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巫女の塔~元の世界へ

 ――それは、一瞬の出来事だった。緑石の光が、ありあの身体を覆い、そして――

「……!!」

「きゃああっ!!」

 金の光を巻き込んだ風が、一気にサニリアと女官を吹き飛ばした。壁にぶつかり、気を失った女官。目を押さえて呻く者もいた。

「こ……れは……!!」

 サニリアは、真正面を見据えた。眩しいばかりに輝く光の中心に立つ、光の巫女の姿、がそこにあった。

「これが……闇を切り裂いた、という……」

 サニリアは呆然と光の炎を見ていた。


 ふ……っと、巫女の姿が消えた。金の光が失せる。

「サ、サニリア様っ!!」

 慌てたような女官達の声。サニリアは……ゆっくりと微笑んだ。

「……さすが、『初代光の巫女』以来の力の持ち主、と讃えられた御方のご息女……」

 巫女としての訓練も何も受けていない。まだ完全に力に目覚めたわけではない。それで、この力……。

(……逃がすわけには……いかない)

「この塔の中をくまなく探しなさい。塔の結界の外には出られないはず。必ずこの中におられます」

「は、はい!」

 女官達が慌ただしく散らばっていく。サニリアは自分の右手、を見た。

「……どこまで消えたのか……は、ご本人にしか、わかりませんね……」

 記憶が消えたまま、どこまで抵抗できるのでしょうね? あなたは。


 サニリアはゆっくりと踵を返し、サーリャの部屋から出ていった。


**********************************************************************

「巫女姫様は!?」

「こちらにはいらっしゃいません!!」

「早く、お探ししろ!!」

 迫ってくる足音。ありあは頭を抱えるように、中庭の薔薇園の茂み、にいた。

(やだ……怖い……っ!!)

 逃げないと。捕まれば、全て無くしてしまう。

何を無くすのかもわからないまま、ありあは迫りくる不安と戦っていた。


 ……でも、どこに? どこに行けばいいの?

 思わず、緑石を右手で握り締めた。石が……ほんのりと温かくなった。

「え……?」

 途切れ途切れに心に浮かぶ、誰か、の言葉。


『……れを』

『……かざして……』


 あれは……

 石の柱。床に書かれた、円形の模様。その中央に……


 ありあはぎゅっと唇を噛んだ。とにかく、今は、ここから出ないと。

茂み伝いに、這って中庭を移動する。薔薇の影から周りを伺うと、遺蹟のような柱が並んだ部屋、が見えた。


 ――あれ、だ。


 ありあは辺りを見回して、柱の部屋に走った。部屋の中央にある、不思議な模様。

「巫女姫様っ!!」

 振り向くと、中庭から女官達がこちらに向かってくる。迷ってる暇は、ない。


 ありあは魔方陣の中央に立った。緑石が金色に光る。魔方陣がそれに呼応するように光り、ありあの身体は光の筒のようなものに覆われた。

「きゃ……!?」

 ぐにゃり、と視界が歪む。女官達の声が……遠くなる。


 ――ありあは、真っ暗な世界、へと落ちていった。


**********************************************************************


「消えた!?」

 サニリアの顔に、僅かに焦燥の色が浮かんだ。

「は、はい……魔方陣から発せられた金の光に飲み込まれるように、お姿が……」

(異世界の扉を開いた……か……)

 異世界の扉には、塔の結界は効かない。この世界に、異世界に飛ぶ力のある者、は他にいない。

(サーリャ様もお力を失われている……巫女の石も……ない)

 サニリアは、頭を下げている女官達を下がらせた。巫女守の部屋に一人きりとなったサニリアは、ある呪文を唱えた。

『……お呼びにございますか、巫女守様』

 誰もいなかった空間にゆらめく、白い影。

「……グランディアへ。巫女姫様は必ずこの世界へとお戻りになる。グラント王の元に」

『……グラント王……』

「……巫女姫様がこの世界にご帰還次第、この塔へお連れするように」

『……御意。グランディアに……向かいまする』

 現れた時と同じように、ふっと気配が消えた。サニリアはしばらくの間、影の消えた場所を見つめていた。


**********************************************************************


「……!!」

 誰……かが……

「……りあ! ありあっ!!」

 呼んで……る……?


 ありあはゆっくりと目を開けた。紺色の服。自分を覗き込む、心配そうな顔。


「シス……タ……?」

「ありあっ!!」

 ありあは上半身を起こされ、ぎゅっと抱き締められていた。

「あなた、一体今まで、どこにいたのです!? あんな手紙一つ寄越しただけで、連絡もなくっ……!!」

 ありあはぼーっと辺りを見回した。ずらっとならぶ木の机。陽の光に煌めくステンドグラス。そして――キリスト像。

「こ……こは……礼拝堂……?」

 シスターは身体を離し、ありあを支えた。

「朝のミサの準備をしようとここに来たら、あなたが倒れていて……」

「……私……」

 戻って……来た……んだ……

「とにかく、あなたの部屋に行きましょう。立てますか?」

 シスターの手を借りて、ゆっくりと立ち上がる。身体は……動く。

「今は身体を休めましょうね。後でゆっくりお話をして下さいね」

「はい……」

 ありあはシスターに支えられながら、磨きこまれた木の床を踏みしめ、ゆっくりと出口へと歩いて行った。

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