二人の王子~ファーニア=レヴァンダ=グラディノール視点
……ああ、やっと
やっと……会う事が出来た。
王座の前で拝礼を取る王子の姿に……私は胸が熱くなった。
――グラント=アルシュ=グラディノール。ウィリアム陛下の第一王子。幼い頃王宮を離れ……陛下の即位と共に王宮に呼び戻された彼は今、何を考えているのだろう。
ヴェルナ―伯爵からグラント王子の事を伺った時……陛下に王子を呼び戻すよう進言したのは、私だ。
(私が……あなたの運命を歪めてしまったのかも、しれない……)
貴族達が、必ずしもグラント王子の帰還を喜んでいない事も……判っていた。それでも……私は、彼に戻って来て欲しかった。
――なぜなら
彼は……『守護者』になり得る人間、だから。
――七年前、血まみれで巫女の塔に運ばれてきた子ども。目の前で御母君を魔道士に殺され……怒りに我を忘れて、自らが持つ『封魔の力』に呑みこまれるところを、御母君の心によって救われた、小さな命。
『あの子はいずれ、私達に関わるようになるかもしれない』
双子の姉、カテーリアの預言。それが今日……現実のものとなった。
(あの時は……グランディアの王子だとは思っていなかったけれど……)
あの幼子は、目の前の凛々しい少年へと成長していた。この子は……おそらく、自分のため、ではなく、周囲の人間の為に、この場に立っているのだろう。敵意に囲まれた、この空間に。
『封魔の力』、『王の光』……そして、他者を思いやる心に、自らを制する力。これだけの資質を兼ね備えた人間など、そうそういるわけがない。
(光の神よ……)
私はゆっくりと目を瞑った。光の神……あの時、私に命と力を分け与えて下さった神に……感謝を捧げた。
(この子を……守護できる人間を、遣わして下さった事に……感謝いたします……)
今……私の中で育ちつつある命は……いずれ
(光からも闇からも、追われる可能性が、ある……)
『神降し』は失敗したと見せかけてはいるが……光の神の子だと知れれば、巫女の塔に連れ戻されるに違いない。そして、一生……闇との戦いに身を投じなくてはならなくなるだろう。
闇の眷属にしても……力の強い光の巫女は、脅威の存在であるのと同時に、美味い餌でもある。力が目覚める前に、その心を闇に染めれば……闇の巫女、にもなり得るのだから。
光からも闇からも……この子を護る事の出来る、絶対的な守護者。それが……彼、だ。
(グラントが……この子の事を、どう思ってくれるのかは、今はまだ、わからないけれど……)
でも、きっと。大切にしてくれるに違いない……小さな妹姫を。予知能力のない私だけれど……グラントが小さな赤ん坊を優しく抱いている姿が、目に浮かんだ。
……私は王妃の座から降り、グラントの元へ歩み寄った。そして……その肩に手をかけた。
「……この子は、『王の光』をその身に宿しています」
「必ずや、素晴らしい王となるでしょう。……王宮に慣れていない、とおっしゃるのであれば、この私が、グラント王子の後見人となります」
……そう言うと、グラントは驚いたような目を私に向けた。私は彼を抱き締めて微笑んだ。
「……あなたは私の息子よ。今日から、ここで一緒に暮らしましょう」
あなたには……重荷を背負わせてしまうのかも、しれない。だけど……
(――この子にも、あなたにも、幸せになって欲しい)
……私はそう、心の中で呟いた。




