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シルヴェスタ城~王の間5

 手が……震えた。


(ありあ……っ!!)



 グラントはもう一度、柄を握りなおした。赤い瞳を釣り上げて……薄っすらと笑う『ありあ』に剣先を定める。



 ――……を


(!?)

 頭の中に……直接響いてきた、声。


 ――胸の中央……闇が巣食う場所


(胸元……?)

 グラントは『ありあ』の胸元を見た。巫女の石と……ありあが向こうの世界でもらった、と言っていた十字架の石が、光って……る!?


(その……後ろ……!?)

 胸に感じる……どす黒い気配。あれのことか!?


 ――黄金(きん)の炎と共に……闇を貫いて


「黄金の炎……っ」

 グラントは部屋の中央を見た。確か、青い石の中に……!!


 グラントは目を見張った。

「リカルド!?」

 

 ――グラントが叫ぶのと同時に


 ――リカルドの剣が、青い石に振り下ろされた。

 

 ……キイィイーン……


 澄んだ高い音が部屋中に響いた、その刹那――。

「……っ!」

 眩しい金の光が部屋中に満ちた。思わず右手で目を覆う。魔方陣から風が巻き起こり、魔法石が次々と高い音を立てて割れていく。

あの時(剣技会)と……同じ……っ!)

 グラントは膝を落として風圧に耐えた。

「リカルドっ!? 一体何をっ!!」

 アスタリア妃の叫び声。ガラスの割れる音。何かが次々と壊れていく様な音が響く。


「グギャアアアアアアアッ!!」

 『ありあ』の口から悶絶するような声が上がり、痛みに耐えるように身をよじり始めた。黒い霧が、金の炎に燃やされていく。

「!?」

 グラントの持つ剣に……金の炎が映り……刃が金色の輝きを帯びた。


「――っ」


 グラントは悶え苦しむ『ありあ』目がけて、床を蹴った。

(――ありあっ!!)

 一気に『ありあ』の前に立ち――金色に輝く剣先を、渾身の力で、胸の中央に突き刺した。


**************************************************


!?


 地震のように、あたりが揺れた。

(なに……!?)

 ありあは周りを見回した。


 ――戻りますよ、ありあに


 ……え……


 ぐらり、と足元が揺れ……黄金の光がありあを包んだ。

「きゃ……!!」


 あまりの眩しさに――ありあは気を失った。



**************************************************


「ギャアアアアアアアアッ!!」

 『ありあ』が断末魔の叫び声を上げた。剣が突き刺さった個所から、黒い霧が蒸発するように消えていく。黄金の炎が、ありあの身体を覆い、闇を焼き尽くしていく。


 ――ふっと炎が消えた時……胸に深く突き刺さっていた剣が、床に落ちた。ゆっくりと……ありあの身体が崩れ落ちていく。

「ありあっ!」

 グラントが手を伸ばし、床ぎりぎりのところで抱きとめる。ぐったりとした身体。剣で刺したところは、服は破れているが血も流れていない。

「闇の気配……が、消えて……?」

 だが、身体は……冷たく動かないままだ。

(命が……ない、状態……?)


 ――リリーン……


 澄んだ不思議な音色が辺りに響いた。ありあの胸元の巫女の石と――十字架の石が金色に輝き、天に向かって光の帯ができていた。


「っ、あれば……っ!?」

 アスタリア妃の声が聞こえた。リカルドも呆然と突っ立っていた。


「あれ……は……」

 グラントは……上を向いまま、呟いた。


 ……二つの光の帯が交差し……眩い空間に、金色の人影が浮かんでいた。ゆっくりとその人影が、ありあに向かって右手を差し伸べた。ちょうど胸の中央に右手をかざし――影が言った。



「「黄金の炎よ、巫女の身体に戻りて、命となれ」」


 ――まるで和音のように、二重に聞こえた声。その響きが、不思議な旋律と共に、部屋中に広がった。水晶をぶつけたのような、やわらかく澄んだ、不思議な音色が、全てを浄化するように部屋を満たしていく。


「っ!?」

 眩しい。金色の光が……炎が、ありあの身体に吸い込まれる様に消えていく。

 ぼうっと……ありあの身体が金色に輝いた……かと思うと、すっとその色が消えた。


「あり……あ……?」

 グラントは腕の中にいるありあを見た。先程まで……冷たかった身体が……温かくなっていた。

「ん……」

 睫毛が揺れ……ゆっくりと瞼が上がる。漆黒の瞳が――グラントの瞳を捉えた。

「グラ……ント……?」

 ありあの声、だ。ありあ、の。

「グ、グラントっ!?」

 やわらかくて、温かい感触。グラントはありあを強く、強く抱き締めていた。


**************************************************


 グラントに……ぎゅうううって、抱き締められてる!?

(く……くる、し……)

 ありあはグラントの背中をぽむぽむと叩いた。

「く、苦しいっ、グラントっ」

 ふっと、グラントの腕の力が抜けた。

「ふうううう……っ」

 ありあは大きな息をした。ち、窒息するかと、思った……。

「大丈夫か、ありあ!?」

「う、うん……」

 よく覚えてないけれど……確か、アスタリア様に……


「ば……かな! 光の巫女はこの娘しかおらぬはず……っ!!」

 ありあとグラントは、声のした方を見た。真っ青な顔でわなわなと震える、アスタリア妃の姿がそこにあった。

 グラントは立ち上がり、ありあに手を貸して立ち上がらせた。


 リリーン……


 また音が鳴り響いたかと思うと……ガラスの筒にぴしっとひび割れた入った。

「!?」

 アスタリア妃の顔色が変わった。ガラスの筒にすがりついて、叫ぶ。

「陛下っ!?」

「陛下……だと!?」

 グラントの顔も強張った。

「さっき……リカルドが『父を陛下の身代わりに』と言っていた……が……」

「とうさまなの、グラント」

 ありあはグラントの腕を握り、顔を見上げていった。

「あれは……とうさまなのっ!!」

「父上!?」

 グラントは真っ直ぐに空に浮いている生首、を見た。


 ――音もなく、ぴしぴしとひび割れていくガラスの筒。そこから、青い光が染みだすようにこぼれ落ちていた。

「力が……足りぬ……っ!」

 アスタリア妃が両手を広げ、呪文を詠唱したが……ひび割れは止まらない。


『も……う……』


 部屋に響く……低い声。


『終わり……にしよう、アスタリア……』


「へ、いか……?」

 呆然としたアスタリア妃の声が……ありあに聞こえた。


『すま……ない……そなた、の想いに……向き合え……なかった……』


 ウィリアム前国王の瞳が――グラントを捉えた。


『お前……にも、済まない、事をした、グラント……』


「ち、ちうえ……?」

 グラントの声も……動揺しているかのように、掠れていた。


『……リデアが、死んだ……のは、私の、せいだ……』

「な……にを……」

『お前……たちを……守れなかった……』

(……とうさま?) 

 ウィリアム前陛下の青い瞳が、ゆっくりと、グラントに寄り添うありあを見た。


『……アーリャ……』

「……とうさま……?」

『私の……娘……』

「!?」

 ありあは目を見張った。とうさま……今、なんて……

『……こうなる前に……お前を……愛すれば、よかっ……た……ファーニアを……手に、かける……前に……』

「とうさまっ!」

 ありあはひび割れだらけとなった、ガラスの筒に向かって叫んだ。

「かあさまは、とうさまを、お好きでした!! とうさまの事……大切に思ってるって、いつも言ってた!!」

『……ファーニア……が……?』

 ガラス越しの青い瞳が……揺れた。

「だから……とうさま……」

 ありあは、思いきり叫んだ。

「……もう、自分を責めないで下さいっ!! かあさまも……私も、そんな事、望んでません!!」


 ゆらり、とガラスの中の首が……揺れた。




『……そ、うか……』


 ――一瞬……ウィリアム前国王が、微笑んだ、ように、見えた。



 リリーン……


 ――その最期の音と同時に……ガラスの筒が粉々に砕けた。

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