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二人の王子~リチャード王太子視点

 ……。

「……殿下」

 妃の呼び掛けに、私は我に返った。どうやら椅子に座ったまま、ぼんやりとしていた、らしい。

「……ああ、済まない、アスタリア。何か……」

 アスタリアは、ゆっくりと銀色のトレイを私の目の前の机に置いた。湯気が立っている、白いカップが置いてあった。

「いつもの香草茶をお持ちしましたわ」

「もう、そんな時間か……」

 考え事をしている間に、思っていたよりも時間が過ぎていたらしい。窓から見える陽の光が、山際に隠れようとしていた。私はカップを持ち上げ、一口飲んだ。温かさが身体中に沁み渡る気がした。

「……ウィリアム殿下の事をお考えでしたの?」

 アスタリアがそっと尋ねた。聡い彼女の事だ、隠すだけ無駄というものだろう。

「……側室であるリデアと息子のグラントを失い……さぞ嘆いているのだろうと、思うとな……」

 いつも身体の弱い私に代わって、国中を飛び回っている双子の弟。『鬼神』とも恐れられる剣の腕前は、兄である私も鼻が高かった。


 ……その弟が選んだ女性。彼女は滅多に王宮に姿を見せなかった為、まともに対面したのは、リカルドが産まれて数ヵ月の時のみだった。明るい茶色の髪に、珍しい銀色の瞳をした、控えめで穏やかな女性。息子のグラントも……母親ゆずりの銀の瞳以外は、リカルドに瓜二つで、ウィリアムと大いに驚いたものだった。

「リデアは……かつて、大盗賊団の制圧に力を貸したそうだ。おそらく、その時の残党が絡んでいるのではないか、とウィリアムは言っていた」

「……」

「ウィリアムはすぐに政務に戻るそうだ。何かしていた方が、気が紛れる、と」

「そう、ですか……」

 アスタリアは何か、を考え込んでいるようだったが……やがて、ゆったりと悲しげに微笑んだ。

「……いずれ……時が経つのを待つしかないのでしょうね……今は何を申し上げても……」

「そう、だな……」

 胸の痛みを抑えながら、また香草茶をすする。

「……この茶のおかげで、ずいぶんと体調が良くなったぞ。父上も身体が軽くなった、と喜んでおられた」

 アスタリアの故国、セレスタインは魔術と医術に長けた国で、グランディアにはない、薬や治療法が数多くあった。アスタリアはその知識を王宮医師達に伝授し、自ら薬を調合することもあった。おかげで、ここ数年でグランディアの医療技術は、以前に比べると格段に優れたものとなった。

 体調を崩す事の多かった私も、次第に寝込む回数が減ってきていた。

「体調に合わせて、調合を変えてありますから。本日は、心が穏やかになる成分を多く含んでおりますの」

「そうか……ありがとう、アスタリア」

「……いいえ。殿下もあまり思い悩まないで下さいませ。心が重い時には、身体も重くなるものですわ」

 そう言った後、リカルドの様子を見に行きますね、とアスタリアは部屋を出て行った。私は茶をすすりながら……背もたれに身を預けた。


 アスタリアは……非の打ちどころのない、妃だ。銀の髪に青い瞳の女神の様な容姿、年老いて来た父上や私に対する、手厚い介護。医療技術や魔術にも造詣深く、賢妃としてその名をグランディア中に轟かせている。我が子への愛情も……目に見えるようで、リカルドは王子として立派に育っている。


(……だが……)

 胸が一瞬……痛んだ。


 ――時々……彼女は、どこか遠くを見ている。そのような時は……私の手の届かない存在、に見えた。彼女が何を見ているのか……それを知るのは……。


 私は香草茶の入ったカップを見ながら……胸の奥に刺さった、小さな棘を感じていた。

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