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二人の王子~グラント視点1

「……そうか、王宮に上がる事になったのか。寂しくなるが……お前の為にはそっちの方がいいんだろうな。向こう行っても頑張れよ? アル」

「……はい、ありがとうございます、ジル親方」

 俺は、柄にもなく少し潤んだ瞳のジルに頭を下げた。結局、『アルシュは騎士見習いとして、ジェラルドにつき王宮に上がる』ということになり……お世話になった人達へお礼を言って廻っている所だった。

 王宮に行けば、今まで経験した事のない争いに巻き込まれるのかも知れない。だが……

(この人達の為にも……)

 ジルの元を立ち去りながら、俺は……どうすればよいのか、まだわからないけれど……自分にできる精一杯の事をやろう、そう決意を新たにした。


(そう言えば……ジェラルドは……)

 早足で城を巡りながら、俺はジェラルドとの会話を思い出していた。


*******************************************************


『……ジェラルドは最初から知っていた、のか? 俺が……』

 ――ヴェルナー伯爵との会見後、俺はジェラルドに聞いてみた。

『え? ううん、知らなかったよ? 父上に言われるまでは』

 ジェラルドはあっさりと首を横に振った。

『僕が君に目をつけたのは、偶然なんだよ。最初、父上は僕が君に近づく事を反対していた』

『……』

『てっきり、君の身分がどうのこうの、言うのかと思っていたけれど……僕が君の傍にいることで、君に注目が集まるのを避けたかったらしい』

 結局、ジェラルドが諦めなかった?ため、渋々ヴェルナー伯爵が俺の身元を明かしたらしい。

『やっぱりな~って思ったよ。どこか人と違ってたから。グラントは』

 ……自分では全く判らないが……ジェラルドが人を見る目は確かだから、何か、が違っていたのだろうな。俺はぼんやりと、そう思った。

『……僕は君を選んだんだ、グラント』

『ジェラルド?』

 緑の瞳が――いつもとは違う、光を宿していた。

『ウィリアム陛下でもなく、リカルド王子でもなく……、君を――グラント王子を選んだんだ。それを忘れないで欲しい』

『……』

 ジェラルドの言葉は……純粋に、嬉しかった。

『……ありがとう、ジェラルド』

 くすり、とジェラルドが笑う。

『王宮に行ったら、きっと大変だよ? 僕もたまに行くと、酷い目に遭ったりするんだよね~』

『……そうか』

 何年もの間、行方不明だった王子。本物か、と疑われることもあるだろう。自分でも信じられないぐらい、なのだから。

『……多分、グラントが思ってるのとは、大変の意味が違うと思うけれど』

 ぼそっとジェラルドが言い……そして、俺の肩をぽん、と叩いた。

『僕がついてるよ。だから、大丈夫』

『そうだな……』

 俺はジェラルドに頷いた。不安がないとは言えない。だが……俺には、支えてくれる人がいる。胸の前で、右の拳を握りしめた。この温もりを……忘れないように。


*******************************************************


(俺がグラントだろうと、アルだろうと……全く態度が変わらなかったな……)

 ある意味、大物なのかもしれない。ジェラルドは。


 ……考え事をしていた俺の目に、中庭の緑が入って来た。綺麗に刈り込まれた庭園。よくジェラルドと試合をした。次にこの庭を見るのも……随分先になるのだろうな。そう思うと、少し寂しくなった。


「あーっ、いたいたーアルーっ!」

 顔を上げると、向こうからジェラルドが走って来た。

「もう挨拶回りは終わった頃だろう? (グラント)に戻る時間だよ」

「ああ」

 髪を……元に戻すのだった。

 早く早く、とジェラルドに急かされながら、俺は城の一角へと連れていかれた。


*******************************************************


「……これは……!」

 ヴェルナー伯爵が、感極まった様な声を出した。

「……アルからグラントになったね。ほら、見てごらんよ」

 ジェラルドに言われて、俺は目の前の鏡、を見た。


 ――銀に近い様な金髪に……銀色の瞳。ぼさぼさだった髪も、綺麗に整えられていた。貴族が着る、濃い青色の上等なチェニック姿も見なれないせいか、少し気恥ずかしかった。


「……ウィリアム陛下の若かりし頃に瓜二つ……。このお姿を見れば、貴方がグラント王子であることを、誰も疑わないでしょう」

「そう……でしょうか」

「本当、陛下にそっくりだよね。……と言うより……」

 ジェラルドは少し言い淀んだ。

「……それは、王宮に行けば判る事。余計な事を言うでない、ジェラルド」

 ヴェルナー伯爵がジェラルドを制した後、俺を見た。

「……では、参りましょうか。陛下が貴方のお戻りを、今か今かと待ち望まれています」

「はい」

 ヴェルナー伯爵とジェラルドに続いて……俺は部屋を出た。


 ――アルシュではなく……グラント、として。

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