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二人の王子~グラント視点2

馬車に揺られながら、俺は窓から外を見た。森と森の間の、少し開けた場所。山間の空気は、少し冷たかった。


(……あれが……)


 前方に見える、小さな集落――アルシュの村、だ。先を急いでいる事は判っていたが……どうしても行きたい、とヴェルナー伯爵に我儘を言わせてもらった。


(あそこに……かあさまが……)


 魔道士から俺を庇って亡くなった、という俺の母親。ぼんやりとしか思い出せないが……城に戻る事を、墓前に報告したかった。


(かあさまは……よろこんで、くれているだろうか……)


「――多分。よろこんでくれていると思うよ?」

 俺は目を見開き、目の前に座っている、ジェラルドを見た。

「王宮に帰る事、母上はどう思ってるんだろうって、考えてたんだろう?」

 ……本当に、ジェラルドは鋭いな。隠し事はできない。俺は苦笑した。

「かあさまは……俺を連れて故郷に戻るところを、襲われた、と聞いた。王宮から俺を出す気だったんだ。だから……」

 ジェラルドの言葉が、俺の言葉を遮った。

「……君が王子に戻る事をよろこばれてるんじゃない。本当の父上と会える事を、よろこばれてると、僕は思うよ」

「……そう……かもな……」

父上の記憶は、ほとんど残っていない。身分の低い側室だったかあさまは……滅多に王宮に足を踏み入れなかった、と聞いた。多分、俺も同じだったのだろう。

(父上は……どのような方、なのだろう……)

 鬼神と呼ばれる剣の達人。公平で聡明な王子。それが、ウィリアム新陛下の評判だ。

(父上は……かあさまを……)

 ジェラルドの言葉が、俺の思いを遮った。

「……あのね、グラント。君が何を考えてるのかは、わかるよ? でも……」

 ジェラルドの緑の瞳は――宝石のように澄んでいた。

「君がいるってことが……ウィリアム陛下が君の母上を大切に思っていた証拠だよ。僕の父上に君を預けたのも、みな君のためを考えて、の事だ」

「……」

「王宮に行って、直接陛下に聞けばいいよ。何と言っても、君の父上なのだから」

「……ありがとう、ジェラルド。俺は……助けられてばっかりだな」

 くすくすとジェラルドが笑う。

「大丈夫。この恩はちゃんと返してもらうから」

 からからと馬車の車輪の音が響く。アルシュの村は――もう目の前、だった。


*******************************************************


 村はずれにある、墓地を目指して歩く。目立たないように、と黒いフード付きのマントを見に纏っていた。馬車は一つしかない宿屋に止めた。旅人が墓地に行くのがめずらしいのか、村人たちが、ちらちらと俺とジェラルドを見ていた。


 人気のない墓地の入り口付近で、同じようなフードを被った二人組とすれ違った。互いに頭を下げる。

「……ここは、もう浄化されました。行きますよ、ロッテ」

「――はい、おばあ様」

 すれ違いざまに、聞こえた会話に、思わず振り返った。小さい人影のフードが風に揺られ……長い黒髪が一房、こぼれ落ちていた。

(……めずらしいな……)

 レヴァンダ皇国にしか、黒髪はいないと思っていた。しばらく、二人の後ろ姿を見送った。

「……どうしたの?」

 ジェラルドの声に、俺は振り返った。

「……何でもない」

 俺は、ジェラルドと共に、墓地に足を踏み入れた。


 小さな墓石が、綺麗に並んでいた。草の手入れも……してくれているらしい。墓石の周りは綺麗な花が咲いている。俺はヴェルナー伯爵から聞いた、一番奥の墓石へと向かった。


 ――名もない、小さな白い墓石。周りに紫色の花が咲いていた。誰かが、植えてくれたのかもしれない。小鳥の鳴き声が聞こえた。

俺は、跪き――頭を下げて、祈りを捧げた。


(……かあさま。俺は……王宮に、グランディア城に行きます。俺を……護ってくれて、ありがとう)


 さあっと風が吹いた。花が揺れて、花弁が風に舞う。青い空に踊る紫色の花弁を、見上げた。


『――グラント』

 優しい声が……聞こえた、気がした。きっと、かあさまにも届いた。そう思えた。


 俺はもう一度頭を下げ――立ち上がった。そして、同じように立ち上がったジェラルドと共に、かあさまの元を立ち去った。

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