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グランディア城~王妃の間

「ふう……」

 ありあはベッドの上に寝そべり、溜息をついた。

(やっぱり、ちょっと疲れた……かも)

 ミーちゃんはまだサリの部屋だ。ミーちゃんを連れてくるのは、もう少し落ち着いてからにしましょう、とサリが言った。

 この部屋……王妃の間、ってサリが呼んでた。でも……

(かあさまがいた頃と……何か違うような気がする……)

 ……戻って来た。多分……ここが、戻りたかった場所で間違いない、と思う。お城の皆も……喜んで迎えてくれた。それに……

(……にいさま)

 いつも自分を守ってくれた、優しい兄。忙しい両親とは……特に王である父親とは、ほとんど思い出らしきものがなかったけれど……。

(にいさまは、ずっと傍にいてくれた……)

 あの綺麗な銀色の瞳が大好きで、小さい頃ずっと見てたなあ、とぼんやりと思い出した。


『……これからは、にいさま、ではなく名前で呼べ。もうお前も幼な子ではないのだから』

 さっき、中庭から戻ってくる時に、そう言われた。

『……グラントって?』

 そう聞くと、微妙な表情で、こちらを見た。

『……ああ。それでいい』

 うーん、とありあは考え込んだ。何か、が少しずれているような、なんとなくむず痒いような、感覚。

(まだ……思い出せてない事があるのかなあ……)

 グラントの顔を見た瞬間――開いていた穴が埋まった気がしたけれど。

(シスターも焦らないようにって言ってたし……ゆっくり思い出せば、いいよね……)

 ありあは目を瞑り、ゆっくりと夢の世界に入り込んでいった。


**********************************************************************


 白い手。

「な……に……!!」

 身体が抑えつけられる。いくつもの白い手が、自由を奪っていく。

「やっ……だっ……!!」

 身体をよじっても、逃げられない。

『……あなたは……に相応しい記憶と共に、生まれ変わるのです』

 冷たい声が響く。白い手が……ありあの心を鷲掴みにした。

「いやああぁぁぁっ!!」

 身体から、心から、大切な物、が奪われていく。無理矢理、何か、が引きずり出される。痛い。身体がばらばらになりそう……っ……!!

「やめ……て……っ……!!」

 忘れたくない。忘れたくない……っ!! ありあは必死に何か、に抗った。

「嫌……っ!!」

 誰か……助け……!! 

「……っ!!」

 ありあが何か、を叫んだ瞬間――


「……ありあ!!」

 ふっと白い手が消えた。小刻みに震える身体が、温かい何か、に包まれた。

「もう、大丈夫だ」

 優しい声。聞いた事のある……声。

「お前は俺が護る。だから心配しなくてもいい」

 少しずつ……震えがおさまってきた。力強い……腕。

(……この感じ……知ってる……)

 なくしたくなかったもの。大切な……なにか。

「……ト」

 ありあは温かさにすがった。温かくて……安心できる……。


 ――強張っていた身体の力が抜けた。ありあの意識はゆっくりと、優しい海の底に落ちていった。


**********************************************************************


「……眠った、か……?」

 グラントは腕の中のありあ、を見た。硬くなっていた身体からは力が抜け、ぐったりとグラントにもたれかかってた。

『見た目は普通でも、精神的にはかなり負担がかかっているはず。何かのはずみに、出てくるかも知れないわ』

 そうサーリャに言われていたため、様子を見に来たら……案の定、だった。


 閉じられた瞼の下に滲む涙を、そっと指で拭き取った。安らかな寝顔。だが……

さっきまで、ありあの顔は恐怖に歪んでいた。悲鳴。何か、を護ろうとするかのように、身体を曲げて小さく震えていた。

 グラントの銀の瞳が黒ずんだ。

(無理矢理……奪った、のか……)

 抑えきれない怒りを断ち切るように、ぎゅっとありあを抱き締める。

(さっき……お前……)

 ――確かに、ありあは言った。

『助けて……グラント』、と。

(覚えて……くれているのか。俺の事を)

 例え、意識には上らなくても。心の片隅でも。それが……嬉しかった。

(こんな目に合わせて……すまない……)

 もう二度と……離さない。俺が、お前を護る。だから……

(お前は……笑っていてくれ……)


 ――グラントはそっと、ありあの唇に自分の唇を重ねた。


**********************************************************************


「……おはようございます、アーリャ様」 

「……ん……」

 ごし、と目をこする。眩しい朝の光。ありあはゆっくりと目を開けた。

「あれ……?」

 身体を起こす。サリがにっこり笑って立っていた。

「……おはよう、サリ」

(何か……)

 昨日……何か、を思い出したような……?

(怖くて……でも、誰かが……)

「……よく、わからない……」

 サリがどうかしましたか、と尋ねた。

「ううん……何でもないの」

 ありあはベッドから降りた。んーっと伸びをする。長袖のネグリジェがふわっと揺れた。

「朝食後、サーリャ様が来られるそうですわ」

「げ」

 ……そう言えば、お勉強しないといけないんだった。

「何か、いっつも勉強してる気が……する……」

「アーリャ様のためですから。頑張って下さいね!」

「う……はい……」

 ありあは、サリが運んできてくれた朝食を大人しく食べ、身支度をしながら、サーリャを待った。

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