シルヴェスタ城〜昔語り1
『……』
誰かが……呼んでる?
『アーリャ……』
ありあはゆっくりと目を開けた。ぼうっとした瞳に映ったのは――綺麗な金の髪。整った顔。誰かが、枕元近くの椅子に座っていた。
(グラ……ント……?)
しかし……
――その瞳は、青かった。
「……お目覚めですか、アーリャ様?」
「……リカ……ルド、さん……?」
そう……この人はリカルドさんだ。グラントの従兄弟の。ブルーのチェニックを着ていた彼は、本当にグラントに似ていた。
ゆったりと微笑むリカルドは――優しい微笑みを浮かべているのに――ありあは、何故か、怖かった。
「……闇の神は随分と貴女を弄んだようですね」
「……え……」
くすり、と小さく笑う彼の瞳には、狂気にも似た光、が宿ってた。
「まだ痛むでしょう。しばらくは身体を休めていて下さい」
「……あの……」
どうして、リカルドさんがここに? ありあの疑問を読み取ったかのように、リカルドが言葉を継いだ。
「……ここは、シルヴェルタ城です。代々王の兄弟が住むこの城と、赤の離宮は魔方陣で繋がっているのですよ。有事があった場合に、王族が逃げ出せるように」
「あ……」
『ありあ!』
グラントの目の前で、暗闇に引き込まれた。じゃあ、あれが……魔方陣を通って……?
そっとリカルドが手を伸ばし、ありあの髪を撫ぜた。
「……ようやく、手に入れた……」
ぞくり、とありあの背筋が寒くなった。リカルドの瞳は……ありあを見ているようで、見ていないようだった。
「……陛下が、心から欲しているモノ。そのようなモノは、なかなかありませんから」
「……グラントが……?」
リカルドは手を離し、身を乗り出すように、ありあを覗き込んだ。ありあは思わず首をすくめた。
「……少し、昔語りをしましょうか。陛下があなたを迎えに来るまで」
「昔語り……?」
間近で見るリカルドの瞳は、澄んだ夏の空のような色だった。
「ええ……何からお話しましょうか……」
リカルドの口元が……少し上がった。
「……貴女が生まれる前……陛下がお生まれになった頃から始めましょうか……」
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その昔、大国グランディアには、双子の王子がいました。
知略に優れた兄王子に、武芸に優れた弟王子。どちらが王になっても、グランディアの未来は明るいと皆は思っておりました。
兄王子はセレスタイン王国の姫君を妃とし、王太子の座に着きました。弟王子は、正妃はいないものの、何名かの側室を迎えていました。
仲の良い双子の運命が変わったのは……弟王子が傷の治療のために、巫女の塔を訪れたことが、きっかけでした。
美しく気高い光の巫女姫に、弟王子は心を奪われてしまったのです。
弟王子は側室を顧みることもなくなり、足繁く巫女の塔に通うようになりました。
一番身分の低い側室には、男の子も生まれておりましたが、弟王子が関心を向けることはありませんでした。
他の側室から嫌がらせを受けていた彼女は、赤の離宮を出て、息子と共に生れ故郷へと帰っていきました。
そうして何年かが過ぎた頃、弟王子の耳にある噂が入るようになりました。
光の巫女姫が、どこかの王に降嫁されるかも知れない、というのです。巫女姫は力を失っており、巫女の塔から追放されるのではないか、と。
絶世の美女と名高かった巫女姫には、各国の王から申し入れがありました。
……時を同じくして、弟王子の父王と兄王子が、病に倒れてしまいました。半身不随となった兄王子には、王の激務には耐えられないだろう、と側近たちは判断しました。兄王子にも息子がおりましたが、大国の王の責務を背負わせるには、まだ幼かったのです。
こうして、弟王子は王の座につき、光の巫女姫を正妃に、と申し入れました。
巫女の塔も降嫁を認め、王となった弟王子は、ようやく愛する巫女姫を手に入れることができたのでした……。




