グランディア城~到着
「うわあ……」
馬車から降りたありあは、石造りの壁を見上げて、溜息をついた。
頑強な城壁に囲まれたグランディア城は、どっしりとした佇まい、だった。繊細、というより武骨な感じがした。積み上げた石、に歴史を感じる。
「すごい……中世のお城みたい……」
思わず呟いたありあを、グラントが鋭く見た。
「……珍しいのか?」
ありあは、グラントを見上げた。
「グラントは……何も感じないの?」
グラントの表情は変わらなかった……が、瞳が光ったような……気がした。
「ここ……沢山の人の想いが……積み重なってる」
ありあは目をつむった。風がふわっと髪をなびかせていく。
(教会とは……違う)
なんだろう、この感じ。
「……陛下」
男性の声。ありあは目を開けた。
グラントの目の前に、頭を垂れている男性、がいた。
「……ヴェルナー」
グラントはありあの肩を抱き、自分の前に立たせた。
「……ありあ。グランディアの宰相、ヴェルナー伯爵だ」
ヴェルナー伯爵が顔を上げる。ありあの顔を見た彼は……驚きを隠せない様子だった。明るい茶色の髪に、緑色の瞳。グラントと同じぐらいの年。
(この若さで宰相って……仕事できる人なんだなあ……)
「……聖レヴァンダ皇国の巫女姫、ありあ、だ」
「あ……りあ……様……?」
ありあはヴェルナー伯爵を見、ぺこり、と頭を下げた。
「ありあ、です。よろしくお願いします」
ヴェルナー伯爵は、グラントとありあの顔を交互に見た。
グラントの右眉が上がった。ヴェルナー伯爵の頬が、ピクリ、と動いた。
グラントはありあから手を離し、城の入り口に方向へ一歩踏み出した。
「ヴェルナー、ありあを案内してやってくれ。私は執務室に戻る」
「は……」
ヴェルナー伯爵が頭を下げた。グラントがありあを振り返って見る。
(グラント……)
少し不安。ありあはぎゅっと手を握り締めた。グラントの表情が少し強張った。
「……心配しなくてもいい。ヴェルナーに任せておけばいい」
ありあは目を見開いた。不安だって……わかってくれた?
「はい、グラント」
にっこりと笑いながら、ありあは言った。
グラントは……表情を変えなかった。ヴェルナ―伯爵は……その場で固まっていた。
やがてグラントは踵を返し、足早に立ち去って行った。ありあはその後ろ姿をじっと見つめていた。
「……あり……あ様?」
ためらいがちな声がした。ありあはヴェルナー伯爵の方を見た。
「ありあ、が言いにくければ、アーリャでもいいです。そう、呼ばれてましたし」
ますますヴェルナー伯爵の表情が強張った……ように見えた。
「アーリャ様……」
ヴェルナー伯爵が溜息と共に言った。
「……城をご案内いたします。どうぞ、こちらへ……」
ありあは、ヴェルナー伯爵と共に、城の中へと歩いて行った。