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シルヴェスタ城〜王の間

 「……よし」

 ありあはそっとベッドから降りた。枕元に置いてくれていた、ウェストポーチを腰に巻く。

(中身はちゃんとあるみたい……)

 白っぽい長袖ワンピースは、踝ぐらいまで丈があるが、ふわっと広がるから、動きやすそうだった。

(さっき、包帯替えてくれたから……しばらく、来ないよね?)

 ありあがまだ動けない、と思っているようで、見張りのような人はいなかった。あれから、リカルドもアスタリア妃もこの部屋には来ていない。

(ここに来て……一日経ったはず……)

 グラントが迎えに来るまで……って、言ってたけど……

(その前に……会わないと……)

 改めて部屋の中を見回す。重厚なタペストリーが飾られた壁。天井には彫刻が彫られている。どっしりとした木の家具。造りは赤の離宮よりも、グランディア城に近いかも知れない。

(造りから考えると……客間とか、身分の高い人が泊る部屋……)

 入り口からは遠い位置にある。はず。逆に……

(王や王妃の間には……近い。だから)

 足音を立てないように、入口の扉に近づく。彫刻が彫られた重たそうな木の扉に耳を当てる。そーっと扉を開ける。

(……誰も……)

 きょろきょろ見回したが、薄暗い廊下には誰もいなかった。そそくさと外に出て、後ろ手に扉を閉める。

(石造りの壁……グランディア城と同じ……)

 ぽつぽつと炎が揺らめいていた。壁に等間隔で蝋燭が灯されている。でも……

(なんだか……雰囲気が……違う)

 ありあは自分の二の腕を擦った。寒気がするのは、多分、薄暗いからじゃない。


(あれ……?)

 ありあはふっと動きを止めた。目を瞑り……微かな風の動きを読む。

(何か……の魔法……?)

 サーリャに教えてもらった、魔法の見分け方。空気の中に、確かに……ある。魔法の気配。ありあは目を開けた。

(こっち……だ)

 気配をたどりながら、ありあは廊下を進んでいった。


*********************************************************************


「……本当に可愛らしい御方でしたのよ? 光の巫女姫は」

『……』

「今度お茶会にもご招待しようと思って。あなたも同席なさる?」

『……』

「ふふ……リカルドもやっと、これで……」

『……』


 青白い光が煌めく、部屋の中。アスタリア妃の会話は続いていた。


*********************************************************************


「……一つ訂正しておきます」

 サニリアが、シャルロッテの枕元にすっと立ち、彼女の瞳を射抜いた。

「……あなたのお祖母様、シャリーヌ様は……正確には追放された訳ではございません」

「……」

 シャルロッテの瞳が大きくなった。

「出奔された、という表現が適切かと」

「……それは」

 サニリアはシャルロッテに頷いた。

「……闇の神にとどめを刺せなかった、と……報復を恐れられたのでしょう。次の巫女になられたジーニア様は……闇の神と対峙するだけのお力はお持ちではなかった。ですから、自分が後始末をつける、そうおっしゃられていました」

「……」

「居住を変えられていたのも、あなたやあなたの母君に闇の神の手が伸びるのを防ぐため……そして、各地で封印の儀式を行うため」

「……」

「巫女の力は失われても……シャリーヌ様は類稀な『白の魔道士』でもありました。あなたが……いえ、巫女姫候補がお使いになった光の呪縛は……あの御方が考案された術式です」

「……」

「あの御方は……最期まで、『光の巫女』であらせられた、と私は考えております」

「そう……ですか……」

 シャルロッテは、右手を上掛けの上からお腹に当てた。少し丸くなってきたそこは……まだ動きは感じられないけれど……

「この子は……祖母の力、を引き継いでいるのですね……」

 愛おしそうに撫ぜるシャルロッテの手を、サーリャは複雑な表情で見つめていた。


*********************************************************************


「ここ……?」

 魔法の気配を追って辿り着いたのは……ありあがいた部屋の一つ上の階の、一番廊下の奥の部屋。扉が、他の部屋とは違っていた。

「木……じゃない……これ……」

 金属製の銀色の扉。呪文のような模様が彫られていて、あちらこちらにきらきらと輝く石がはめ込まれていた。

「これ、もしかして……魔法石?」

 魔力を封じ込めた石を護符代わりに使ったりする、とサーリャが言っていた。扉に右手を当ててみる。


「――!?」


 思わず手を離す。びりびりと電撃のようなものが走った気がした。

「な、なに……これ……」

 少し痺れた右てのひらを振りながら、ありあはもう一度、扉を見た。うっすらと、青白い光が扉を覆っていた。

「結界……?」

(結界の破り方って……)

 な、習ったっけ? なんか治癒・守護系ばっかり習った気がする……。


「――まあ! 巫女姫様。わざわざお越し下さったのですか?」

 ぎくりとしたありあが振り返ると……そこには、満面の笑みをたたえたアスタリア妃が立っていた。またブルーのドレスを身に纏っている。

(気配が……全然しなかった……?)

 ゆっくりとアスタリア妃がありあの隣に立ち、扉の中央に付いている大きな青い魔法石に右手をかざした。


 ぼうっと金色の光が石から発せられ、石の色が青から赤に変わった。


 音もなく、静かに扉が左右に開いた。

(自動ドアに指紋認証みたいなもの!?)

 仕組みはよくわからないが、普通の扉ではなく、何か魔力が関係しているようだ、とありあは思った。


「さあ、どうぞ?」

「は、はい……」

 先に入ったアスタリア妃に続いて、ありあは部屋に足を踏み入れた。背中の後ろで、扉が閉まった。


 薄暗い部屋。青白い光が、壁に点々と灯っていた。

「!?」

 キョロキョロしていたありあの動きが、ぴたり、と止まった。

(……あ、れは……?)


 自分の目で見たものが信じられない。ありあは目をこすった。


(……ほ、ほんも……のっ……!?)

 叫ばないように、口に手を当てる。顔が真っ青になるのがわかった。冷や汗がでて、心臓が、どくん、と嫌な音を立てた。


 部屋の中央の床にある魔方陣。それに配置された六つの青い石から、青白い光が真っ直ぐ上に上り、光の柱を作り出していた。

 その柱の中に……天井まで届く、大きなガラスの筒のようなものが置かれていた。青白の光に満たされた筒の中で、宙に浮いていたのは……。


 金色の髪。グラントやリカルドが年を取ったら、こうなるのではないか、と思われる、皺のある顔。


「シルヴェスタ公……リチャード殿下……の……?」

 ……生首、だった。

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