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シルヴェスタ城~昔語り2

 降嫁した巫女姫が最初に行ったのは……側室と共に王城から去った、『忘れられた王子』を呼び戻すことでした。


 側室は当の昔に亡くなっており、まだ幼かった王子は、その地を治める伯爵家に引き取られていました。


 巫女姫は、その王子の後見人になる、と宣言し、彼を王太子にするよう、王に進言しました。王はその言葉を受け入れ、永らく忘れていた王子を、正式に王太子としたのでした。


 家臣の中には、身分の低い側室の子が王太子になることに、納得しない者も大勢おりました。

特に、王兄の妃は、本来ならば、自分の息子がその地位についていたはずなのに、と王や家臣の目前で、王子を酷く罵りました。

王子の容姿が、偶然にも、我が子と瓜二つだったことも、彼女には我慢ならなかったのでしょう……。


 そんな心ない言葉を浴びせられても、王太子となった彼は、何も言い返す事もなく、ただ黙って立っているだけでした。


『この子には、王の才覚がある。きっと素晴らしい王になるに違いありません』

 そう皆の前で言ったのは……正妃となった光の巫女姫でした。血の繋がらない王太子を、我が子同然に可愛がりました。無表情だった王太子も、少しずつ王妃を慕うようになりました。


 そして――王妃に王女が産まれました。王妃は王太子に、王女を頼む、と言いました。政務に忙しい王や王妃に代わり、王女の養育に携わった王太子は、可愛い妹の前では笑顔を見せるようになりました。


 やがて王太子は、王妃が言った通り、指南役の貴族が舌を巻くほどの才能を見せ始めました。反対していた貴族達も、王太子になって二年が過ぎる頃には、誰も何も言わなくなりました。


 そう……このまま幸せな時が過ぎていくと、誰もが思っておりました。


 ――あの日、が来るまでは。


**********************************************************************


「……それって……」

 ありあは今聞いた話を、もう一度思い返した。


「そう……グラント陛下の事、ですよ」

 リカルドがゆっくりと言った。

「陛下の実の御母君は……ヴェルナー伯爵領の地方貴族の娘、でした。視察に行ったウィリアム前国王が見染めて、赤の離宮に連れ帰った、と聞いています。控えめで、物静かな女性だったそうですが」

「……」

 グラント……


 ありあの目の前が、ちかっと光った気がした。さっきから、何か、が心に割り込んで……くる……。


「ですから、陛下は巫女姫――ファーニア正妃が呼び戻すまで、王宮で御育ちではないのですよ。赤の離宮で御生れになり、そのままヴェルナー伯爵領へと移り住まれて……」

「……」

 ……グラントが怒ると口が悪いのって……一般市民生活をしてたからなの?

謎が一つ、解けた気がした。


(……あれ?)

 今私……自然に『グラント』って……呼んでた……?


 胸に輝く緑石が……熱を持った、気がした。

 

『……お前……光の巫女、か?』

『俺を……愛さないでくれ』

『誰の……子だ?』

『俺が寵愛している王妃だろ、お前は?』

『……大切に……する。だから……お前も……』


(な……に……)

 ありあの頭の中に、グラントの声が次々と響いた。目まぐるしく、いろんなシーンが入れ替わって見える。訳が……わからな……。


「……お疲れのようですね」

 ありあは、リカルドの声に今に引き戻された。リカルドは手を伸ばし、ありあの額に当てた。

「若干微熱気味ですね。傷のせいでしょう。今日はここまでにしましょう。ゆっくりとお休み下さい」

 リカルドは立ち上がり、にっこりと微笑むと部屋から出ていった。ありあは……ぼーっとリカルドの後ろ姿を見送っていた。


(と、とりあえず……寝よう……)

 体力回復しないと、何もできない。ありあは、そっと目を閉じ、ゆうるりと夢の世界に足を踏み入れた。

 


**********************************************************************


 グラントは、言葉を発する事ができなかった。ありあの他にもいるという、巫女の候補者。その二人が……。

 サーリャの顔色も悪かった。シャルロッテは……表情が読めない。

「……私としては、アーリャ様に塔にお戻りいただきたいと思っております。あの方の出自から言えば、それが当然ですから」

 サニリアの言葉に、グラントは眉をひそめた。

「出自……?」

「……アーリャ様が前国王ウィリアム陛下の御子ではない事は、ここにいる皆さまならご存知でしょう」

「サニリア……っ!!」

 サーリャが真っ青な顔で叫んだ。

「……ファーニア様が隠そうとなさった事。始めは誤魔化されました。ですが、もう通用いたしません」

 サニリアが冷静な瞳をグラントに向けた。

「……全てを知ってもなお、アーリャ様を傍に置きたいと御望みになりますか?」

 グラントは漆黒の瞳を見据えた。

「……ありあが何者だろうと関係ない。俺の妃だ。巫女の塔には、渡さない」


 暫くの間、グラントとサニリアは火花を散らすように、互いの瞳を見ていた。いや――睨みつけていた。

二人が醸し出す、絶対零度の冷たさに、思わずサーリャは両手で二の腕を擦った。


 ふふっとサニリアの口元が少し上がった。

「なるほど……これも予測の内、ですか、ファーニア様……」

 サニリアの瞳が、一瞬煌めいた。

「あなたを選んだ事……さすが、と申し上げるべき、ですわね……」

「……何を言っている」

 サニリアはグラントの傍に行き、彼を見上げた。

「では……お話いたしましょう。ファーニア様が決してウィリアム前国王にお話にならなかった、真実を」

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