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二人の王子~ジェラルド=ヴェルナー視点1

 ――初めて、見た。


……アルが……全身に殺気をみなぎらせて、僕の前に立つところ、を。


*******************************************************


「アルっ!?」

 僕は床に転がされたまま、目の前のアルを見た。肩で息をしていて……足元もおぼつかないのに、僕を庇うように立っている。


「ちっ……」

 舌打ちをしたミーネの瞳が……真っ赤に染まった。ミーネが、呪文と共に、さっと右手を突き出す。手のひらに開いた黒い穴から、轟音と共に強風が放たれた。

「!!」

「な……っ!!」

 ――疾風が、アルを覆う。ガラスが割れる音。部屋が軋む。男達のうめき声。アルは身を屈めた。


 風が止んだ時――アルの全身に、小さなナイフで切りつけられたような傷ができていた。僕の頬にも……血が流れていた。

(風で切った!? あいつ……!!)

「……赤の魔女、と言えば、セレスタインじゃちょっとは知られた名なんだよ? 坊やたち」

 にやり、とミーネが笑う。

(魔女!? まさか……)

「……セレスタインの……魔道士……」

 僕の呟きに……アルの肩がぴくり、と震えた。


「お前、ちょっとは力加減しろよな。俺らも傷いったじゃねえかよ!」

男のうち、小柄な一人が、左頬を拭いながら怒鳴った。

「ふん、あんたたちは、どいてな。久々の……上等な獲物だ」

ミーネの瞳が、どす黒い色に染まった。

「グランディアには、なかなかいい魔力を持つ者がいなくてねえ……城ならそこそこいるかとも思ったんだが……」

「……男共に声をかけていたのは、それが目的か」 

 アルの声が――いつもとは、違う。ミーネがくすりと笑った。

「魔力や精気を吸い取るには、身体を重ねるのが一番手っ取り早いのさ。いい思いさせてやったんだから、ちょっとぐらいは力を貰ったって、バチは当たらないよ」

「……」

「それにね……私にはこんな『力』もあるのさ」

 ミーネが体格の良い男の方を見た。男の身体がびくっと震えた。ミーネの赤い唇が――歪んだ。


『――カダルの首を締めて、殺せ』


「ぐああああああっ!!」

 男が頭を抑えて、悲鳴を上げ、のた打ち回る。小柄な男が真っ青になる。

「ひっ……あ……っ……」

 頭を抱えていた男が……身を起こす。震える唇から……掠れた声が漏れていた。

 大きく目を見開き、か細い悲鳴を上げながら……ゆっくりと動けなくなった小柄な男に近づく。

「や、やめろっ、オウル……っ!」

 小柄な男の言葉が途切れた。大柄な男が……ふるふると震える両手で、彼の首を締めていた。

「……がっ……」

 小柄な男の身体が、ぴくぴくと痙攣し――顔の色が無くなっていく。

「……や……め……」

 首を締めている男の目から……涙がこぼれた。


『――止めろ』


 ぴたり、と男の手が動かなくなった。――どさり、と小柄な男が床に崩れ落ちる。

「あ……あああ……」

 口角に泡を吹き、白目を剥いた大柄な男も……腰が抜けたように、床にへたり込んだ。


(……操られた!?)

 聞いた事がある。魔道士の中には、相手の身体を自在に操る技を持つ者もいる、と。


 ……まさか……


 ほほほほ……とミーネの高笑いがぼろぼろになった部屋に響く。

「アタシはね、一度気を吸った相手を、操る事ができるのさ。あんたは……」

 ミーネの赤い瞳が……アルを真っ直ぐに射抜く。赤い舌が、唇をゆっくりと舐めた。

「……さっき、口付けた時に味見したからねえ。おいしかったよ、あんたの『気』は」

(こいつ、アルを操る気かっ!?)


 ぴたり、とアルに向かって、ミーネが右人差し指で差す。


『――伯爵の息子を、その剣で刺し殺せ』


「!?」

「ぐ……っ……!!」

 ミーネの言葉と共に、アルがうめき声を上げ、身をよじる。

「アル!?」

「……まあ、身代金は死んでても大丈夫だしねえ。この坊やが殺したんだったら、アタシらには、何の関係もないだろ?」

「貴様……っ!!」

 僕は身体を動かそうとしたが……僅かに床を転がっただけだった。


 アルの柄を握る手が……震えている。ゆっくりとアルが、僕の方を向いた。

「アルっ!! 大丈夫なのかっ!?」

 床を向いていた剣先が……ゆっくりと上がっていく。アルの剣は……僕の心臓を狙っていた。

「アル!?」


「……無駄さ、この術を破った者は一人もいない」

 ミーネの言葉には、底知れない悪意が含まれていた。

「操られた時の記憶は残るんだよ。だから……自分の手で、伯爵の息子を殺したって、このぼうやが絶望してから……ゆっくりと食べさせてもらうよ」


『――早く、殺せ』


「……っ!!」

 アルの顔が歪む。……床に倒れている俺の上で、突き刺せるように、柄を握り替えた。

「アルっ!!」

 僕は大声で叫んだ。アルは、一瞬ぴくりと動いたが……ゆっくりと剣を引き上げる手は、止まらなかった。

アルが……唇を噛んで……血が滲んでいる。


 時間がゆっくりと流れているような感覚の中――


――父上の言葉が……頭の中に響いた。



 ――もし、アルシュが……何かに憑りつかれたようになれば


 ――その時は……


『……(アルシュ)の真の名、を呼べ』


「……っ!! 父上……っ!!」


 ――アルが剣を振り下ろそうとした瞬間――


僕は、封じられていた、その名を叫んだ。




「――グラントっ!!」

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