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二人の王子~ジェヴェタイア=ヴェルナー視点3

「……リデアが死んだ!?」

 殿下の顔は蒼白だった。立ち上がったまま身体は硬直し……青い瞳は固く凍りついていた。

「……はい、間違いございません。リデア様は……賊に襲われ、グラント王子を庇って亡くなられました」

「グラント……は……」

「王子はご無事です。ですが……」

 私は少し迷ったが、正直に申し上げた。

「……記憶を失われている、との事。王子も危険な状態でしたが、騎士が巫女の塔へお連れし……光の巫女姫がお救い下さったそうです」

「……あの方……が……」

「その際に……リデア様を目の前で亡くされた記憶が王子にとって害となるかもしれない、と巫女姫が判断されたそうです。王子は、リデア様は『病で亡くなった』と思われています」

「……」

「リデア様のご遺体は……襲われた街道近くの村の、共同墓地に埋葬されたそうです」

 どさり、と殿下が椅子に腰を下ろした。右手で目を覆い……俯き加減になった。

「私の……せいだ」

 絞り出すような、声。

「リデアが死んだのは……。リデアを……王宮(ここ)から追い出すようなこと、を……」

 殿下の肩が……小刻みに震えていた。

「護れ……なかった……リデアも……グラントも……」

 殿下のお気持ちを察すると……慰めの言葉は何一つ、出てこなかった。


 沈痛な空気が支配していた執務室に……殿下がぽつり、と言った。

「……今、グラントは……」

「……ヴェルナー城にいらっしゃいます。……殿下」

 私の呼び掛けに……何か、を感じられたのか、殿下は顔を上げて私を見た。

「……グラント王子のお身柄は……このヴェルナーにお任せいただけませんか」

「何……」

「今回の一件、不審な点が多いのです」

「……」

 私は視線を逸らさずに、殿下に申し上げた。

「……まず、リデア様とグラント王子が王宮(ここ)を出られるということは、内密にしていた筈。ましてや、リデア様は我々が予定していた日よりも先に、ご自分で判断されて、ご出立されています」

「……」

「そのような状況にも関わらず……人気のない街道で、襲ってきた事。また、その場に居合わせた騎士によりますと、襲ってきたのは魔道士達で、明らかに王子を狙っていた、と」

「……」

 殿下の表情が……変わった。

「ヴェルナー、お前は……」

 私は頷いた。

「敵に通じる内通者が……このグランディア城内にいた可能性は高い、そう考えております」

「……」

「敵の正体が明らかになるまでは、王子がこの王宮にいるのは危険です。再び狙われる可能性があります」

「……では」

「……リデア様は療養先で事故に巻き込まれ、お亡くなりに……王子は行方不明になった、ということにさせていただきたく」

「……」

「幸い……敵の魔道士は全て絶命した、との事。敵にも事の詳細は伝わっておらぬはず」

「……」

「この事は知るのは……殿下と私のみ、とさせて下さい。例え、王太子殿下が相手でも、打ち明けたりなさらぬように」

「兄上にも……か」

「魔道士が襲ってきた、という事が……気がかりなのです」

「……」

「このグランディア国内で……魔道士を有する貴族はそう多くはありません。ましてや、護衛の騎士達を抑えるほどの力を持つ、魔道士となると……」

 殿下の顔色は悪かった。

「……兄上の所の……魔道士、か」

「……はい。元々はアスタリア妃殿下が嫁がれてきた時に同行した、セレスタインの王宮魔道士。彼ら以上に力のある魔道士は、このグランディアにはおりません」

「だが……兄上や義姉上にはグラントを狙う理由がない。リカルドという後継者もいる。逆にリデアがグラントを王位につけようと、リカルドを狙うのであれば、まだ納得は出来るが……」

「……殿下」

 私は……自分の疑惑を殿下に申し上げる事はできなかった。リデア様を憎んでいたかもしれない、御方の名前を。

「……リデア様があのようにグラント王子を連れ出したい、と懇願されていた事を思えば……やはり、何者かに脅されておられたのでしょう」

「……」

「王太子殿下や妃殿下が御存じなくとも、王宮魔道士が関わっていた可能性は高い、と見られます。ですから……」


 暫くの沈黙の後、深い溜息をついて殿下はおっしゃった。

「……判った。兄上にも義姉上にも……この件は伏せておく」

「ありがとうございます、殿下」

「……グラントは……どうなる……のだ」

「はい……王子として我が伯爵家に滞在していただく訳には参りません。下働きの子どもとして、ヴェルナー城に保護……という形にさせていただきます」

「……」

「殿下の心中はお察しいたしますが……全てはグラント王子のお命を護るため。御許可いただきたく」

「……許可する。グラントを……頼む」

 私は深々と殿下に頭を下げた。

「……感謝いたします、殿下。このヴェルナー、命に替えましても、王子をお守り致します」

 殿下は……辛そうに瞳を曇らせたが……黙って私に頷いた。

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