シルヴェスタ城~王の間4
闇の刃が風を切り、グラントを狙ってくる。剣で薙ぎ払いながら、ありあに近づく。
「ありあっ!!」
グラントの呼び掛けにも、ありあの表情は全く変わらなかった。
「くっ……!」
闇の霧の中。前よりは若干ましだが……いずれ身体が動かなくなる。
(ありあの……心、は……)
ありあの身体から感じるのは……闇の気配、のみだった。普通の人間なら……身体が腐り始めているだろう。だが……
(光の巫女の身体が……闇の力に耐えているのか……っ)
剣技会の時と、同じ。闇の眷属に憑りつかれた男は……結局……
(俺が……この手で……)
依代となる身体を壊した。霧のようになって、霧散した身体。ああしなければ、他にも犠牲者が出た
闇の力を駆使するありあをグラントは見た。身体が持つ以上……このままでは、ありあは『闇の眷属』として他の人間の命を奪うだろう。
ありあは……恐らくそんな事は望まない。
グラントは……真っ赤に染まったありあの瞳を見た。ありあが決してしなかった、歪んだ笑顔も。
――俺が
――ありあを
――殺さなければ、ならない、のか
……かつて、闇に染まった父を殺したように
右から来た闇の刃を、剣で切り裂く。左腕に……痺れが走る。グラントの顔が一瞬歪んだ。
(……きたかっ……)
ありあが編んでくれた、覆い。あれのおかげで……闇からの影響を受けずに済んできたが……
(闇の霧の中では……もたない、か……)
『ククク……コノ身体、攻撃デキヌノカ。ナカナカヨイゾ……光ノ巫女ノ身体ハ』
ありあの口から……闇の眷属の言葉が洩れる。
『……グラント』
ありあの声。笑顔。優しい手。それら全てが――消え失せようとしている。
グラントは一瞬目を瞑り……そして開けた。目の前の『ありあ』を真っ直ぐに見据えた。
(ありあ……俺は……)
――俺は、お前を
……グラントは剣先を……『ありあ』の心臓に定めた。
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「母上!」
リカルドはアスタリア妃に詰め寄った。
「アーリャ様を元に御戻し下さい! 彼女は関係ない!」
アスタリア妃は……ゆっくりと手を伸ばし、リカルドを抱いた。
「リカルド……私の可愛い子。そなたは、何も心配せずともよいのです」
「……母上……っ」
「あの巫女姫の命の炎……あれがあれば、陛下の身体を甦らせる事ができるわ」
「!?」
「そうすれば……やっと三人で……」
光の巫女の命の炎!? リカルドは辺りを見回した。
(魔法石……!?)
ガラスの筒を取り囲む魔方陣。そこに配置された青い魔法石。いつもは青い光のある部分に……揺らめく……黄金の炎。
剣技会で見た、黄金の炎。あれとよく似ている。
(あれが……アーリャ様の命……?)
「……光の巫女をあの男の傍にいさせるわけにはいきません」
「母上っ……」
「あの女の息子が……王太子になれたのも、光の巫女の後見あってこそ。同じ過ちを繰り返すわけにはいかないわ」
「……」
「光の巫女がいれば……また、あの男を王に、と担ぎ上げる輩が出てくるでしょう。そう――あのヴェルナーのように」
アスタリア妃がそっと手を降ろした。ふっと笑ったアスタリア妃の笑顔は……リカルドが幼い頃から見てきた優しい母の笑顔、だった。
「見ていなさい……陛下が蘇るところを」
アスタリア妃が詠唱を始める。グン……と振動音が王の間に響いた。六つの魔法石から……金色の光の柱が立ち、まるで縄を編むように、ガラスの筒を覆っていく。
ゴボン……ウィリアム前国王を取り巻く青い光が、水のように揺れた。
「……っ!」
リカルドはグラントの方を見た。闇の霧の中――闇の刃を繰り出すありあに対し、防戦一方となっている。
(おそらく……彼は……)
もう分かっているだろう。その『ありあ』を放置すれば……闇の犠牲者が出る、と。『王』である彼が……見過ごせるわけは、ない。
――いけない
「!?」
リカルドは辺りを見回した。誰だ!?
――黄金の光……巫女の、元へ
心に浮かぶ言葉。リカルドは……魔法石、を見た。魔方陣を構成する要素は……一つでも欠ければ、魔力のバランスが崩れ、術式は失敗する。
アスタリア妃の詠唱は続いている。一心不乱に……古代語を唱えていた。
(母上……!!)
母の願いは判っていたはず、だった。母が愛した、たった一人の御方。その御方に……
リカルドは……暫く突っ立ったままだったが……つと、腰から剣を抜いた。ゆっくりと魔方陣に近づく。
――そして、彼は
――魔方陣を取り巻く青い魔法石の一つに……その剣を振り下ろした。




