シルヴェスタ城~二人の王子2
『……お初にお目にかかります、セレスタインの姫君。我がグランディアまで、お連れ致します』
――そう言って、私の手を取ったその御方は……大好きだった物語に出てくるような、夢の騎士、そのものだった。
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(済まない……?)
ありあは、呆然と生首を見た。どうして、この方が謝ってるの……?
『……全て……わ、たしの……』
「あの……?」
苦悩に満ちた青い瞳が……ありあの漆黒の瞳を見た。
『……グラント……は……』
「……グラントもシルヴェスタ城にいます。今……」
――リカルドさんと戦ってる。ありあは胸の前で両手を組んだ。
(どうか……二人とも、無事で……いて……)
『……助けて……ほしい……』
途切れ途切れに聞こえる、絞り出すような……声。
『……グラントを……リカルドを……アスタリア……を……』
「……え……」
『……わたし……が……言えた……義理、では……ないが……』
何だか苦しそう。ありあは心配になって、ガラスの筒に両手を置き、リチャード公を見上げた。
「大丈夫ですか?」
『……お……前は……』
青い瞳が……揺れた。
『優し……い……子、だった……な……』
(私の事も……知ってる……?)
……暫く沈黙が続いた後……再び生首が、語り出した。
『……わ……ウィリ……アム……王子は……毒……を盛ったり……は、して……いな……い……』
「!?」
ありあは目を見張った。
「やっぱり、とうさまじゃ、なかったんですね!? とうさまが、そんな事するはずないって……」
『……なぜ……』
苦しそうな声が続く。
『そう……思え……る。お前の母、を……手にかけ……お前……も、殺そう……とした……男……を……』
ありあは、青い瞳を真っ直ぐに見た。
「……とうさまは……闇の眷属に……負けてしまった、けれど……かあさまを……愛してくれた、方です」
『……』
「かあさまがいつも……言ってました。とうさまに助けてもらったって……一番心細い時に、手を差し伸べてくれた人だって……」
『……』
ありあは少し俯いて唇を噛み……また顔を上げた。
「とうさまは……私が自分の子じゃないって言ってたけれど……私のとうさまは、とうさまだけ、です」
『……っ……』
リチャード公の顔が……ぐしゃぐしゃに歪んだ。何かが……外れたかのように、また涙が……青い瞳から溢れだした。
「ご、ごめんなさい、何か気に触る事……」
慌てて謝るありあに、掠れ声が聞こえた。
『……手が……』
「……手?」
『……こんな……姿に……なる、前に……自由に……なる、手がある……うちに……』
『お前を……』
リチャード公の言葉を聞いたありあは……呆然と、その場に立ちつくした。
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鋭い金属音が響く。荒々しい呼吸も。踏み込む足音も。
グラントとリカルドは、互いに一歩も引かぬまま、膠着状態が続いていた。
「……母もアーリャ様をいたく気に入っていましてね」
ぴくり、とグラントの眉が動いた。
「どうやら、私の妃に、と目論んでいたようです」
グラントの表情が消えた。
「……そんなことだろうとは、思った」
ふふふ……っと、リカルドの笑い声が響いた。
「本当に……アーリャ様が大切なのですね、あなたは……」
油断なく剣を構えるグラントに、リカルドは微笑みながら言った。
「あなたのそんな顔が見られるとはね。なかなか愉快だ……」
「……お前はどうなのだ? リカルド」
グラントの問い掛けに、リカルドが黙った。
「……シャルロッテは……お前にとって、只の道具だったのか? それとも……」
「……彼女が王妃にもなれず……貴族の正室にもなれる身分ではないことぐらい、お判りでしょう」
「……」
リカルドがグラントを見た瞳には、何か、の影が映っていた。
「……我々は似た者同士でした。それだけの関係です」
「……お前の、子は?」
リカルドの表情は……変わらなかった。
「まあ、陛下の子……と言っても、あなたを騙す事はできないと思っていましたが……」
「……アーリャ様がどう思うのかを知りたかった、ということもありましたね」
「……」
ふっと諦めに似た笑いが、リカルドの口元に浮かんだ。
「……子どもを大事にするよう、取り計られたそうですね。何一つ、シャルロッテを責めなかった、と」
「……ありあは、子を孕んだ女性に嫌がらせなどしない。王宮から追放するな、と俺に言った」
「……その想いに……シャルロッテが根負けした、のでしたね……あれほど、『光の巫女』を憎んでいたのに」
「……リカルド」
グラントが言葉を継いだ。
「俺には……お前が王位を望んでいるようには見えない。望んでいるのは……アスタリア妃の方か」
リカルドがグラントの瞳を見据えた。青い瞳には……躊躇いの色はなかった。
「……だとしたら、どうだと? 私のする事は、何一つ変わりませんよ」
――一拍置いた後……リカルドの青い瞳が、銀の瞳を真っ直ぐに射抜いた。
「……私があなたを憎んでいる事も。何一つ、変わる事はありません」




