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???~光の巫女の候補者

『……アーリャ』

 大きな優しい手。温かい。きれいな銀色の瞳。

『ずっと……俺がそばにいる。お前を護るから』

『うん! にいさま』

 ぎゅっと抱きついた私の頭を、よしよしと優しく撫ぜてくれた。


**********************************************************


『……お前が……お前が……っ!!』

『と……うさま?』

 見た事もない、怖ろしい顔。目が……ギラギラと光っていた。

『とうさまなどど、呼ばれとうないわ!! お前は余の子ではない!!』

『え……』

 とうさま……じゃ、ない……?


『……!!』

 息が出来ない。苦しい。大きな手が……首を絞めていた。

『止めて! 陛下、お止め下さいっ!!』

 突然、身体が放されて、ずるずると床に座り込んだ。げほげほっとむせ込む。

『かあ……さま……』

 鬼のようなとうさまにすがる、かあさまの姿。

『どうか、お止め下さいっ!! アーリャには何の罪もございませんっ!!』

『この娘が……この娘がいるから、お前は……っ!!』

『陛下っ!!』

 とうさまの身体から……黒い霧のようなものが立ち昇った。

『!! 闇の眷属!?』

 かあさまの表情が歪んだ。

『アーリャ! 逃げなさい!! もう陛下は、陛下では……っ!?』

『かあさま!!』

 とうさまの両手が……かあさまの首を……。かあさまの身体が、宙づりになった。

 身体がかたかたと震える。声が……出せない。

『ア……リャ……』

『かあ……さ……』


 私の方に伸ばしたかあさまの手が……だらり、と下に落ちた。

そして……かあさまだった、動かない身体が……床にどさり、と落ちた。


 ぎろり、と光る、獣の目……。

『あ……』

 何か、が外れたように、口から悲鳴が出た。

『きゃああああああっ!!』

『お前を……』

 とうさまが私に手を伸ばそうとした瞬間……

 

 ――扉の開く音がした。


『父上! 義母上! アーリャ!』

 にいさまが真っ青な顔をして、部屋に飛び込んできた。かあさまと私を見て……信じられない、といった瞳をした。

『父上! 一体何を……!』

『……こやつらは……魔物だ……』

『何を言って……!?』

『……血を捧げよ……巫女の……血……』

(あ……あ)

 闇が濃くなった。とうさまの目の色が……真っ赤に……。 

『父上っ!?』

 黒い霧のような、禍々しい気配。にいさまの動きが止まった。

『ワレ……ニヨコセ……ソノ、カラ……ダ……』

 違う声。暗闇から聞こえる……ぞっとするような声。


 にいさまの身体を、黒い霧が覆った。

『ぐ……がっ……!』

 にいさまが身体を二つに折り、黒い血を吐いた。身体が……黒く染まっていく。

にいさまが膝をつき、顔を歪めた。

『ぐ……っ!!』

 咄嗟に、にいさまに駆け寄った。

『にいさまっ!』

『アーリャ!?』

 にいさまの右手にしがみつく。

『しんじゃ、やだっ!』

『アーリャ、離れろ!』

『いや!』

 冷たい感覚。にいさまの身体から……何か、が私に移って来た。嫌な何か、が身体に纏わりついた。

『に……い、さ……』

 全てが闇に呑まれていく。

(い……や……っ……!!)

 そう思った時――胸の奥がかっと熱くなった。

『アーリャ!!』

 にいさまの伸ばした右手が……ぐにゃりと歪んだ。私の身体は――真っ暗などこかに、飛ばされていた。


**********************************************************


「……?」

 誰かの……声、がする。そっと目を開けると……心配そうな顔した、女性の顔。

ゆっくりと身体を起こす。木の床。見なれない……場所。そして、紺色の服を着た、優しそうな女性。

『……にいさまは……?』

 女性が目を見張った。

『……あなた……向こうから来たの?』

『え……?』


 もう一人、同じような紺色の服を着た女性が、近くに歩いてきた。

「○☆♯◆◎*★!?」

 ……何か、言ってる……

「△●*¥■★……」

 最初に声をかけてくれた女性が、何かを答えて私を見た。

『私の名前は、シスター・雅子よ。あなたのお名前は?』

『アーリャ……』

『そう……アーリャ、落ち着くまで、ここにいなさい。ここなら安全だから』

『は……い……』

 女性が、手を差し伸べてくれた。

『こちらへいらっしゃい、アーリャ。まずは腹ごしらえをしましょうね』

 私は女性に手をひかれて立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。


**********************************************************


『……アーリャ。あなたの世界には当分戻れないと思うの。ここで暮らしていきましょうね』

『……はい……』

『大丈夫よ? 私も他のシスターたちも、みんなついているわ』

 私はこくん、と頷いた。

『……お名前を決めないといけないわね。あなたは私の娘、ということにしましょう』

『……シスター……?』

『……ありあ。ここでのあなたの名前は、北野ありあ、よ』

「ありあ……?」

 ふふっとシスターが微笑んだ。

『少しずつ……慣れていきましょうね……』


**********************************************************


(あ……)

 ゆっくりと目を開ける。彫刻のされた天井が見えた。

「ここ……?」

 ゆっくりと辺りを見回した。どこかの……部屋……?

「……痛……っ」

 ありあは顔をしかめた。まだ、身動きすると身体に痛みが走る。

(あれ……?)

 右手を見た。包帯が巻かれてある。

(誰か……手当てしてくれた……?)

「まあ……お目ざめですか、巫女姫様」

 侍女風の格好をした女性が、ありあの枕元近くに来た。

「これをお飲み下さいませ。痛み止めの薬蕩ですわ」

 上半身を少し起こしてもらい、カップに入った薬、を飲む。思わず顔が歪んだ。

「にが……っ」

「我慢して下さいませね。全身の怪我がひどくて、痛み止めなしではお辛いと思いますわ」

 また、ゆっくりと寝かされる。

「あの……ここ……は……」

 ありあの問いに、侍女は瞬きをした。

「……もうじき主が参ります。主からお話があるそうですわ」

 主って……? ありあはぼーっとした頭で考えた。部屋の様子から見ても、一般市民ではなさそうだ。どこかの、貴族の館……?

(シャルロッテさんは……大丈夫……?)

 薬が効いてきたのか、次第に意識が朦朧としてきた。ありあはまた目を瞑り、うつらうつらと浅い眠りに入っていった。



**********************************************************


 グラントはサニリアに尋ねた。

「光の巫女……だと? ありあ以外に?」

「はい」

 サニリアは真っ直ぐにグラントを見返した。

「当然ですが、アーリャ様が第一位の候補者です。アーリャ様の力は強大です……おそらく初代光の巫女に匹敵するでしょう」

「……」

「ですが、他にも候補がいるのであれば、放置するわけにも参りません。その確認のため、グランディアに参りました」

「……誰だ、それは」

 サニリアは部屋にいた人を見渡した。

「……もうお気づきの方もおられると思いますが。そうですわね、サーリャ様?」

 サーリャがぴくり、と動いた。

「……お二方いらっしゃいます。それは……」


 サニリアの言葉に、グラントの銀の瞳が大きく開かれた。


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