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シルヴェスタ城~偽りの王座2

「……母が来たそうですね」


 運ばれてきた食事を採り終わったところで、リカルドが部屋に来た。彼の第一声を聞いたありあは、ゆっくりと頷いた。

「あの……何か、誤解されてるみたいで……」

「誤解……?」

 リカルドがふっと笑った。どこか諦めたような笑顔に……ありあは目を離せなくなった。

「……いたって真面目ですよ……本人は、ね」

 リカルドが椅子に座り、そっとありあに手を伸ばした。上半身を起こしているありあの髪を一房、手に取った。

「もう……身体を起こせるのですか、あの傷で……さすがは、光の巫女、ですね」

「は……あ……」

 ありあは口ごもった。実は先程、一人になった時に……

(サーリャに習った治癒魔法をやってみたんだけど……)

 右手を怪我の部分に当て……波動を読み取る。呼吸を整え、細胞の一つ一つに語りかけるように、気を集中させる。怪我をして荒れてしまった波動を、元に戻す……。


 ――自分でも、びっくりするぐらい、痛みが引いて……、傷口が塞がった。


(でも、包帯巻いてもらった後だったから……)

 もう一度、ぐるぐる巻きにしてみた。なので、見た目上は変わらない。


「……母は、何と言っていましたか?」

 リカルドは手を離し……じっとありあの瞳を覗き込んだ。グラントに似た顔にせまられると……どうにも落ち着かない。

「……その……巫女の塔から降嫁してくれて、嬉しい……と」

「……私の妃になると、思っていたでしょう」

 ありあは何も言えず、俯いた。大きな手が……ありあの頬に当てられ、顔を上に上げられた。

(う……っ……)

 近い。リカルドさんの顔が近い……っ!! 目を逸らしたくても……許してもらえない。

 ……ありあは身動きできなくなった。


「……私が王になったとしたら……あなたは王妃の座に留まって下さいますか?」

「……え……?」


 王に……って……?


 話についていけていないありあを見て、リカルドが笑った。

「……今、陛下に後継ぎはいらっしゃいません。もし、何か……があれば、私の父に王位は移ります。ですが、父は王の座につける健康状態ではない。必然的に、次の王位継承者は私、になるのですよ」

「何か……って……」

 ゆったりと微笑むリカルドの瞳が……妖しく光った。

「何が起こっても、不思議ではないでしょう? 陛下は……闇に侵された左腕をお持ちですから」

「……っ!!」

 ありあはリカルドの瞳を真っ直ぐに見た。

「グラントは……闇になんか、負けません……っ」

 リカルドが手を伸ばし……ありあを抱き締めた。

「リ、リカルドさんっ……!?」

 もがいても、力強く抱き締められていて、びくともしない。

「……私が王になったとしても……あなたは、陛下を選ぶのですか。王でなくなった、あの方を?」

 耳元で囁かれて、背筋がぞくり、とした。

「だ、だっ……て……」

(え、選ぶとかって言われても……そんな、問題じゃ……)

 ありあは軽くパニック状態になっていた。

「グ、グラントは……ずっと私の事、護ってくれて……いて……」

「……あなたが、『アーリャ姫』だった頃から、ですか?」

 ありあの目が大きく見開かれた。くっくっく、と笑う振動が、リカルドの首元からありあの頬に伝わって来た。

「死んだと思われていた、陛下の妹姫。あれは、あなたでしょう?」

「……で、でも」

 とうさまは……私の、事。

「陛下とは血の繋がりはない……そういう意味では、あなたが王妃でも成り立つわけですが」

 グラントと……兄妹ではない。はっきりとそう言われたのは、初めてだった。

「……その事が、ウィリアム前国王を追い詰めた事もご存知ですか?」

「……とうさま……を……?」

 リカルドの雰囲気が……変わった。ありあは身体を硬くした。

「……ファーニア様が降嫁なされた時……すでにお腹には、あなたが宿っていた。ウィリアム前国王は、それを承知でファーニア様をグランディアに迎え入れたのです」

「……」

「それはそれは……ファーニア様を愛しておられましたからね……」

 優しい声色なのに……その後ろには、何か、どす黒いものが、ある。広い胸に抱き締められていても……グラントとは、違う。

(温かく……ない……)

 怖い。手足から体温が奪われて冷えていくような、怖ろしさ。ありあは声も出せず、ただリカルドの言葉を聞いていた。

「……人が何から闇に染まるのか、判りますか?」

「……」

「……往々にして……『愛』からなのですよ」

 リカルドはゆっくりと、言葉を選ぶように言った。

「あなたが誕生して……成長するに従い、ウィリアム陛下の心に、染みが広がっていったのですよ」

「……」

「妃そっくりの娘。その娘がいずれ……他の男の面影を写すようになるのではないか、とね」

「……」

 とうさまは……私を見ようとはしていなかった。触れられることもなく……話しかけられることも、稀だった。

(とうさまは……怖かった、の……?)

 かあさまが……

「……ですから、ウィリアム陛下を闇に染めるのは簡単でした。こう、囁くだけでよかったのですから」

 リカルドがありあの右耳に、熱い吐息とともに、囁いた。

「……ファーニア様は、アーリャ様の父親を、忘れていない、と」

「!?」

 今……何を、言って……?

思考が停止したありあの耳に、リカルドの無慈悲な言葉が入って来た。

「ファーニア様が私にうっかり洩らしてしまった……そう思われたのでしょうね。それから先は……まるで石が坂を転がるようでしたよ。ファーニア様が話しかける相手全てを疑い……男達をファーニア様から遠ざけ……それでも尚、不安で仕方がなかった陛下は……闇の眷属の声を受け入れてしまった……」

「な……」

「……ファーニア様があなたの父親について、決してお話しされなかった事も、拍車をかけたと思いますがね」

「ど……うして」

 ありあは絞り出すように……かろうじて声を出した。

「どうして……そんな、事……」

「どうして?」

 にやりと笑った気配がした。

「……奪われたモノを、取り返すためですよ」

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