シルヴェスタ城~偽りの王座1
『……人の子よ。我の力を宿す、というのか』
『……はい……』
『神の子を……望むのか』
『……はい……』
『……ならば、問おう。そなたは、その子に、何を望む?』
『……』
……何を?
光の力を復活させ、闇の力を封印する。それが私の役目であり……光の子の役目。
そう、言おうとした時……ふっと目の前に、影が現れた。黒い髪、黒い瞳――白い肌、薔薇色の頬。小さな小さな、輝く命。
まだ、宿ってもいないのに……この手に、柔らかさも温かさも、感じ取る事ができた。小さな手が、ぎゅっと私の指を握る力強ささえ。
『……わ、たしは……』
頭で考えるよりも先に……言葉が出た。
『……幸せに』
『……』
『その子が……幸せになる様に、と』
どこからか、笑い声が聞こえた。
『……承知した。我の力をそなたに与えよう。だが忘れるな』
『……その力をどう使うのか、どう生きるのか、は、全てその子が決める事。そなたらは……口出しできぬ、と言う事を』
そのまま……眩いばかりの光に包まれて、私は意識を失った。
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「……様、まだ巫女姫様は御身体の調子が……」
「……少しご挨拶するだけよ。ご負担にならないようにするわ」
(あれ……?)
夢を見ていたありあは、ゆっくりと目を開けた。誰かの……声がした……?
ありあがそちらに顔を向けると……一人の中年の女性が、侍女らしき女性を伴って部屋に入って来るところだった。
女性は、音もなくありあの近くまで歩いてきた。侍女が椅子をベッド近くに用意し、女性はゆっくりと椅子に座った。そして、ありあの顔を見て、にっこりと笑った。
「……ごめんなさいね、どうしてもあなたにご挨拶したくって」
「は……い……」
銀色の髪をゆったりと巻き上げた、上品な婦人。青い瞳に白い肌。瞳と同じ色のドレスが似合っていた。
「ああ、いいのよ、そのままで」
身体を起こそうとしたありあを、手を振って止めた。
「酷い怪我だったと聞いたわ。この城に来る時に事故に遭われたとか」
「……え?」
ありあの目が丸くなった。
「……巫女の塔から降嫁して下さったのですってね。グランディアの王妃となる為に」
「はい……?」
「……嬉しいわ。光の巫女姫が息子の妃となってくれるなんて」
「――えっ!?」
(息子……!?)
目の前でにこにこ笑う、婦人に、ありあは絶句した。
(な……んか、話が噛みあってない……ような、気が……?)
ありあがそっと後ろを見ると――侍女が済まなそうな顔をして、人差し指を立てて口に当てていた。
(……黙ってろ……ってこと……?)
「あの……あなた、は……」
「ああ、ごめんなさいね、ご挨拶が遅れてしまったわ」
ありあは、自分を見つめる青い瞳に……ふと気付いた。この婦人の正体に。
「……私はアスタリア=セレス=グラディノール。前グランディア国王リチャードの妃にて、現国王リカルドの母よ」
「……!?」
――やっぱり。リカルドさんの瞳とそっくりだもの、とありあは思った。しかし……
(……今、現国王って言わなかった?)
「ああ、リチャード殿下もあなたに会いたいとおっしゃっていたわ。でも、お身体の調子が良くなくて……」
「あ、あの、無理しないで下さいね。私も……このような状態、ですし……」
ありあは慌てて言った。
「まあ……お優しいのね」
アスタリア妃が、少し涙ぐんだ……ように見えた。
「リカルドは……側室すら持たず、政務に励んできたから……光の巫女が降嫁されると聞いて、本当に嬉しかったの……」
「……」
どう返事をすればいいのか、わからない。ありあは言葉を出せなかった。
「……今度、殿下と一緒に御茶会に招待いたしますわ。ぜひ、いらしてね」
「はい……ありがとうございます……」
アスタリア妃はにっこりと笑ってお辞儀をし、その場を辞した。ありあは……しばらく呆然、としていた。
(な……んだったんだろう……今の……?)
「……申し訳ございません、巫女姫様」
アスタリア妃と共に部屋に来た侍女が、頭を下げた。
「妃殿下は……その、少し夢見がちなところが御有りなのです。どうか、お気を悪くなさらないで下さいませ」
「はい……」
侍女は再び頭を下げ、部屋を出て行った。
――一人残されたありあの頭の中は、疑問符で一杯になっていた。




