???~光の巫女の候補者
『……アーリャ』
大きな優しい手。温かい。きれいな銀色の瞳。
『ずっと……俺がそばにいる。お前を護るから』
『うん! にいさま』
ぎゅっと抱きついた私の頭を、よしよしと優しく撫ぜてくれた。
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『……お前が……お前が……っ!!』
『と……うさま?』
見た事もない、怖ろしい顔。目が……ギラギラと光っていた。
『とうさまなどど、呼ばれとうないわ!! お前は余の子ではない!!』
『え……』
とうさま……じゃ、ない……?
『……!!』
息が出来ない。苦しい。大きな手が……首を絞めていた。
『止めて! 陛下、お止め下さいっ!!』
突然、身体が放されて、ずるずると床に座り込んだ。げほげほっとむせ込む。
『かあ……さま……』
鬼のようなとうさまにすがる、かあさまの姿。
『どうか、お止め下さいっ!! アーリャには何の罪もございませんっ!!』
『この娘が……この娘がいるから、お前は……っ!!』
『陛下っ!!』
とうさまの身体から……黒い霧のようなものが立ち昇った。
『!! 闇の眷属!?』
かあさまの表情が歪んだ。
『アーリャ! 逃げなさい!! もう陛下は、陛下では……っ!?』
『かあさま!!』
とうさまの両手が……かあさまの首を……。かあさまの身体が、宙づりになった。
身体がかたかたと震える。声が……出せない。
『ア……リャ……』
『かあ……さ……』
私の方に伸ばしたかあさまの手が……だらり、と下に落ちた。
そして……かあさまだった、動かない身体が……床にどさり、と落ちた。
ぎろり、と光る、獣の目……。
『あ……』
何か、が外れたように、口から悲鳴が出た。
『きゃああああああっ!!』
『お前を……』
とうさまが私に手を伸ばそうとした瞬間……
――扉の開く音がした。
『父上! 義母上! アーリャ!』
にいさまが真っ青な顔をして、部屋に飛び込んできた。かあさまと私を見て……信じられない、といった瞳をした。
『父上! 一体何を……!』
『……こやつらは……魔物だ……』
『何を言って……!?』
『……血を捧げよ……巫女の……血……』
(あ……あ)
闇が濃くなった。とうさまの目の色が……真っ赤に……。
『父上っ!?』
黒い霧のような、禍々しい気配。にいさまの動きが止まった。
『ワレ……ニヨコセ……ソノ、カラ……ダ……』
違う声。暗闇から聞こえる……ぞっとするような声。
にいさまの身体を、黒い霧が覆った。
『ぐ……がっ……!』
にいさまが身体を二つに折り、黒い血を吐いた。身体が……黒く染まっていく。
にいさまが膝をつき、顔を歪めた。
『ぐ……っ!!』
咄嗟に、にいさまに駆け寄った。
『にいさまっ!』
『アーリャ!?』
にいさまの右手にしがみつく。
『しんじゃ、やだっ!』
『アーリャ、離れろ!』
『いや!』
冷たい感覚。にいさまの身体から……何か、が私に移って来た。嫌な何か、が身体に纏わりついた。
『に……い、さ……』
全てが闇に呑まれていく。
(い……や……っ……!!)
そう思った時――胸の奥がかっと熱くなった。
『アーリャ!!』
にいさまの伸ばした右手が……ぐにゃりと歪んだ。私の身体は――真っ暗などこかに、飛ばされていた。
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「……?」
誰かの……声、がする。そっと目を開けると……心配そうな顔した、女性の顔。
ゆっくりと身体を起こす。木の床。見なれない……場所。そして、紺色の服を着た、優しそうな女性。
『……にいさまは……?』
女性が目を見張った。
『……あなた……向こうから来たの?』
『え……?』
もう一人、同じような紺色の服を着た女性が、近くに歩いてきた。
「○☆♯◆◎*★!?」
……何か、言ってる……
「△●*¥■★……」
最初に声をかけてくれた女性が、何かを答えて私を見た。
『私の名前は、シスター・雅子よ。あなたのお名前は?』
『アーリャ……』
『そう……アーリャ、落ち着くまで、ここにいなさい。ここなら安全だから』
『は……い……』
女性が、手を差し伸べてくれた。
『こちらへいらっしゃい、アーリャ。まずは腹ごしらえをしましょうね』
私は女性に手をひかれて立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
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『……アーリャ。あなたの世界には当分戻れないと思うの。ここで暮らしていきましょうね』
『……はい……』
『大丈夫よ? 私も他のシスターたちも、みんなついているわ』
私はこくん、と頷いた。
『……お名前を決めないといけないわね。あなたは私の娘、ということにしましょう』
『……シスター……?』
『……ありあ。ここでのあなたの名前は、北野ありあ、よ』
「ありあ……?」
ふふっとシスターが微笑んだ。
『少しずつ……慣れていきましょうね……』
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(あ……)
ゆっくりと目を開ける。彫刻のされた天井が見えた。
「ここ……?」
ゆっくりと辺りを見回した。どこかの……部屋……?
「……痛……っ」
ありあは顔をしかめた。まだ、身動きすると身体に痛みが走る。
(あれ……?)
右手を見た。包帯が巻かれてある。
(誰か……手当てしてくれた……?)
「まあ……お目ざめですか、巫女姫様」
侍女風の格好をした女性が、ありあの枕元近くに来た。
「これをお飲み下さいませ。痛み止めの薬蕩ですわ」
上半身を少し起こしてもらい、カップに入った薬、を飲む。思わず顔が歪んだ。
「にが……っ」
「我慢して下さいませね。全身の怪我がひどくて、痛み止めなしではお辛いと思いますわ」
また、ゆっくりと寝かされる。
「あの……ここ……は……」
ありあの問いに、侍女は瞬きをした。
「……もうじき主が参ります。主からお話があるそうですわ」
主って……? ありあはぼーっとした頭で考えた。部屋の様子から見ても、一般市民ではなさそうだ。どこかの、貴族の館……?
(シャルロッテさんは……大丈夫……?)
薬が効いてきたのか、次第に意識が朦朧としてきた。ありあはまた目を瞑り、うつらうつらと浅い眠りに入っていった。
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グラントはサニリアに尋ねた。
「光の巫女……だと? ありあ以外に?」
「はい」
サニリアは真っ直ぐにグラントを見返した。
「当然ですが、アーリャ様が第一位の候補者です。アーリャ様の力は強大です……おそらく初代光の巫女に匹敵するでしょう」
「……」
「ですが、他にも候補がいるのであれば、放置するわけにも参りません。その確認のため、グランディアに参りました」
「……誰だ、それは」
サニリアは部屋にいた人を見渡した。
「……もうお気づきの方もおられると思いますが。そうですわね、サーリャ様?」
サーリャがぴくり、と動いた。
「……お二方いらっしゃいます。それは……」
サニリアの言葉に、グラントの銀の瞳が大きく開かれた。




