グランディア城~王妃の間
「ここが……王妃の部屋、ですか?」
「はい、アーリャ様」
ありあは目を丸くしたまま、部屋のあちらこちらに視線を走らせた。写真集で見た、中世のお城のホテル、そのままだった。
ビロード調の、どっしりとしたドレープのあるカーテン。壁に飾られた精密なタペストリー。うっとりするような曲線を描く、机やベッドの家具類。
(すごい……こんな部屋で、過ごしたことない……)
「あの……アーリャ様」
ありあはヴェルナー伯爵を振り返った。さっきから、彼は、何か言いたげな顔をしていた。
「……私に何か、聞きたい事があるのでは……」
ヴェルナー伯爵は、はあ、と溜息をついた。
「誠に申し訳ないのですが……アーリャ様にどうしてもお聞きした事が……」
「はい、何でしょう?」
ヴェルナー伯爵の緑の瞳に、決意の色が差した。
「……今回の件、陛下を恨んでおいでですか?」
「グラントを?」
ありあは目をぱちくりさせた。恨む?
「どうして?」
ヴェルナー伯爵は、ふーっと長く息を吐いた。
「……アーリャ様。ありがとうございます」
深々と頭を下げられ、ありあは焦った。
「あ、頭を上げて下さい。お礼を言われるような事は何も……」
ヴェルナー伯爵が姿勢を正し、真っ直ぐにありあを見た。
「今回の一連の騒ぎ、私の元にも報告が来ております。本来であれば、『光の巫女』としてお迎えすべきところを……っ」
(え……もう、噂になってるの!?)
「だ、だから、グラントは何も……」
「グランディア城の大聖堂にて盛大に執り行うはずだった挙式も、巫女の塔にて簡素に執り行われた、とか。アーリャ様には、誠に申し訳なく……」
ど、どうしよう。私がやった事で、グラントに変な噂……。
ありあはヴェルナー伯爵に慌てて言った。
「グラントは何も悪い事、してないんです。全部私が……」
ヴェルナー伯爵の瞳が光った。……涙? ありあは茫然とした。
「お優しいお言葉……ありがたく頂戴いたします。このような素晴らしい王妃様を迎えられた事……陛下も神に感謝されていることでしょう」
「私は十年以上陛下にお仕えしておりますが……アーリャ様を見る陛下は……」 ヴェルナー伯爵は言葉を切った。
十年以上? ありあはヴェルナ―伯爵に尋ねた。
「じゃあ、グラントの事……よくご存知なんですね?」
「……はい。陛下が王宮にお戻りになる前から存じ上げております」
……どうしよう。やっぱり聞いてみた方がいいのかなあ……。
ありあは少し考え込んだが、やがてヴェルナー伯爵を真っ直ぐに見た。
「あの……お聞きしたい事が……あるんですけど……グラントの事で」
「はい……私でお答えできる事であれば」
「その……」
ありあは、詰まりながら、ヴェルナー伯爵に尋ねた。
「グラントって……変態、なんでしょうか?」