第28話 草原旅行2
第28話。
2015年8月13日改稿。
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そんなあたしの様子を見ていた訳ではないのだろうが、丁度、テントを張り終えたザエルとダグラスの2人が戻ってきたので、早速ご飯にすることにした。
旅の始めに用意した皆のどんぶりへとご飯を山盛りに盛り付けて、プビックスープをどんぶりいっぱい注ぐ。ご飯の香りとスープの香りが混ざり合って、ついついあたしもお腹の虫が鳴りそうになってしまう。
「うわ、美味しそう!」
「キーリさんの料理は、ありがたいな」
「(きらきら)」
今にも涎を垂らさんばかりに料理を見つめているシャロンとザエル。その様子を見て苦笑していたダグラスも、キャンプセットの組み立て式の椅子に腰掛けた。キャンプセットは組み立て式の収納できるタイプで、勿論ザエルが旅の荷物として持ち運んでいるものだ。
おかげ、地べたでご飯を食べるという不衛生極まりない生活を送る事は免れている。
「ご飯はパンよりも腹持ち良いからな。たっぷり召し上がってもらわないと、あたしに協力してもらったお礼にならない」
「さすが、キウイ!」
そうして、あたしもシャロンの隣に腰掛けた。彼らとテーブルを囲んで晩御飯。皆で食前の祈りを捧げて、と終わったと同時にザエルとシャロンが勢い良くがっついた。ダグラスと顔を見合わせて苦笑をしておく。テーブルマナーまでザエルの真似はしないように、後でちゃんと教育しておかなければならないが。
大きめなスプーンで、熱々のご飯を啜る男2人。
いつものようにザエルはリスのようになっているし、ダグラスは猫舌なのか息を吹きかけて冷ましてから大きな口で含んでいる。
ほくほくと口の中で熱を冷ましながらゆっくりと食べているシャロン。一応この子の分は、少し水で薄めてある。火傷をしてしまわないようにと、もう一つ。成人男性用に濃い目に作ってあるので、シャロンには多少しょっぱく感じてしまうから。これも母親としてのお仕事だ。
男性陣の気持ち良い食いっぷりを安堵して見ながら、あたしも食事に取り掛かる。うん、ご飯も甘く炊き上がっているし、スープの味も申し分ない。我ながら、最高の出来である。
ほくほくと温かい料理を堪能して、しばらく。
「まさか、こんな風に贅沢な旅ができるなんて思いもよらなかったよ」
「同感だよ。最初は、どうなる事かと思ってたけどねぇ」
あたしの言葉にザエルが苦笑する。
口いっぱいに頬張って喋るなんて器用な真似をしているが、シャロンが真似をするので辞めてほしい。
「正直、『軍』の討伐作戦よりも豪勢かもしれんな。ここまで美味い炊き出しはまず出ない」
ダグラスも同意してくれたのは、幸いだ。お褒めの言葉をいただいて、少しだけ鼻も高くなる。
「お口に合って何よりだ。家にあった荷物とあわせて、食材がたんまりあるのも嬉しい限りだしな」
「母さんが料理上手で良かったねぇ、シャロン?」
「(こくこく)」
ザエルと同じく頬を膨らませたシャロンが勢いよく首を振る。頬っぺたに米粒つけて、可愛らしいったらありゃしない。
旅の目的は、街からの逃亡であった筈なのに、まさかここまでのんびりと旅行していられるなんて想いもしなかった。
それもこれも、『旅商人』として同行させてくれたザエルのおかげ。そして、護衛面で多大に貢献してくれているダグラスのおかげである。
暢気に食事をしていて大丈夫なのだろうか?
なんて頭の片隅で感じてはいても、焦る必要は無い。食事中ぐらい楽しくなければ。折角のおいしいご飯もまずくなってしまう。うん、旅生活万歳。
***
しっかりプビックスープのどんぶり掛けご飯を攻略し、片付け終わった後。
あたし達は、はテーブルセットから離れ、今度は焚き火を囲みながらシャロンの待望のザエルの寝物語。
3日目ですでに恒例とは、この先少し苦労しそうではあるものの、ザエルがシャロンを抱きかかえたままその御伽噺をしてくれているのは正直ありがたい。あたしでは、その御伽噺をしてもらった経験が少ないせいだ。
母さんは物心付く頃には亡くなっていたし、父さんにしてもらったといえば所謂英雄譚などのヒロイック・ファンタジーだ。曖昧にしか覚えていないし、子供に聞かせられない話まである。
男手一つで育てた子供ならではなのかもしれないが、あたしはワクワクしても怖いとは思わなかったけれど。シャロンにはまだ早いだろう内容は避けてくれれば、後はどんな物語でもこの子は一向に構わないだろうけど。
「今日はどんなのが良いかな~。オレもそろそろネタが尽きそう」
「まだ3日目だろう?」
「オレもそこまで詳しい訳じゃないのよ?まぁ、題材を絞っちゃえばなんとかなるけど、」
そんなこんな、ザエルが考えながら首をかしげて、ゆらゆらと体を横に揺らしている。一緒になって抱えられたままでゆらゆらしているシャロンが可愛くて、あたしは口を押さえて震える他無い。
どうせなら、地面を転がりまわってやりたいけど、地べたは流石に鎧を着ていても応える。
「3日とはいえ凄いと思うがな。オレはアレース神話か、『王族』の昔語りしか知らん」
「あー…それを言われるとあたしも同感。後、イージスの盾?だっけ」
「イージスの盾はさすがに子供に聞かせられないかもね。英雄様の化け物退治の話だし、『旅商人』の親父さんから聞いた話じゃ、そもそも…」
と、やっとザエルが、思いついたらしい。
話始めは、お馴染みの昔むかし。
「あるところに、旅人がおりました。
その旅人は王様から盗みを働いて、国を追い出されてしまった旅人でした」
冒頭から、なんとも悪い旅人が出てきたものだ。
しかも、理由は違えど、街を飛び出してきたあたしが聞いていると居心地が悪くなるような。
それでも、シャロンはそんな御伽噺を熱心に聞いている。熱心な視線に負けてか、ザエルの声にも多少熱が入る。
『昔々、とあるところに、旅人がおりました。
その旅人は王様から盗みを働いて、国を追い出されてしまった罪人でした。
食料もなく水もなく、今にも死んでしまいそうです。
旅人は神様に願います。
心を入れ替えます。だからどうか助けてくださいと。
すると、神様が森の中の泉に向かうよう言ったのです。
旅人は言われた通り、森の中の泉に行きました。
しかし、泉以外は変哲も無い森があるばかり。
旅人は首を傾げました。
しかし、泉に一度眼を向ければ、そこには、眼を疑うような光景が広がっておりました。
綺麗な水面を湛えた泉の中に、妖精達の谷があったのです。
妖精達は心優しく、今にも死んでしまいそうな旅人を迎え入れました。
ご飯とお水と暖かなベッド。
旅人はぐっすりと寝ました。
しかし、あくる日のこと。
心を入れ替えた筈の旅人は誘惑に負けて、とんでもないものを盗んでしまいました。
それは、妖精の尻尾でした。
するとどうでしょう。
妖精達はたちまち消えてしまいました。
それだけではなく、今まで旅人がいた妖精の谷も消えてしまったのです』
ああ、なるほど。物語を聞いていたあたしは一人、心の中で納得する。
一種の戒めの寓話だな。盗みを働いてはいけませんとか、嘘をついてはいけませんとかの。
「森の中に取り残されてしまった旅人は、妖精の尻尾を握り締めたまま、その森の中を彷徨い続けました。 旅人がこの後、どこにいったのか、誰も知りません」
そうして、ザエルが締めくくった話に、シャロンがぱちぱちと手を叩く。
あたしも一緒に手を叩くが、なるほどザエルは話し手としても才能があるのだろうか。一瞬、話に引き込まれていた。
「だから、シャロンも人から物を盗んだりしたら駄目だよ?旅人さんみたいに、森の中から出られなくなっちゃうかもよ?」
「(ふるふる)」
最後のザエルの脅しが怖くなってしまったのか、首を横に振ってイヤイヤをしたシャロン。すぐさまあたしの腕の中に駆け込んでくるが、眼をぎゅうと瞑って半泣きである。これはこれで可愛い。
「悪い事すると罰が当たるんだよ、って事だ。シャロンはそんな事しないでくれよ?」
「(こくこくこくこく)」
一生懸命に首を振ったシャロンは、素直で良い子である。
勿論、この子がそんな事をするとは思えないけれど、出来ればこのまま優しい子に育って欲しいという願望も込めて。
怖がらせてしまった事に多少の罪悪感があったのか、苦笑をしながら寂しくなってしまった腕を手持ち無沙汰に振っているザエル。
「ちょっと怖かったかな?」
「良い教訓の話じゃないか。まさか、あたしの事を言ってる訳じゃないだろうし」
「キウイは旅人じゃなくて『ハンター』だろ?親父さんから聞いた三原則は、この寓話から来てるって話。嘘は付くな、物を盗むな、同じ過ちを繰り返すなってね」
「なるほどね」
これはこれで、良い教訓の話を貰ったものだ。
ダグラスもうむ。と重々しく頷いているのは、似合うを通り越して達観し過ぎて老け込んで見えるのだが、口には出さないでおこう。苦笑を零して、シャロンの頭を撫でる。
「まぁ、意趣返しでもあるけどね」
その時、にやり、とザエルの口元が厭らしく歪んだ。何事かとぎょっとしたあたし達を他所に、
「『帝国』を飛び出した誰かさんにも教訓にしてやろうと思って?」
「ご教授ありがとうございます」
なるほど、意趣返しである。ザエルの御口には適いません。両手を挙げて降参を表せば、してやったりと今度はザエルが満面の笑みを浮かべていた。
先ほど、あたしの居心地が悪くなったのは、あながち間違いじゃなかったらしい。
結局、ダグラスと2人で苦笑を零す他無かったのは、言うまでも無い。
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※作中の妖精達の物語は、作者の創作です。
実際には存在しない話ですので、ご了承くださいませ。
誤字脱字乱文等失礼いたします。




