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シルヴェスタ城~偽りの王座3

 奪われた……モノ……?


 リカルドの腕が、なお一層強く、ありあを抱き締めた。ありあはもがくこともできなくなった。


「……おかしいとは、思いませんでしたか?」

「え?」

「ファーニア様の降嫁の話がでるのと同時に……グランディアの王と王太子が倒れるなどと」

「……」

「私の父は……もともとあまり身体は丈夫ではありませんでしたが……祖父、当時のグランディア国王は軍人上がりの頑強な御方でしたよ」

「……」

「それが……同じ症状の病に倒れ……都合良く、弟王子だけが無事、などと……」


 ありあは目を見張った。まさか……。


「……父の身体からは、微量ですが毒物が検出されました。神経を麻痺させ、身体が動かなくなる類のものです」

「毒!?」

 ありあの顔から血の気が引いた。

「グランディアの侍医長達は見抜けませんでしたが……母がセレスタインから連れて来た魔道士は医術にも長けていましてね……僅かな痕跡を見つけたのですよ」

「……そ、んな……」

「……ウィリアム前国王陛下が画策した事です。実の父と兄に毒を盛り……グランディア王の座をまんまと手に入れたのですよ」

(とうさまが……?)

「大国グランディアが輿入れを申し込めば、巫女の塔もそうそう断れない……そう思われたのでしょう」

「……」

(……サーリャもそんな事、言ってた……)

 グラントと結婚したくないけど、断る事もできないって。ありあはサーリャの言葉を思い出した。

 くくっと僅かに笑いながら、リカルドが言葉を継いだ。

「そうまでして、得たかった巫女姫を――やっと手に入れた愛する人を――結局は、自分の手にかけてしまったのですからね、ウィリアム前国王陛下は」


 胸に鈍い痛みが走った。とうさまが……かあさまを……して、しまったのは。

(私……が……いた、から……)

『お前が……お前がっ……』

 あの時、そう叫んでいたとうさま。きっと……こう言いたかったのだろう。


 ――お前さえ、いなければ


 思わず目をぎゅっと瞑る。身体が……ばらばらになるような、痛みが、ありあを襲った。両手を握りしめる。

(私……っ……)

 私がいなかったら。かあさまが一人で降嫁していたら。とうさまは……あんな風にはならなかった……かあさまも……っ


(殺されずに……すん……)


 ……閉じかけたありあの心に、力強い声が聞こえて来た。


 ――お前がいる場所は、俺の傍だ。それだけは決して変わらない。

 ――自分を邪魔者みたいに、言うのはやめろ。


 ありあは目を開けた。強張っていた握りこぶしから、力が抜け……手のひらが開いた。

(グラ……ント……?)

 傍にいろ。そう……言って……た……。


 ありあの心に……温かさが戻って来た。今は、傍にいない……けれど。

(心は……ちゃんと、傍に……いて、くれてる……)


 ありあは手にぐっと力を入れ、リカルドから少し身を離し、彼の顔を見上げた。見下ろすリカルドの表情は……読めなかった。

「……奪われたものって……グランディアの王座、ですか?」

 ありあの問い掛けに、リカルドは微笑んだ。

「それも、ありますね」

「で、でもっ……グラントが悪いわけじゃ……!!」

「……それも、判っていますよ」

 リカルドの青い瞳は……冷静だった。

「どちらかと言えば、陛下は犠牲者、ですからね。幼少の頃に見捨てられ……王宮に迎え入れられてからも、貴族達の間で御苦労なさり……自分の手で、闇に堕ちた父王の命を絶たなければならなかったのですから」

「……じゃ、あ……」

 リカルドの瞳に……妖しい光が宿った。ありあの背筋が寒くなった。

「……ですが、グランディアの王として立ち会っていただかなければなりません。正しい王に王座が戻る――その瞬間にね」


************************************************************


「……ヴェルナー、後は頼む。シルヴェスタだけでなく、他の貴族どもからも目を離すな」

「……承知いたしました。必ず、アーリャ様と共にお戻り下さい」

 ヴェルナー伯爵に頷くと、グラントは右手を上げて合図をし、そのまま馬に鞭を入れた。数騎での出立。白の影は、魔術で姿が見えないが、呼べば現れる、とサニリアから聞いていた。


 ――ありあ……!


 選り抜かれた駿馬達の足音が街道に響いた。風を切る様に、全力で駆け抜ける。休まず走らせても……二日、か。


 闇の神に傷つけられた身体は大丈夫なのだろうか。怖い思いをしていないのか。そんな想いばかりが、心をよぎった。

(リカルドの性格からいって……ありあに無理強いはしないだろうが……)

 あいつが何を求めているのか。何をしようとしているのか。はっきりしない所も多い。

(セレスタインからの王宮魔道士が問題、か……)

 アスタリア妃が嫁いだ時、故国から連れて来たという、黒いフードを被った魔道士達。……薔薇園で襲ってきた奴らと同じ、だった。

ヴェルナ―が調査した闇の眷属を引きこんでいるのも……おそらくは……。


グラントは……眼光鋭く、前方を見据えた。


 ――ありあを連れて帰る。グランディア城に。


 グラントと騎士達の一行は、砂埃を上げながら、シルヴェスタ城を目指し、広い街道を北上して行った。

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