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シルヴェスタ城~王の間3


 ――……セ


「……」

 アスタリア妃は、王の間の一角を見つめた。ぼんやりと感じていた闇の気配が……次第に強くなっていく。

「闇の……眷属……」

 黒く禍々しい気の渦が……王の間に現れた。アスタリア妃は表情を変えぬまま、じっと闇を見ていた。



 ――ソノカラダ……ヨコ……セ……



 アスタリア妃は、自分足元に転がるありあ、を見た。命の炎を抜いた、ほぼ抜け殻に近い身体。ぐったりと床に横たわり……目は半開きで、虚ろなままだった。

「……あの力を保有できる身体……器として欲しいのか」

 実態を持たない闇の眷属が、この世で力を振るうには……依代(よりしろ)が必要だ。光の巫女姫の身体は、魔力に対する耐性が高い。並みの人間の身体ならば耐えられない闇の力にも、耐える事ができるだろう……。


 ふふふとアスタリア妃の口元が歪んだ。憑依した闇の眷属を倒すには……方法は一つしかない。依代の破壊、だ。

(あの男……壊す事ができるのかしら? 光の巫女姫の……身体、を)


「……構わぬ。この身体、そなたらの好きに使うがよい」


 闇が一瞬で濃くなった。ありあの身体を真っ黒の霧が覆い……それが身体の中に入り込んでいく。命のない身体は……何の抵抗もなく、闇の力を受け入れていた。




 ――やがて……ゆっくりとありあが身体を起こした。


 ……闇を纏ったありあの、その瞳は……赤かった。


*******************************************************


 ……嫌な、予感がする。


 王の間に向かっているグラントは、先程から感じる不気味な気配に、言いようのない不安を抱いていた。


(アスタリア妃は……危険、だ)

 光の巫女姫であるありあに、直接手出しはしていなかったが……狂気にかられている彼女は何をするかわからない。


「……ここです」

 リカルドが金属製の扉の前で立ち止まった。青い石に、その手をかざす。


 ――音もなく、扉が左右に開く。グラントは薄暗い王の間に足を踏み入れた。


「……ありあっ!!」


 ――グラントの目に入ってきたのは――


 部屋の中央に、ぼんやりと青く輝く巨大なガラスの筒。床の魔方陣……そこに配置された青い石の中に、黄金の炎が揺らめいていた。ガラスの筒に浮かぶ……人の頭。

 (ありあが言っていたリチャード公の首……!?)

 そして、そのガラスの筒の前に……立つ、黒い髪の少女。


「――!?」

 駆け寄ろうとしたグラントの足が止まった。ありあの身体から感じる……のは。

「闇……の気配……?」

 ありあがゆっくりとグラントを見る。グラントは息を呑んだ。

「アーリャ様!?」

 リカルドが叫ぶ。


 ありあの表情は……ガラスのように冷たかった。そして、その瞳は……

(――赤い!?)

 毒々しいまでに真っ赤な瞳……闇の力の象徴。

 にやり、とありあの口元が歪んだ。

『……封魔ノ力ヲ持ツ者、カ……』

 耳障りな声。ありあの声ではない。

『コノ身体……我ノモノ……』

「ありあをどうしたっ!!」

 グラントの叫びに……澄んだ声が答えた。

「……その身体でしたら……命の炎を抜いた、ただの抜け殻……」

「!?」

 右手奥にいたアスタリア妃が、ゆっくりと歩いてきた。

「母上……」

 リカルドの声も……呆然としていた。


「アスタリア妃……何を……っ!!」

 睨みつけるグラントの視線にも、アスタリア妃は全く動じなかった。

「……その娘……どうあっても、リカルドの妃になる気はない、と」

「!?」

 グラントは目を見開いた。くすくすと笑う声が、王の間に響いた。

「傍にいたい……と。お前の……な」

「な……」

「王であろうとなかろうと……お前の傍にいる、と言っておったわ。あの娘は」


 グラントは声を出す事ができなかった。ありあが……俺の傍にいると、言った……?


(まさか……ありあ……)

 思い出していたのか!? 俺の事、を……


 アスタリア妃の瞳が狂気に染まった。

「……その娘から命の炎を抜いてやったわ。リカルドの妃にならぬなら……その力を利用させてもらう、そう思ってな」

「!?」

 命を……抜いた、だと!? グラントはアスタリア妃とありあ、を見た。

(抜いた後の身体に……闇の眷属を憑依させたのかっ……!!)

 グラントは剣を抜き、アスタリア妃に向かって構えを取った。アスタリア妃はゆったりと微笑んでいた。

「その娘に……命の炎を戻す事は、私にもできぬ。私に出来る事は……ただ、奪うのみ」

「……っ……」

「それが可能なのは……光の巫女だけだ。だが……」


 ――今、存在している光の巫女は……ありあしか、いない。


 ぎり、とグラントは歯を食いしばった。柄を握る手に……力が入る。


「……この娘を大切にしていたそうだな。ならば、その者の手で、死ぬのが幸せというものだろう」 

 ありあが一歩、前に出る。ゆっくりと右手を上げ……グラントに向かって、その手を振り下ろした。

「!」

 グラントは横に飛んだ。頬が切れ、血が飛ぶ。闇の刃が王の間を切り裂いて……いた。


『……死ヌガイイ……』

 ありあだった身体から、闇の霧が立ち上り……王の間は、深淵の闇に包まれた。

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