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シルヴェスタ城~二人の王子3


 ……どうして、あの御方と一緒になれないのだろう。こんなにも、愛しているのに。


 あの女が傍にいるから? あの子どもがいるから?



 ――王太子ではないから?




 ……では、全てを、変えてしまえばいい。


 ……私には……その力、がある。


********************************************************


 リカルドの言葉を聞いても、グラントの顔色は変わらなかった。蝋燭の炎が揺らめき、二人の影を石造りの壁にぼんやりと映していた。


「……俺を憎むのは構わない。だが……」

 銀の瞳に強い意志が宿る。

「当てつけに、ありあを巻き込むな。彼女には……何の罪もない」


 くすくす……とリカルドが笑った。殺気を身に纏いながら、話をしているとは思えないほど、穏やかな口調だった。


「仕方ないでしょう。あなたの唯一の弱点、なのですから。……私自身はアーリャ様を好ましく思っていますよ? 素直で可愛らしいお方だ」

「……」

「……あなたがシルヴェスタ城(ここ)に着く前に……アーリャ様を手に入れる事も考えなくはなかったのですが……」

 柄を握るグラントの手に、力が入った。

「闇の神の傷、がありましたからね……怪我をした御婦人に無理強いする趣味はありませんから」

「……何が目的だ? リカルド」

 グラントは再度、問うた。

「グランディアの王座か、俺の命か? それとも……」

 リカルドはただ笑っただけだった。


「……無駄話をし過ぎたようです……では、また、始めましょうか」

 リカルドが何か、と唱えながら右手を上げ……グラントに向かって、振り下ろした。光の矢がグラントを狙う。

「!!」

 グラントは咄嗟に右に飛び、右手と右膝をついて体勢を立て直した。先程まで自分が立っていた石の床に……削り取られたような跡があった。

「お前……!!」

 リカルドの青い瞳が……赤く染まった。

「……私が、かのセレスタイン王家の血を引く事をお忘れですか? 並みの魔道士よりは……力が上、と自負しております」

 もちろん、剣での勝負が先ですが、とリカルドは続けた。

「遠慮などなさらないで下さい……あなたの方が、不利な立場です」


 グラントがゆらり、と立ち上がった。リカルドも再び剣を構えた。


 一瞬の後――また剣戟の音が、通路に響き渡った。


********************************************************


 ありあは……言葉が出なかった。今、この人は、何て言ったの?


『お前を……抱き締めて、おけば、よかった……』



『そうすれば……こんな、こと、には……』

「……」

『……勇気が……なかっ……た……』

「……」

 ぎゅっと両手で、巫女の石とロザリオの十字架を握り締める。

(ま……さ、か……)

 ありあの顔から……血の気が引いていった。


『聞けな……かった……』

「……と……」

『……誰を……愛して、いるのか……と……』



「……とうさまっ!? とうさまなの!?」



 ありあは真っ青になって叫んだ。ガラスに縋りつくように両手をついて、生首を見上げる。

「とうさま、生きてたの!?」

 どうして、こんな姿で!? どうして、こんな所で!? どうして……

「……グラントが……とうさまを殺したって……!!」

 話してくれた時の、あの表情のない顔。グラントは……何も、知らない。

『……それが……リチャード……わた……しの、兄、だ……』

「!?」

 入れ替わって……た!? 

「どう……して……」




「――どうして?」


 薄暗い部屋の中……ぞっとするほど、美しい声色がありあの後ろから聞こえた。



「……決まっているではありませんか、巫女姫様」


 ありあは……ゆっくりと振り返った。綺麗に整えられた銀の髪、青い色のドレス……その、瞳と同じ。

ゆっくりとこちらに歩んでくるその姿は……何も変わっていなかった。


 ……微笑みを湛えながら、その女性(ひと)はいった。


「……愛しい御方を、手に入れるためですわ」

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