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二人の王子~ジェヴェタイア=ヴェルナー視点2

 ……それは、グラント王子がお生れになり、半年が過ぎた頃。


 王太子殿下から、グラント王子に会いたい、と申し入れがあった。王太子殿下にも、五か月前にリカルド王子がご誕生になったばかり。

リデア様はご自分の身分を気にされ、滅多に王城には足を踏み入れていなかったため、王太子殿下、妃殿下ともに直接お会いしてはいなかった。

 お互いの王子を見せ合おう、と冗談交じりに王太子殿下がおっしゃった、と殿下が苦笑とともに私に告げた。


 私もその場に同席する事が許され、リカルド王子にお会いする事を楽しみにしていた。


********************************************************


『……驚いたな。まるで我々双子のようではないか』

『そうですね、兄上……ここまで似ているとは』

 グラント王子とリカルド王子を見比べて、王太子リチャード殿下とウィリアム殿下は驚いたように目を合わせていた。赤子達で違うのは、目の色のみ。煌めく金髪も、意志の強そうな口元も、双子といってよいくらい、似ていた。


 和やかな雰囲気の二人の王子とは対照的に……アスタリア妃殿下とリデア様は、どちらかと言えば堅い雰囲気だった。

セレスタイン王国の第一王女であられたアスタリア妃殿下は、豊かな銀糸の髪に青い瞳のお美しい方だった。貴族的な御顔立ちのアスタリア様と、どちらかと言えばお可愛らしい雰囲気のリデア様。リデア様が、アスタリア妃殿下に呑まれている……そんな気がした。


『……リデア様は、殿下に盗賊の魔の手から助けていただいた、とか』

『は、はい……行く当てのない私を、赤の離宮にお連れ下さいました』

『……お優しい事。そう言えば、リデア様以前にも、そのような御方が何人もおられたそうですわね。今は皆様離宮を出られて、故郷に戻られているとお聞きしましたが』

『……』

『グラント王子は……ウィリアム殿下によく似ておられますわね? リカルドも王太子殿下似ですから、双子のように見えても致し方ないのかも知れませんわね』

『は……い……』

『ウィリアム殿下は剣の達人。いずれリカルドにも教えていただきたいものですわ』

『……』


 リデア様の様子に気づかれたのか、ウィリアム殿下がグラント王子を抱いて、お二方の元へと歩み寄った。

『……リデア。グラントはやはり、そなたの方がいいようだ』

『殿下……』

 ほっとしたような声。やはりアスタリア妃殿下とお話するのに、緊張されていたのだろう。グラント王子を渡され、少しむずがっていた王子をあやしながら、リデア様は先程とは違う笑顔を見せていた。そんなリデア様を見るウィリアム殿下の瞳は……優しかった。


 ――その刹那、私の背筋に悪寒が走った。


 王子殿下とリデア様、そしてグラント王子……微笑ましい家族の絵。その絵を……覗く視線に……


(……凄まじい殺気……?)


 ほんの一瞬の事だった。殿下達は何も気づかれていない。だが……私は、見てしまった。


 ――アスタリア妃殿下の青い瞳に……冷たい炎が宿るのを。


********************************************************


……いつの頃からだろう。リデア様が笑わなくなったのは。グラント王子も、グランディア城に滅多にお姿を見せなくなった。赤の離宮の薔薇園の中……そこから外へ、お出ましになる事がなくなっていった。そして何より、陛下が赤の離宮を訪れる回数が目に見えて減っていっていた。

 私が殿下を問い詰めたところ……苦悩に満ちた表情が返って来た。


 ――初めてだ。こんな感情を女性に抱くなんて。


 殿下から話を聞いた私は、絶句してしまった。殿下が恋に落ちたお相手――それは、巫女の塔におられる、光の巫女姫、だという。

光の巫女姫ならば、誰もが知る存在。光の力で闇を払い、人々を救う聖女。巫女姫は巫女の塔から出られる事はない。降嫁が許されることもあるが……それは、巫女姫のお力が弱まった時のみ、とされている。

 現巫女姫ファーニア=レヴァンダ様のお噂はかねてより耳にしていた。ここ数代の巫女姫にはない、比類なき力の持ち主。絶世の美女。お身体の弱い王太子殿下に代わり、国中を飛び回っておられる殿下が、闇の者につけられた傷を癒す為、巫女の塔を訪れた時に――お目にかかったらしい。


 ――微笑みかけられた時……心臓が止まるかと思った。優しい声も、白い手も……忘れる事ができない。手の届かない御方だと、わかっているのに。


 リデア様にも、早々に見抜かれてしまったらしい。殿下は正直に気持ちを打ち明け、済まない、とリデア様に頭を下げられたそうだ。リデア様は……お許し下さったそうだが、内心穏やかではなかったはず、と私は思った。殿下もその事に気づかれておられ、リデア様に対する罪悪感から距離を置くことになったのだろう。


 グラント王子が三歳を迎えられた時――リデア様から、王宮を辞したい、とのお話があった。グラント王子も連れて行きたい、と。

『許される事ではないとわかっています……でも、今この王宮に、グラントを置いていく事はできません』

 私が説得しても、リデア様のご意志は揺るがなかった。直に話を聞いた殿下も、結局はリデア様を尊重するとおっしゃった。


 公にすれば、リデア様に類が及びかねない為、表向きはリデア様とグラント王子の療養、との名目で我が領地に滞在される事とした。

 とにかく人目につきたくない、とリデア様がおっしゃった為、少人数で仕度を整えていたが、それすらもお嫌だったらしく、グラント王子と二人だけで、逃げるように立ち去られてしまった。

 リデア様には、密かに護衛をつけていた為、身の安全は保証できていたものの……何故このような行動を取られるのか、当時の私には理解出来なかった。


 それが理解できたのは──それから間もなく、リデア様が身罷られた後だった。

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