪いんだっ!」

「ぐへっ!」


 危うく吐きそうになったクレイ。


(……夫婦だなー)


 と思った。

 二人のやり取りを見てるとそう思えてくる。

 献身的な良妻賢母のような妻ではなく、夫を尻に敷く嬶天下の家庭。でも、たからこそかもしれないが、仲はとてもよろしい。きっとこういうカップルの方が長続きするのだろう。

 クレイは餃子を数個小皿に乗せると、割り箸と一緒に楓に差し出した。


「餃子食うか?」

「いただくー」

「食べるんだ」


 皿を受け取ると、楓はユキの隣に座った。

 割り箸を割り、餃子へと箸を伸ばし、口へと運ぶ。


「おいしいっ!」

「「でしょ?」」

「あははっ! さすが兄弟! 息ピッタリだね〜」


 そう笑って、ユキの肩に頬をすりすりし始めた。さっきまであんなにクレイとはしゃいでいたと言うのに。

 別に二人は交際中とかではない。楓が言い寄って来ているのだ。


「ちょ、なにすんですか」

「えー? いつになったら付き合ってくれるのかなーって」


 三十回。それが楓が月に告白する回数である。

 毎日違う誰かに告白してどうにかこうにか彼氏をつくろうとしているのではなく、そのすべてがユキに向けられている。

 本人が言うに、一目惚れだそうだ。

 ユキ的には正直鬱陶しく、やめて欲しいと思っている。

 いちいち断っていたら逆に火がついたらしく、最近やたらとボディタッチが多くなってきた。ゲイは言い過ぎだが、ビッチに近付いていっているのではないか。


「もう付き合っちゃえよユキ」

「そうだよユキく〜ん。こんなに可愛いお姉さん他にはいないよ〜?」

「自分で言いますかそれ……」

「うんっ!」

「うんって……オレよりも良い人なんて他にいるでしょう。なんでそこまでオレなんですか」


 謙遜も混じえた拒否は、どうやら彼女には気付けなかったようで、謙遜部分だけを理解していた。


「もぉ〜そんなこと言って。ユキくんはカッコ可愛いよ?」


 そう猫撫で声で言ってまたすりすりしてくる。本当の猫のようだ。けっして猫のように愛らしいとか可愛いとか思うことはないが。

 そんな彼女の風貌は置いておくとして。

 質問したのに一番どうでもいいところを答えられ、一番大切なところはスルーされた。

 ユキとクレイは溜め息を吐く。


「会話になってねぇな」

「本当だね」


 ちょうどそのときクレイのラーメン四杯目が到着した。

 一方でユキの右腕は楓という強敵に押さえ付けられ身動きが取れないため、麺が伸びてきてしまっている。


「……♪……」

「今度は鼻唄唄い出した……」


 この後、やっとのことで離してもらったユキは、伸びきってあまり美味しくないラーメンをたいらげた。


 別れ際、こちらに楓はぶんぶん手を振ってくる。


「じゃあねーユキくーん!」

「あ、ははは」


 苦笑いしか出来なかった。


「おい、ユキ」

「ん?」


 クレイに強い口調で声をかけられた。眉毛がぴくぴくと震えている。彼が少しイラついているときの、原理がよくわからない癖だ。


「姉さん困らせたら承知しねぇぞ」

「わかったよシスコン兄貴。早く部活行けって」

「うるせぇ。シスコンナメんなよ?」


 クレイは過度なシスコンである。

 ユキとクレイ、後この場にはいないが妹のニーヴとクレイと双子のアレイの合計四人の上にウレイという姉がいるのだが、彼は彼女が好き過ぎる。それは見ていてわかることだ。

 ウレイといるといつもそわそわしているし、声のトーンがワンオクターブ高い。


 そして彼の名言、否、迷言がこちらである。


「愛さえあればお姉ちゃんでも関係ないよねっ!」

「うるせぇさっさと行きやがれ!」


 じめじめとしたコンクリートの地面の上、セミの声がうるさい。

 ユキはこれからどっと疲れる行事が待っているというのに、既に疲弊してしまいかけていた。

 原因はもちろん、聞くに耐えないクレイのシスコン話である。

 楓に軽くド突かれるまで約五分間ノンストップで喋り続けたクレイ。彼は首を固く握り締められ、ずりずりと引きずられて行った

クレイ・クーリア


年齢14歳 出身浮遊国ヴァルハラアメリカ県ネオン街 父親ルーウ 母親エミリア(賢臣) 姉ウレイ 兄アレイ(双子)弟妹ユキラウル&ニーヴ(双子) 魔力系統強化 所有能力〈強化〉〈身体強化〉〈地雷生成・土&水〉 愛すべき属性シスコン


勅・アウラ・楓


年齢14歳 出身浮遊国ヴァルハラアジア県渋谷街 父親勅吉野 母親アリエラ・フォン・ルージュ 魔力系統記録 所有能力〈完全記録〉〈解錠〉〈魔視〉 愛人(愛しい人)ユキラウル


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