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二人の王子~ファーニア=レヴァンダ視点2

「巫女姫様、お世話になりました。この御恩は一生忘れません」

 深々と頭を下げた男性が、男の子を連れて巫女の塔を出立したのは、三日後の事。男の子は、未だぼんやりとした状態で……おそらくこの巫女の塔での出来事は、全く覚えていないだろう。はっきりと目が覚めるのには、あと二日ぐらいかかる、と男性には告げていた。


「……浮かぬ顔をしているわね、ファーニア」

 二人を見送りながら、ぼうっとしていた私に、カテーリアが声をかけて来た。

「ええ……」

 ぽん、とカテーリアが私の右肩を叩いた。

「……いつものように、記憶を変えた事に、罪悪感を持っているのでしょう?」

 カテーリアには、隠し事はできないわね……。私は思わず苦笑した。

「必要だったとはいえ……お父様やお母様に優しくしてもらった記憶まで……はっきりと思い出せないようにしてしまったわ」

 カテーリアがぎゅっと私を抱き締めた。

「……あなたが記憶を変えるのに、二日も時間をかけたのは、あの子に負担をかけないため、でしょう? 強制的に上書きしてしまえば早いけれど……後で心が歪む事も多いから」

「……」

「知ってるわよ。引き裂かれた布を縫い合わせるように、あの子の記憶を組み合わせていった事。その時に闇の色に代わって、新しい色の糸を使った事」

「……」

「大丈夫……はっきりとは判らないでしょうけれど、あの子の両親があの子を愛した記憶は、心の底に残ってるわ。それが、あの子を支えていくでしょう」

「……ありがとう、カテーリア」

 いつも、こうやって私を支えてくれる双子の姉。カテーリアがいなければ……私は『光の巫女』にはなれなかったかも知れない。

「……でも……」

 カテーリアが私から手を離し、少し考えるそぶりを見せた。

「どうしたの、カテーリア? 何か気がかりな事……」

「そうね……」

 カテーリアの漆黒の瞳に……青い光が宿った。

「何か見えたの?」

 カテーリアは、巫女の力は私より下だけれど……私にはない力を持っている。それは『先読みの力』、だ。

「……むしろ逆と言えるかしら……」

「逆?」

 カテーリアは軽く頭を振り、私を見つめた。

「あの子は……『王の光』を持っていたわ」

「王の光ですって?」

 私は驚いて聞き返した。王となるべく運命づけられた者が持つ光。例え、皇族や貴族とはいえ、この光を有する者は滅多にいない。

「でも……確かに、あの子を連れて来た男性は騎士の身のこなしだったし……『若様』って呼ばれていたから、どこかの王族か貴族の御子息かもしれないわね」

 カテーリアも頷いた。

「……あの光を持つ者であれば……大抵はその先が見えるのだけれど……」 カテーリアは少し迷ったように言葉を切ったが……また続けた。

「……あの子は見えなかったの」

「見えなかった!? あなたが!?」

 カテーリアが『先が見えない』と言った人は……ごく僅かしかいない。それは……。

「……いずれ、あの子は……私達に関わってくる可能性が高いわね」

「……」

 そう……カテーリアは、『私達の未来』を見る事はできない。どうしても肉親の未来には、願望が入ってしまう為、明確には見えないらしい。

「『封魔の力』に『王の光』……あんな小さい身体に、過酷すぎるほどの『力』を持っているわね、あの子は」

「……」

 考え込んでいる私の頬を、うにっとカテーリアがつねった。

「ふにゃ!?」

「ほら、そんなしかめっ面しないの。それだけの『力』を与えられたってことは……それ相応の『器』を持っているという事よ」

「……いた」

 頬を擦っていた私に、カテーリアが言葉を続けた。

「大丈夫。あなたが……あの子のお母様が……あの子を護ろうとした事、それは決して無駄にはならないから」

「……」

「先読みの力を使えなくても、それくらい判るわよ? 誰かに大切にしてもらった記憶は……例え思い出せなくても、決して消えないのだから」

「カテーリア……」

 ふふっとカテーリアが笑った。

「ほら、あなたが暗い顔していたらだめでしょう? 次の患者が待っているわよ?」

「そう……ね……」

 私はしばらく目を瞑り……そして目を開けた。

「……行きましょう、カテーリア。『光の巫女』として、まだやる事が沢山あるから」

「ええ!」

 

 私とカテーリアは、連れ立って施術室の方へと歩いて行った。

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