シルヴェスタ城~二人の王子1
剣戟の激しい音が、通路にこだました。
「リカルド……っ!!」
グラントが振り下ろした剣を、リカルドが受ける。間近で互いの瞳に火花が散る。
「……お前は何を望んでいる?」
互いに離れ、間合いを取り直す。途切れる事のない、緊張。
「……正統な王に、王座を」
リカルドの剣が蝋燭の炎を受けて、金色に輝いた。金の剣筋を、グラントがかわす。
二人はまた離れ、互いに睨みあった。
「……俺は、王座に固執したことはない」
「……でしょうね」
リカルドの口元が少し上がった。
「あなたは……あなたが『王』でいるのは……ファーニア様があなたを王に、と望んだからでしょう」
「……」
リカルドの口調は冷静で……どこか他人事のようだった。
「あなたから王座を奪っても……いえ、命を奪っても、あなたご自身は何も変わらない。ご自分の命さえ……あなたにとっては、取るに足らないものだ」
「……」
「ですが……」
にやり、と笑うリカルドの瞳は……妖しく輝いていた。
「……アーリャ様だけは、別でしょう。あの方だけが……あなたの魂に直接触れる事のできる、唯一の存在」
「……だから、ありあを巻き込んだのか」
「そうですよ。あなたに痛手を与えるには、あの方に手を出すのが一番効果的、ですからね」
グラントはぎり、と歯を食いしばった。
「魔道士達は、闇の神の子を欲しがっていましたからね……ほいほいと話に乗ってきましたよ。あの女も……アーリャ様に一物ありましたから。喜んで協力してくれました」
リカルドの言葉が、通路の闇に消えていく。
「結局は……アーリャ様に負けたようでしたがね……」
「……俺は」
グラントは燃えるような銀の瞳をリカルドに向けた。
「お前が……グランディアの王に足る人物ならば、いつだって喜んで王座を譲っただろう」
「……」
「……だが」
リカルドに向けたグラントの顔には――冷静さなどなかった。感情がむき出しになった瞳。このような顔を見るのは初めてだ、とリカルドは思った。
「……今のお前に、譲位することはできない。人の心を弄ぶなどと――王には相応しくない」
「……そうですか。ならば……」
リカルドが改めて剣を構えた。
「……譲っていただくまで、です、陛下」
自分に向かってくるリカルドに、グラントもまた、突進して行った。
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はあ、はあ、はあ……
最上階にもう一度戻って来たありあは、膝に両手を当てて上半身を曲げ、息を乱していた。首にかいた汗を右手で拭う。
(か、階段……きつかった……)
すーっと息を整える。さっきの銀の扉の、中央の石にメダルを掲げてみる。
――扉の青い石とメダルの青い石が、共鳴するように同時に光った。アリステア妃が手を当てた時のように、音もなく扉が開いた。
ありあは躊躇いもなく、その中へ足を踏み入れた。
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静か、だった。何の物音もしない。
ありあは中央のガラスの柱に近づいた。青白い光の中、浮かぶリチャード公の首。
ありあが目の前に立つと……ゆっくりと彼の瞳が開いた。本当に――グラントとリカルドさんに、似てる。
(ああ……この方も、青い瞳なんだ……)
とうさまと同じ。ありあはぼんやりと、そんな事を思っていた。
ごくり、と生唾を飲み込んだ後、ありあは顔を上げて、生首に話しかけた。
「あの……私、ありあと言います。グランディアの……王妃、です」
『……王……妃……グラント……の……』
頭の中に声が響いてくる。
「……リチャード殿下に教えて欲しい事があるんです……私の、とうさま……前国王ウィリアム陛下について」
『……とうさま……?』
青い瞳がやや細められた。じっと……ありあの顔、を見ている。
「私……グラントの妹姫、でした。でも……」
ありあは言葉を切った。目の前のリチャード公の表情が……一変していた。
(さっきまで人形みたいだったのに!?)
急に、命が吹き込まれたかのように、瞳が大きく見開かれ……青ざめた唇が震えていた。
『い……き、て……』
「……え?」
『いた……のか……死んだ……と……』
ありあは少し不思議に思いながらも説明した。
「グラントも……そう思ってました。でも……私が『アーリャ姫』だったことは……多分、事実です。少しだけ、思い出したし……」
『……て、いる……』
震えるような声。
『……お前の……母親……に……似て……いる……』
「……かあさまに会った事……」
あるに決まっている。弟のお嫁さん、なんだから。
「私……あまり覚えていませんけど、もしかして私とも、会われた事、ありますか……?」
『……ああ……』
ありあは小首を傾げた。何だか……変。
「……その、とうさまが……自分の父親と……あなたに、毒を盛って、グランディアの王座を手に入れたって……聞いたんです」
『……』
「とうさまは……そんな事する人じゃなかったって……そう思うんです。だから……あなたの目から見た事実を教えて欲しくって……」
『……』
「!?」
ありあは目を見張った。もしかして……リチャード公……
(泣いて……る!?)
間違いない。青い瞳から……涙がこぼれ落ちていた。表情も……苦しそうに、歪んでいる。
(え、えっと、どうしたら……っ!!)
生首に泣かれても……どうしたらいいのか、わからない。
『……ない……』
「……え……?」
囁くように、小さく頭に響いてきた声に……ありあは、言葉を失った。
――済まない
確かに、彼は、こう言った。




