二人の王子~ジェヴェタイア=ヴェルナー視点4
――ウィリアム陛下御子息、グラント=アルシュ=グラディノール王子殿下帰還――
その知らせは、瞬く間にグランディア全土に広がった。そして王宮内では……
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――何年も前に行方不明になっていた、グラント王子だと!?
――本物なのか!?
――しかし、あの容姿に銀の瞳。本人には違いあるまい。
――また、あのヴェルナーの仕業か。陛下に取り入りおって……
――使用人としてお育ちになられたとか。そのような者が、この大国グランディアの王子に、だと!!
――我がグランディアには、すでにリカルド王子がおられるではないか! 今更グラント王子など……
――王太子にはどなたがなられるのか。我々は……
――アスタリア妃殿下が黙ってはおられまい。グラント王子を推すことは、妃殿下の御不興を買う事になるぞ。
――……
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……貴族達の反応は、予想通り、というところだった。グラント王子に好意的な意見など、ありはしない。
私は荘厳な雰囲気の中、執り行われている戴冠式を見守りながら、今後の事を考えていた。
――王子はまだ、陛下へのお目通りが叶っていない。まずは、戴冠式と婚姻式を終わらせ、ウィリアム陛下が正式な王となり……巫女姫ファーニア様が正妃となられてからの方がよい、との判断からだ。
(陛下と正妃のお言葉であれば……貴族共の反対も抑え込めるはず……)
……私の脳裏に過ぎった、青い瞳。私は戴冠式の最前列で列席している、アスタリア妃殿下を見た。
銀の髪を高めに結い上げ、白と金のドレスを着た、さながら女神のような容姿。賢妃と名高く、リチャード元王太子殿下への献身的な看護も知らぬ者はいない。加えて、ご子息のリカルド王子は、王太子としての教育を受けられていたこともあり、剣の腕も優秀、知性的で穏やかな御方だ。
(王太子には、リカルド王子を、との意見が多いだろう……)
私は、グラント王子の真っ直ぐな瞳を思い出していた。王子として御育ちでないにも関わらず……グランディアの王子として恥ずかしくない、強い意志を秘めた聡明な御方だ。
王宮で御育ちになられていたのであれば……あの御方を王太子にすることに、誰も反対などしなかっただろう。私は知らず知らずのうちに、拳を握りしめていた。
――最期まで、グラント王子を案じておられたリデア様。グラント様が王子として生きる事は……あの御方の意志ではないのかもしれない。
(それでも……私は……)
グラント様が、王座につくところを、見たい。我が剣を捧げたウィリアム陛下の、血を分けた唯一人のご子息。王としての資質は十二分にある。必ずや、あの御方は素晴らしい王になられるはずだ。
私は……頭上に冠をいただく陛下のお姿を目に焼きつけながら、決意を新たにした。
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『……グラントが帰還した、とな?』
『はい……そのようでございます』
『本物か?』
『あの容姿……恐れながら、リカルド様に瓜二つ、でございます。疑いをかけている貴族共も、姿を見れば……』
『……』
『……いかが致しましょう』
『今は……あのヴェルナーの事、グラントの周りの警護を固めておるはず。陛下の戴冠式に、騒ぎを起こす事はできぬ』
『……では』
『……機会、を待つ。隙は……いくらでもあろう。あやつらから目を離すでない』
『……仰せのままに』
暗闇に響く……抑揚のない声。
『あの女――死してもなお、我の邪魔をするのか』
『許さぬ……許さぬぞ』
『グランディアの王に相応しいのは、誰なのか……あの女の息子にも、わからせてやろうぞ』
――闇の中に、声はかき消えていった。




