二人の王子~グラント視点1
「……そうか、王宮に上がる事になったのか。寂しくなるが……お前の為にはそっちの方がいいんだろうな。向こう行っても頑張れよ? アル」
「……はい、ありがとうございます、ジル親方」
俺は、柄にもなく少し潤んだ瞳のジルに頭を下げた。結局、『アルシュは騎士見習いとして、ジェラルドにつき王宮に上がる』ということになり……お世話になった人達へお礼を言って廻っている所だった。
王宮に行けば、今まで経験した事のない争いに巻き込まれるのかも知れない。だが……
(この人達の為にも……)
ジルの元を立ち去りながら、俺は……どうすればよいのか、まだわからないけれど……自分にできる精一杯の事をやろう、そう決意を新たにした。
(そう言えば……ジェラルドは……)
早足で城を巡りながら、俺はジェラルドとの会話を思い出していた。
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『……ジェラルドは最初から知っていた、のか? 俺が……』
――ヴェルナー伯爵との会見後、俺はジェラルドに聞いてみた。
『え? ううん、知らなかったよ? 父上に言われるまでは』
ジェラルドはあっさりと首を横に振った。
『僕が君に目をつけたのは、偶然なんだよ。最初、父上は僕が君に近づく事を反対していた』
『……』
『てっきり、君の身分がどうのこうの、言うのかと思っていたけれど……僕が君の傍にいることで、君に注目が集まるのを避けたかったらしい』
結局、ジェラルドが諦めなかった?ため、渋々ヴェルナー伯爵が俺の身元を明かしたらしい。
『やっぱりな~って思ったよ。どこか人と違ってたから。グラントは』
……自分では全く判らないが……ジェラルドが人を見る目は確かだから、何か、が違っていたのだろうな。俺はぼんやりと、そう思った。
『……僕は君を選んだんだ、グラント』
『ジェラルド?』
緑の瞳が――いつもとは違う、光を宿していた。
『ウィリアム陛下でもなく、リカルド王子でもなく……、君を――グラント王子を選んだんだ。それを忘れないで欲しい』
『……』
ジェラルドの言葉は……純粋に、嬉しかった。
『……ありがとう、ジェラルド』
くすり、とジェラルドが笑う。
『王宮に行ったら、きっと大変だよ? 僕もたまに行くと、酷い目に遭ったりするんだよね~』
『……そうか』
何年もの間、行方不明だった王子。本物か、と疑われることもあるだろう。自分でも信じられないぐらい、なのだから。
『……多分、グラントが思ってるのとは、大変の意味が違うと思うけれど』
ぼそっとジェラルドが言い……そして、俺の肩をぽん、と叩いた。
『僕がついてるよ。だから、大丈夫』
『そうだな……』
俺はジェラルドに頷いた。不安がないとは言えない。だが……俺には、支えてくれる人がいる。胸の前で、右の拳を握りしめた。この温もりを……忘れないように。
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(俺がグラントだろうと、アルだろうと……全く態度が変わらなかったな……)
ある意味、大物なのかもしれない。ジェラルドは。
……考え事をしていた俺の目に、中庭の緑が入って来た。綺麗に刈り込まれた庭園。よくジェラルドと試合をした。次にこの庭を見るのも……随分先になるのだろうな。そう思うと、少し寂しくなった。
「あーっ、いたいたーアルーっ!」
顔を上げると、向こうからジェラルドが走って来た。
「もう挨拶回りは終わった頃だろう? 元に戻る時間だよ」
「ああ」
髪を……元に戻すのだった。
早く早く、とジェラルドに急かされながら、俺は城の一角へと連れていかれた。
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「……これは……!」
ヴェルナー伯爵が、感極まった様な声を出した。
「……アルからグラントになったね。ほら、見てごらんよ」
ジェラルドに言われて、俺は目の前の鏡、を見た。
――銀に近い様な金髪に……銀色の瞳。ぼさぼさだった髪も、綺麗に整えられていた。貴族が着る、濃い青色の上等なチェニック姿も見なれないせいか、少し気恥ずかしかった。
「……ウィリアム陛下の若かりし頃に瓜二つ……。このお姿を見れば、貴方がグラント王子であることを、誰も疑わないでしょう」
「そう……でしょうか」
「本当、陛下にそっくりだよね。……と言うより……」
ジェラルドは少し言い淀んだ。
「……それは、王宮に行けば判る事。余計な事を言うでない、ジェラルド」
ヴェルナー伯爵がジェラルドを制した後、俺を見た。
「……では、参りましょうか。陛下が貴方のお戻りを、今か今かと待ち望まれています」
「はい」
ヴェルナー伯爵とジェラルドに続いて……俺は部屋を出た。
――アルシュではなく……グラント、として。




