グランディア城~広場
「……えーっと、優勝者にこの冠を渡せばいいのね?」
ありあは自分の席の前、赤いビロードで覆われた台の上に鎮座している月桂樹の冠、を見た。ありあのすぐ左横に控えて立っているヴェルナー伯爵が頷いた。
「はい。王妃様が『勝利の女神』として、冠を授けるのが慣例となっております」
ありあは金の縁取りのある白いローブを着せられ、頭に月桂樹の冠を被らされた。どうもこれが『勝利の女神』の格好らしい。
ありあはヴェルナー伯爵を見上げた。
「ごめんなさい、出場取り消したんでしょう? 私なら一人で大丈夫だから……」
ヴェルナー伯爵が首を振った。
「アーリャ様の護衛程、大切な任務はございません。それに、出場したところで、私は優勝できませんので」
ありあは広場を見た。広場の周りを囲っている石壁の上に、階段状の観客席があった。王と王妃の座席は一番高台で、試合の様子がよく見える位置にあった。試合場は手前と奥の二か所に設置されている。
続々と男達が並んで行く。
「みんな同じ格好なのね」
グラントもヴェルナー伯爵も、なめし皮の鎧という軽装に、両刃の剣を持っていたが、参加者も皆同じだった。
「純粋に剣技を競うものですので、装備は決められているのですよ。身分に関係なく参加でき、勝敗も公平に判断されます」
「ふうん……」
「……陛下が最有力優勝候補、ですよ」
「グラントが?」
ありあは広場にいるグラントを見た。大勢に混ざっていても、すぐに見つけられる。オーラが違うっていうか……。
「陛下は幼い頃より剣技会に出場され、すべて優勝されておられるのですよ。陛下と対等に戦える相手がなかなかいない程で……」
「そう……」
さっき見た左腕は何ともなかった。グラントも驚いてたみたいだし、本当に大丈夫なの……かなあ……?
『誰にも言うな』
……真剣な顔だった。よく判らないけれど……黙っておこう。
「……始まりますよ」
ヴェルナー伯爵の声にありあは広場を見た。角笛が高らかに鳴らされた。参加者達が整列し、正面を向く。
審判らしき、白い服を着た男性が、中央に進み出た。彼がありあに向かってお辞儀をすると、参加者一同それにならった。
ありあは言われていた通り、右手を上げ、にっこりと微笑んで見せた。
参加者からわああっと歓声が上がった。
「……あの、私、何かおかしかったですか?」
ありあは、こそっと隣にいるヴェルナー伯爵に耳打ちした。ヴェルナ―伯爵は苦笑しながら首を振った。
「アーリャ様のお姿を見た事のない者が大半ですから。皆感動しているのですよ」
「か、感動……って……」
「光の巫女姫にお会いできるなど、滅多にある事ではありませんからね」
ちくり、と胸が痛んだ。
(……偽物なのに……)
ありあは少し俯いた。
「赤方、白方、前へ!」
号令と共に、審判の元に二人の男性が歩み寄る。他の参加者は後ろに下がった。
互いの剣を空に掲げた後、カツンカツンと二回交え、剣を交換していた。
「ああして、不正がない事を確認しているのですよ」
「へえ……」
本当に公平なんだ。貴族が優遇されるとか、そういうのもないんだなあ……。
審判が両手を広げる。男達が剣を構える。審判が右手を高く上げ――振り下ろした。
「――始めっ!!」
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「す……ごい……」
ありあは目を丸くしたまま、前のめりになって試合を見ていた。
高らかに響く剣と剣がぶつかる音。叫び声。ひらりと攻撃をかわす身のこなし。こんな近くで、こんな激しいの、見たことない!
(剣を落とすか、参ったと降参するか、したら負けなのよね……)
審判もちゃんとしてる。身分が勝敗に関係しないよう、名乗りを上げずに試合をする、とヴェルナー伯爵が教えてくれた。でも……。
「名乗らなくても、王様って判るわよね……」
なんか立ってるだけで、迫力が違う。あ、グラントが中央に歩きだした。
「次は陛下ですよ」
「うん……」
ありあは赤方に立っているグラントの姿をじっと見つめた。白方からは、体がごつい、山のような筋肉の大男が進み出た。
どきどきしながら、ありあはグラントが中央に歩み寄るのを見ていた。
「……グラント、すごすぎ……」
ありあがぽつり、と言うと、ヴェルナー伯爵が笑った。
「最有力候補だと申し上げたでしょう?」
あっと言う間だった。「始め!」の声が聞こえたかと思うと、相手の剣が吹き飛び、くるくる回りながら石畳に落ちた。十秒もかかってないんじゃ!?
いつ相手の間合いに踏み込んだのかも分からない。審判も一瞬瞬きしたが、一拍後、「勝者、赤!」と右手を上げた。
グラントは礼をし、すたすたと試合場から下がって行った。白方の大男は呆然と突っ立っていた。
「格下相手だと、まあ、あんなものですね」
「そ、そうなの?」
相手も充分強そうに見えたケド。本当に心配しなくても、大丈夫そう……。
わああっと歓声が向こうの試合場から上がった。そちらに目を向けると……
「リカルドさん!?」
ありあは目を見張った。リカルドも勝者になっていた。強いんだ……。
「同じ服装したら、本当グラントに似てる……」
ヴェルナー伯爵が鋭くありあを見た。
「……あの御方には、あまり関わらない方がよろしいかと」
「え?」
ありあはきょとん、とした。ヴェルナー伯爵の顔つきが厳しくなっていた。
(こんな表情、見た事ないかも……)
いつもにこにこと親切なヴェルナーさんが、こんな顔をするんだったら……ありあは頷いた。
「……分かりました……」
ありあはまた、こちら側の試合場を見た。次の出場者が、向かい合っていた。
心にひっかかりを感じながらも、試合観戦をしたありあだった。




