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巫女の塔・グランディア城~動き出した歯車

「お帰りなさいませ、巫女姫様」

 あの時お世話になった侍女達が、ありあに頭を下げた。

「はい……ただ今戻りました……」

 ありあは周りを見回した。ここは全然変わっていなかった。静かすぎるほど、静かな気配。

「どうぞこちらへ。お部屋をご用意しております」

 侍女に案内されて、ありあはサーリャの部屋へと向かった。


 綺麗に整頓された部屋。ここも前と同じ。白を基調とした、清楚な部屋。

ソファに腰掛けたありあに、サニリアが言った。

「お疲れでしょうから、今日はこのままお休み下さいませ。明日、『清めの儀式』を行いましょう」

「はい……」

 サニリアがお辞儀をして立ち去ろうとした。

「あ、あの!」

 ありあの声に、サニリアが立ち止まって振り向いた。

「何でしょうか?」

 ありあは立ち上がり、サニリアの目を真っ直ぐに見た。

「手紙を書きたいのですが……届けて欲しいのです。グランディア城に」

 サニリアの瞳がきらり、と光った。

「……グラント陛下、にでしょうか」

「はい。ちゃんと無事に着いたって知らせたくて」

 しばらく沈黙が続いた。サニリアが、はあと溜息をついた。

「そのような事は、もう必要ございません」

「え?」

 ありあは目を丸くした。必要ない……って……。

「巫女姫様は、もうグランディアにお戻りになる事はないのですから」

「え!?」

 戻らない!?

「どういう事ですか? 闇の傷を癒すために巫女の塔にって……」

 サニリアは驚いてるありあの顔を見た。サニリアの表情は全く変わらなかった。

「……この件については、グラント陛下もご了承済みです。巫女姫様をレヴァンダ皇国にお返し下さる、と」

「グラントが!?」

 ありあの身体が強張った。

「ま……さ、か……」

 ありあは出立の時を思い出した。

 ずっと黙ったままのグラント。泣いていた城の皆。最後に『……元気で』って言ってた……。

 グラント……の様子が、おかしかった……のは……

 皆の様子が……おかしかった、のは……

(皆……知ってた、の……?)


 呆然としているありあに、サニリアが言葉を継いだ。

「光の巫女の力を持つ者を、巫女の塔から出すわけにはいかないのです。強大な力を持つ者は、常に狙われますから」

「で、でも、私……っ……」

 サニリアがありあの言葉を遮った。

「……サーリャ様ではない、とおっしゃるおつもりですか」

「!?」

 ありあの瞳に驚愕の色が差した。

「……知……って……」

「……ええ。グランディア城でお会いした時から」

 サニリアは頷いた。

「あなたがサーリャ様でないという事は、さほど問題ではございません。闇を切り裂く光の力――それを有する御方だ、という事が重要なのですから」

 ありあは緑石を右手で握り締めた。

「あ、あれはこの石に込められた、サーリャの力です! 私、じゃない……っ!!」

「……いいえ」

 サニリアがきっぱりと断言した。

「その石は代々の巫女に受け継がれるものですが……巫女でなければ、石の力を使いこなす事はできません。ましてや、金の炎を呼び出すなど、巫女でなければ不可能です」

「そんな……」

 一体、どういう事!? いいようのない不安が、心を締め付ける。

「……お久しぶりです、とご挨拶申し上げたはずですが?」

「え?」

 混乱しているありあの頭に、サニリアの冷静な声が響いた。

「……あなたがまだお生まれになったばかりの頃に、一度お目にかかった事があるのですよ」

「な……にを、いっ……て……」

「サーリャ様を超える光の力を持つ巫女。それはこの世に一人しかおられません」

 真っ青な顔のありあを、漆黒の瞳が貫いた。


「その御方の名は……」


――サニリアの口から出た名前に、ありあは目を見開いたまま、ただ立ちつくすことしかできなかった……。


**********************************************************************


「……ふう……」

 グランディア城の門番の兵士は、青い空を見上げながら、溜息をついた。

「アーリャ様、もうそろそろ巫女の塔に着かれた頃だな……」

 アーリャ様がご出立されてからというもの、この城は不気味なほど静まり返ってるよな、と兵士の一人が言った。

「とにかく、火が消えたように静かすぎて……落ち着かないよ」

「ああ……」

 話に興じていた門番が、ふと前方を見た。灰色のフードを深めに被った二人組が、城門に向かって歩いてきた。


 通用門の真正面で、二人組は立ち止まった。

「……この城に何用だ」

 兵士が声をかけると、背の低い方がくぐもった声を出した。

「……国王陛下にお会いしたいのですが」

 兵士達は、目配せをした。何名かは手にした槍をゆっくりと構えた。

「ならぬ。許可証のない者は、ここを通すわけにはゆかぬ」

 はあ、とフードの下から溜息が聞こえた。

「……仕方ありませんね……」

 そう言うと、一人がおもむろにフードを取った。兵士達は一斉に目を見張った。


「あ、あなたは……っ!?」

 どよめく兵士達を見回し、にっこりと笑って彼女は言った。

「……グラント国王陛下に、お取り次ぎを」


**********************************************************************


「……ヴェルナー、謁見者はこれで終わりか?」

「ええ……予定されていた会見は全て……」

 ヴェルナー伯爵は、王座に座っているグラントを見た。

――緑色の布に金糸の縫い取りのあるチェニック。艶やかな金の髪。鋭い銀の瞳。いつもと同じ冷静な顔。冷静な判断。しかし……

(……感情が全く感じられない……か……)

 元に戻った、と言うべきなのか。アーリャ様が来られる前に。

 未だにアーリャ様から手渡された袋を、開ける事さえできていない王。見た目よりも遥かに参っておられるのだろう。

 ヴェルナー伯爵は、はあと溜息をついた。


「……何だ?」

 グラントが眉をひそめた。乱れた足音が、謁見の間にと向かっていた。

「しっ、失礼いたしますっ!!」

 真っ青な顔をした侍従が、謁見の間に転がるように走り込んできた。

「……陛下の御前だぞ、何事だ」

 ヴェルナー伯爵が声をかけると、息を切らせた侍従が、わなわなと身体を震わせながら言った。

「お、お、王妃様……が……っ!!」

 グラントの表情が一気に変わった。王座から立ち上がり、侍従の近くまで駆け寄った。

「妃がどうしたっ!?」

「お、お戻……」

 カツン、と足音が謁見の間に響いた。 

「……申し訳ございません、陛下。こうしなければ、謁見の間に通していただけなかったので」

 鈴を鳴らしたような声。謁見の間の入り口に立つ、灰色のマントを身に纏った人影。


 グラントの瞳が大きくなった。

「お……まえ……は……」


 真っ直ぐな黒い髪。黒い瞳。白い肌。薔薇色の頬。そして――ありあにそっくりな顔。


「アーリャ様!?」

 ヴェルナー伯爵が真っ青な顔で叫んだ。アーリャ、と呼ばれた少女は首を横に振った。


「……私の名は、サーリャ=レヴァンダ。レヴァンダ皇国の第一皇女にして、元光の巫女、です」



**********************************************************************


「身代わりだと!?」

 執務室の中、グラントの叫びが響いた。サーリャは、こくりと頷いた。

(ありあは……光の巫女ではないのか!?)

「……ええ。『禊』が終われば、あり……あは、元いた世界に戻るはずでした」

 グラントは目の前に座っているサーリャを見た。ありあに瓜二つ。身体つきもよく似ている。確かにこれなら身代わりになることは可能だっただろう、とグラントは思った。

「し、しかし、アーリャ様が光の力を使って闇を切り裂いたのは事実。それは一体……」

 ヴェルナー伯爵の言葉を聞き、サーリャの瞳に戸惑いの色が浮かんだ。

「……私がグランディア城をお訪ねしようと思った原因が、先だっての剣技会の出来事です。私がありあに渡した緑石――あれには巫女の力、が封じられています」

「……」

「あの石の力を使えば……闇の傷を治すぐらいはできるでしょう」

 グラントは黙ったままサーリャの言葉を待った。サーリャは少し俯いた。サーリャの隣に座った若者が、励ますようにサーリャの手を握り締めた。

 サーリャは顔を上げ、真っ直ぐにグラントを見た。ありあに似た瞳に、グラントの心臓が一瞬止まった。

「……ですが、闇を切り裂く金の炎を呼び出す事は、光の巫女でなければできないのです。ありあには、巫女の力がある、それは間違いないと思います」

 異世界から呼び出されたありあに、巫女の力がある!?

「どういう事だ……一体」

 ありあが光の巫女でないなら、巫女の塔に行く必要もない。だが、サーリャはありあは巫女の力を持っている、と言った。

サーリャが決意を込めた目でグラントを見つめた。


「……考えられる事は、ただ一つ、です」

「……」

「……当代で光の巫女となりうる候補者は三人。巫女守のサニリア、私、そしてもう一人が……」

 一拍置いた後、サーリャが言った。

「……アーリャ=レヴァンダ=グラディノール。あなたの妹姫、です」


 アーリャ!? グラントの瞳が大きくなった。

「何……を言って……」

 アーリャは死んだ。俺の目の前で。闇に囚われて。それが……

「アーリャ姫の母君、ファーニア様は、私の母カテーリアと双子の姉妹でした。ですから、アーリャ姫は私の従妹にあたります」

「……」

「アーリャ姫が生まれた時、サニリアが会いに行った、と聞いています。その時は巫女の力が感じ取れなかったため、巫女の塔に連れて帰らなかった、と」

「……」

「ですが……」

 サーリャが揺れるグラントの瞳を捉えた。

「……巫女の力がなかったのではなく、目覚めていなかっただけだとしたら? 何も知らず、この城で王女として暮らしていたのだとしたら?」

「……アーリャ様は十二年も前にお亡くなりになったのですよ!? 闇の眷属に……」

 ヴェルナー伯爵の言葉にも、サーリャの声は揺るがなかった。

「……その話は聞いています。グラント陛下を闇から庇って、消え失せた、と」 

「……その通りだ。アーリャは……」

「……ご遺体を確認された訳ではないのですね?」

 グラントはサーリャを見た。

「アーリャは全身を闇に覆われていた。あの状態で生き延びるなど……!」

「……異世界に飛べば可能です」

 異世界!? グラントは銀の瞳を見開いた。

「いくら闇の眷属といえど、時空を超えた異世界にまで呪いをかけることはできません。おそらく……ですが」

「……闇の力に触れたことで、一気に巫女の力が目覚め、咄嗟に異世界へと逃げたのでしょう」

「……アーリャが……?」

 生き……て……?

 グラントは呆然とサーリャを見ていた。ヴェルナー伯爵も、言葉が出ないようだった。

「……私がありあを呼び寄せた時の(ことば)……『我が分身よ、我が元へ』」

「……」

「私はただ、私に似た人が来てくれれば、と思っていました。ですが……もし、アーリャ姫が異世界で生きていたなら」

「……」

「同じレヴァンダ皇室の血を引く、私の呼び掛けに応じた、としてもおかしくはありません」

「……そ、れは……」

「……はい」

 サーリャが冷静に言葉を継いだ。漆黒の瞳がグラントの銀の瞳を射抜いた。

「ありあが、あなたの妹姫――アーリャその人だ、と申し上げているのです」

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