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二人の王子~アルシュ視点4

 ――次の日の午後、俺は指定された東城門前に来ていた。ここは、商人や使用員達専用通路で、普段から品物を摘んだ馬車が行き交う人通りの多い門だが……。

(……人気がない……?)

 何か、嫌な気配がする。俺が、念のためにと腰に下げた、剣の柄に手をかけようとした時――男の声がした。

「すみませ~ん……料理長に頼まれた品を持って来たんですが……」

 向こうの小道から、一人の商人が手ぶらで歩いてきた。

「……品物は?」

 俺の傍に来た商人はふうと息を吐き、布で汗を拭っていた。

「ここに来る途中で、馬車の車輪が轍にはまってしまって……動かなくなったんで、知らせに来たんですよ」

 そう言えば、二、三日前に大雨が降って、道がぬかるんでいたな。

「ここから、数分のところなんで、そこまで取りに行ってもらえませんかね。向こうにも人がいるんで。私はこのまま、城に助けを求めに行かせてもらいます」

「……わかりました」

 俺は商人が指さした小道を歩き始めた。地面は凹凸が激しく、確かに車輪がはまるかもしれない感じだった。

森の中に入ったあたりで、少し向こうに馬車が見えた。

(あれか……)

 俺は足元を確かめながら、馬車の方へと向かった。


*******************************************************


 殿下のお言葉に、私は目を見開いた。

「……グラント王子を、ですか?」

 私は……しばらくそのお言葉を噛みしめた。ようやく……ようやく、その時が来たのだ。そんな思いが、胸に溢れた。

「……ああ。グラントを狙った者の正体が掴めていない以上、王宮に戻す事は危険と考え、今までお前に任せてきたが……」

 殿下は、私が思ってもみなかった言葉を続けた。

「……巫女姫が……ファーニアがグラントを呼び戻すように、と私に言ったのだ」

「巫女姫様が?」

 殿下は、ああ、と頷いた。

「グラントの後見人になると……そう言っていた」

「……」

 巫女姫様が何故、そのような事をおっしゃられたのかは判らなかった。だが、グラント王子にとっては、非常に喜ばしい事だ。

「巫女姫様がついていて下されば、正に千人力です。王宮から離れていた王子には、口さがない貴族共が黙ってはおらぬでしょうから」

「……グラントが戻れば……いろいろと水をさす者も多いのだろうな……」

 殿下の瞳は一瞬心配そうに曇ったが……すぐに、明確な決意の色に変わった。

「私もグラントを護る。今まで護れなかった分も。……リデアの分も」

「私も及ばずながら、王子のお力になる所存です」

「引き続き、グラントの事を頼む、ヴェルナー」

「……御意」

 私は殿下に頭を下げた後、ヴェルナー城へと使いを出すため、殿下の前を辞した。


*******************************************************


「ああ、この荷物だね」

 馬車にいた小柄な男が、俺が差し出した紙を見て言った。

「結構、高い薬とか調味料とかが入ってるから、割らないように気をつけてくれよ?」

 そう言って、男は馬車の幌の中に入っていった。沢山箱が積んである中で、これでもない、あれでもない……と荷物を探しているようだ。俺は馬車にもたれ、自分が来た道の方を見ていた。


 キィィィィ……ン……


「!?」

 思わず耳を塞ぐ。何だ、今の耳障りな音は? 俺は、剣を抜けるよう、柄に手をかけて、辺りを見回した。人影は……ない。

だが……。


(……何だ? この……嫌な感覚……は……)


 一歩踏み出した途端……地面がぐらり、と揺れた気がした。

「……っ!!」

 足が……動かない!? 膝ががくん、と落ちた。

(……身体……が……っ……)

 両膝と両手を地面につく。身体から力が抜けて……起こす事ができない。


「……効いてきたみたいだねえ……」

 聞き覚えのある声。朦朧とする意識の中、辛うじて顔を上げた。

「……ミー……」

 ふふふと艶っぽい笑い声がした。

「後で可愛がってあげるさ。ま、こいつらもアンタに用があるらしいから、一緒に来てもらうよ?」

 馬車の中から出てきた男が、俺の右腕を掴んだ。俺はその腕を振り払う事もできなかった。

「本当に、このガキなのか? 伯爵に告げ口したってのは」

「ああ、間違いないね。ほら、さっさと連れてくよ」

 いつの間にか、幾人かの男達に囲まれていた。二人の男が俺の身体を抱き上げ、馬車に乗せようとした時――小道の方から声が響いた。


「――アルっ!!」


(今の……声……)

 男達の動きが止まった。ミーネが舌打ちをした。

「ちっ……坊ちゃんかい。厄介な……」

 俺は翳む目で、声の方を見た。茶色の髪の少年が、こちらに走ってくる。

「ジェ……」

 声が……出ない。来る……な……


 ジェラルドが剣を抜こうとした時――また、嫌な音が響いた。

「……っ……!」

 ジェラルドは俺と同じように、膝をつき、動かなくなった。男達の一人がジェラルドに駆け寄り、身体を抱き起した。

「伯爵の息子か!? 身代金たんまり頂けそうだな」

「身動きできねえガキ、一人増えたところで変わらんだろう


(……ジェラルド……っ)

 すでに意識を失いぐったりとしたジェラルドと共に、身体を縄で縛られ、馬車の荷台に放り込まれた。


 ――そのまま馬車は城とは反対の方向に走り始めた。俺の意識は……そこで、途切れた。

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