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こんなあらすじを書いたのは初めてです。
東京レ〇ヴンズを参考にしました。
よろしくお願いします。
能力社会はいつの時代にもやってきた。
絶対王政時代でも、いつの日かはクーデターや革命が起き、政治の根本的な部分に知性が組み込まれた。
言論は人類にとって最強の武器だと誰かは言った。
それはすぐにそうだそうだと喚き立てる民衆に奉られ、全世界へと浸透した。
反して、武力は人類にとって最強の武器だと誰かは言った。
言論が最強として云われてきた世界では、到底受け入れ難いものではあったが、戦争をなくすことのできない社会に民衆は飽き飽きしていた。
世界はループする。
歴史が物語るように同じ罪を犯し続けるのが人間であるのならば、数ある秩序を繰り返し続けるのが世界である。
第一の世界である武力の世界が終わると同時に、第二の世界である言論の世界は始まった。
だが第二の世界である言論の世界が始まった途端、退化を望むかのように第一の世界である武力よ世界へと導く運動が始まった。
それからは第一と第二の世界が繰り返し秩序として存在していた。
だがただ一つ、二つの世界に共通して真髄として存在していたのにも関わらず、カラに閉じこもったままの世界があった。
それは言論であり、武力である、知性。またの名を能力。
能力社会はいつの時代も確固たる秩序としては存在していなかった。
黒い靄に覆われたかのように見てこられなかった。
しかし三十世紀初頭、ある一つの転機が訪れた。
既存の人類とは比べものにはならない能力を持つ『新人類』が、ぽつぽつと姿を現し始めた。
彼らは共通して、魔力を持っていた。
最終的な人数は九人。
一人はアダムと名乗った好青年だった。
一人はイヴと名乗ったアダムの姉の美女だった。
一人はマリアと名乗った修道女だった。
一人はリリィと名乗った病によって成長の止まってしまった女性だった。
一人はピーター・パンと名乗った妄想癖のある少年だった。
一人はベルフェゴールと名乗った神を冒涜したヤンキーだった。
一人はウラスと名乗った鋼の肉体を持つスポーツマンだった。
残る二人の少年少女は名を名乗ることも、素性を語ることもなく、笑っていた。
当然、彼らは見つかり次第研究が始められた。
二九世紀に発見された魔力結晶と呼ばれる特殊な鉱石を用い、日本列島上空に浮遊国《ヴァルハラ》を築き上げ、そこで研究は行われた。
研究名は『神子産物計画』。
既存の世界に終わりをもたらすための研究兼計画だった。
数世紀後、能力社会はある日を境に完成した。
突如として世界を包み込んだ闇の光、それを浴びた者のほとんどが蒸発した。代わりに、ごく少数の者は生き延び、魔力を持ち、多種多様に渡るバリエーションを持った能力を所持した。
能力は身体能力であり、超常現象を発動出来る超能力であった。
三十世紀初頭。
始め九人でしかなかった新人類が世界人口九割を占める割合でこの世の存在している。
日本上空空中浮遊国《ヴァルハラ》を世界一の国とされた絶対的能力主義社会が、この世の秩序として鎮座していた。
ヴァルハラの者たちが目指した世界がそこにはあった。
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もう、何年も前の話――ではあるが、彼の脳裏に焼き付いて離れない、鮮烈な記憶がある。
ヴァルハラの隅っこにある煌びやかな光を放つネオン街の、これまた隅っこの森林内に邸を建て暮らしていたクーリア家は旅行に出かけていた。
潮風が鼻孔をくすぐる国内唯一のリゾート地、東はずれ街に赴き、思う存分遊んだ夜、ユキは何故か寝付けなかった。あんなにはしゃいで笑って疲れているというのに、瞼は軽すぎて降りてくることはない。仕方ないから夜風でも浴びに行こうと外に出た。
特にこれといった理由もなく砂浜を歩いていたユキは、目と鼻の先の海岸で誰かが座っているのを見つけた。
黒い影は少女らしく、髪の毛が風に弄ばれ、さらさらと靡いている。
いつもなら「……幽霊?」と言って敬遠する彼だったが、このときばかりはそうではないと直感でわかった――と言うよりかは、彼女に引き寄せられたと言った方が的確かもしれない。
ユキが海岸へと登ると、そこに少女はいなかった。
あれ、と首を捻る。幻を見ていたのか、それとも、なにかの見間違いだったか。
視力には自信があるユキであったから、目が悪くなったのかなと目を擦る。
突然背中がつんつんとつつかれた。驚いて思わずびくっと肩が跳ねて、少し恥ずかしくなる。
「ふふふっ! あはははっ! おっかしーっ!」
少女の笑い声。
ユキが顔を赤くして後ろを振り向くと、探していたであろう少女が胸を押さえて笑っていた。
腰まで伸びた綺麗な黒髪、透き通るような白い肌、膝丈の黒いワンピースの可愛らしい少女だった。
ユキはむすっとする。
「自分が驚かしたくせにそんなに笑う?」
「あはは、だってびくって……! かーわいーっ」
「なっ⁉」
男子としては大分プライドを傷つくことを言われた挙句に頭をなでなでしてくる始末だ。
それが二人にとってのファーストコンタクト、初めての会話はユキにとって屈辱的なものだったことは明確である。
少女の手が、頭から頬に移行すると、嘲笑うかのような笑いはぴたりと止まり、微笑みへと変わった。
「明日も、ここに来てくれる?」
少女は少し悲しげにそう言った。
彼女は自分はひとりぼっちでここに住んでいる、と言った。
見たところ家屋も洞窟もなく、住んでいるとしてもここではないどこかだろうとは思ったけれど、どこか嘘ではないように思えた。
ユキはうむ、と頷く。
「良いよ、また今日くらいの時間にここに来てあげる」
「本当⁉」
少女はとても嬉しそうに笑い、ぎゅっとユキの手を握りしめた。
随分と近い距離まで顔を近づけてくる。もう鼻と鼻が触れてしまいそうだった。
ここまで喜んでくれるものとは思っていなかったユキは、僅かに後ずさりながらあはは……、と笑う。すると少女の笑顔もより一層明るくなった。
「と、ところで、君は誰?」
最も基本的な自己紹介が済んでいなかったことを思い出し、ユキは訊ねた。
「ワタシは、ミュウ。あなたは?」
「オレはユキラウル、みんなはユキって呼んでる」
「そう、じゃあユキ。ちょっとついてきて」
と言って手を引いていく。
ミュウに案内された場所は森の中にある別世界だった。
淡く光輝く一本の大木を中心とした小さな広場には、たくさんの動物が遊んでいた。鹿や兎、なんと妖精のような小人がふんわりとした木の葉に腰を下ろし、羽を休ませている。
目の前に現実として存在しているこの風景が、まるで御伽噺の世界に迷い込んでしまったかのように思った。
「こんなところがあったなんて……昼間は気付かなかった」
「当たり前じゃない。ここは夜、しかもワタシと一緒じゃなきゃ来られない場所だもの」
「え、じゃああの動物たちは?」
「ここに住んでいる子たちよ」
「君もここに住んでいるの?」
「そう」
ユキは己は人間的ではないんだよ、と言っているかのような発言には気付くことはなく、圧巻の光景に見惚れていた。
目を見開きながら笑う彼を見て、ミュウは微笑んだ。
「気に入ってくれた?」
「うん! とっても良いところだね」
それから二人は、毎晩、自然に囲まれた『夢の空き地』でいろんなことをした。
他愛もない話をしたり、動物たちと触れ合ったり、総勢三十人(人+匹)での大規模な「だるまさんが転んだ」をしたり、子供の考えられる遊びは全部やってしまったと言っていい。
或る晩の夜明けの頃、ふいにミュウはこう言った。
「今晩もしワタシがあの海岸に来なかったら、ワタシを探して欲しい。諦めることなく、ずっと探していて欲しい」
「え?」
ユキの目に映ったミュウの嘘みたいな悲しげな表情が、どうしても気になった。けれどそれを訊くことは出来ず、彼は二つ返事をして諾した。
するとミュウは嬉しそうな顔をしてユキの顔に顔を近づけていく。
「ありがとう」
そう言って唇を奪った。
晩になった。
いつも通りにあの海岸に行く道中、ユキは唇に触れた。
まだあの少女の柔らかい唇の感触が残っていて、なんとも言えない気持ちになる。
にへっ。
ユキは思わずにやけた。
そうこうしているうちに、約束の海岸まで着いていた。今日は波が荒い、海岸を打ち付ける音が騒がしいほどに聞こえてくる。
「あれ?」
いつもならユキが着く頃よりもミュウは一足早くいるのだが、今日はまだいない。
たまにはこういう日もあるだろうと思い、しばらく待ってみることにしたのだが、一向に来る気配がしない。
なにかあったのだろうかと考えていると、朝方言われたことを思い出した。
――今晩もしワタシがあの海岸に来なかったら、ワタシを探して欲しい。諦めることなく、ずっと探していて欲しい。
嘘みたいな悲しそうな顔をして言った彼女を思い出した。
まさか、とあれが別れの言葉だとは思ってもみなかったユキは項垂れる。彼も明日の朝になったらこの街を出て、ネオン街へ帰ることが決まっていたため、こうなるのは遅かれ早かれだった。
だがユキはその旨をきちんと彼女に説明するつもりだったし、言い訳がましい言葉を残して立ち去ろうとは思わないし考えもしない。
少しだけ、カチンときた。
結局、朝まで粘ったが、ミュウは姿を現すことは無かった。
もう何年も前の話の一片を、今でも思い出す。
ユキは記憶の彼女に恋い焦がれるように、眠りについた。
日の出の頃にはもう既に浮遊島《バラル》に着いていることだろう。
明日の朝は早い。
ユキラウル・クーリア
年齢13歳 出身浮遊国ヴァルハラアメリカ県ネオン街 父親ルーウ 母親エミリア(賢臣) 姉ウレイ 兄アレイ&クレイ(双子) 妹ニーヴ(双子) 持病アルビノ 魔力系統多様 所有能力〈開く能力(固有・制限限定)〉〈強化〉〈身体強化(制限限定)〉〈感知(制限限定)〉〈?(制限限定)〉〈?(禁止)〉〈?(禁止)〉