シルヴェスタ城~二人の王子3
……どうして、あの御方と一緒になれないのだろう。こんなにも、愛しているのに。
あの女が傍にいるから? あの子どもがいるから?
――王太子ではないから?
……では、全てを、変えてしまえばいい。
……私には……その力、がある。
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リカルドの言葉を聞いても、グラントの顔色は変わらなかった。蝋燭の炎が揺らめき、二人の影を石造りの壁にぼんやりと映していた。
「……俺を憎むのは構わない。だが……」
銀の瞳に強い意志が宿る。
「当てつけに、ありあを巻き込むな。彼女には……何の罪もない」
くすくす……とリカルドが笑った。殺気を身に纏いながら、話をしているとは思えないほど、穏やかな口調だった。
「仕方ないでしょう。あなたの唯一の弱点、なのですから。……私自身はアーリャ様を好ましく思っていますよ? 素直で可愛らしいお方だ」
「……」
「……あなたがシルヴェスタ城に着く前に……アーリャ様を手に入れる事も考えなくはなかったのですが……」
柄を握るグラントの手に、力が入った。
「闇の神の傷、がありましたからね……怪我をした御婦人に無理強いする趣味はありませんから」
「……何が目的だ? リカルド」
グラントは再度、問うた。
「グランディアの王座か、俺の命か? それとも……」
リカルドはただ笑っただけだった。
「……無駄話をし過ぎたようです……では、また、始めましょうか」
リカルドが何か、と唱えながら右手を上げ……グラントに向かって、振り下ろした。光の矢がグラントを狙う。
「!!」
グラントは咄嗟に右に飛び、右手と右膝をついて体勢を立て直した。先程まで自分が立っていた石の床に……削り取られたような跡があった。
「お前……!!」
リカルドの青い瞳が……赤く染まった。
「……私が、かのセレスタイン王家の血を引く事をお忘れですか? 並みの魔道士よりは……力が上、と自負しております」
もちろん、剣での勝負が先ですが、とリカルドは続けた。
「遠慮などなさらないで下さい……あなたの方が、不利な立場です」
グラントがゆらり、と立ち上がった。リカルドも再び剣を構えた。
一瞬の後――また剣戟の音が、通路に響き渡った。
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ありあは……言葉が出なかった。今、この人は、何て言ったの?
『お前を……抱き締めて、おけば、よかった……』
『そうすれば……こんな、こと、には……』
「……」
『……勇気が……なかっ……た……』
「……」
ぎゅっと両手で、巫女の石とロザリオの十字架を握り締める。
(ま……さ、か……)
ありあの顔から……血の気が引いていった。
『聞けな……かった……』
「……と……」
『……誰を……愛して、いるのか……と……』
「……とうさまっ!? とうさまなの!?」
ありあは真っ青になって叫んだ。ガラスに縋りつくように両手をついて、生首を見上げる。
「とうさま、生きてたの!?」
どうして、こんな姿で!? どうして、こんな所で!? どうして……
「……グラントが……とうさまを殺したって……!!」
話してくれた時の、あの表情のない顔。グラントは……何も、知らない。
『……それが……リチャード……わた……しの、兄、だ……』
「!?」
入れ替わって……た!?
「どう……して……」
「――どうして?」
薄暗い部屋の中……ぞっとするほど、美しい声色がありあの後ろから聞こえた。
「……決まっているではありませんか、巫女姫様」
ありあは……ゆっくりと振り返った。綺麗に整えられた銀の髪、青い色のドレス……その、瞳と同じ。
ゆっくりとこちらに歩んでくるその姿は……何も変わっていなかった。
……微笑みを湛えながら、その女性はいった。
「……愛しい御方を、手に入れるためですわ」




