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グランディア城~謁見の間

「グラント陛下、アーリャ妃殿下のおなーりー」

 侍従の声が謁見の間に響く。ありあはかちこちになりながら、グラントに手をひかれて赤絨毯の上を歩いていた。

グラントは白地に金色の刺繍、深い赤のマント。ありあは白地をベースにアイボリー色のレースで飾られた清楚なドレス。胸元には大きな緑色の宝石。サーリャから貰ったものだ。

『お二人で並ぶと、本当にお似合いですわ!』

 サリも皆も絶賛してくれた。

絨毯の両脇に、ずらりと並んだ臣下たち。皆深々と頭を下げている。

(き、緊張する……)

 ぐっとグラントの手に力が入った。任せておけ、と言うように。


 王座に並んで座った後、臣下たちが顔を上げた。

グラントの冷静な声が響く。

「我が妃のために集まってくれてことに感謝する。皆知っての通り、妃は聖レヴァンダ皇国の巫女姫だ。慣れぬ事もあると思うが、皆で支えてやってほしい」

 ははっ、と再び頭を下げる臣下たちに、ありあも思わず頭を下げた。

「では、お祝の儀を……」

(うわ……これから、一人一人の挨拶、よね……)

『とりあえず笑っておけ』

 グラントはそう言っていた。

(うん、頑張ろう!)

 ありあは王座に近づく初老の男性に、にっこりと笑いかけた。


**********************************************************************


 ……二、三人に挨拶しただけなのに、すでに、ありあの頬は引きつりかけていた。

(ううっ……大丈夫……かなあ、私の顔……)

 不自然な笑顔じゃないかなあ。ちらり、とグラントを見ると、冷静な顔のままだった。

(馴れてる……)

 まだどきどきが止まらない。ちょっと頬も赤くなってる、と思う。

「……シルヴェスタ公代理、リカルド=ヴァン=シルヴェスタと申します、妃殿下」

 ……グラントに似た声。ありあは目を見開いた。

目の前で、お辞儀をしているのは……

(さっきの……!?)

 ゆっくりとリカルドが顔を上げた。金の髪。青い瞳がじっとありあを見つめていた。グラントに似た顔に見つめられて、ありあの頬が熱くなった。

「……噂でお聞きしていた通り、お可愛らしい方ですね」

「あ、ありがとうございます……」

 な、なんかグラントに言われてるみたいで、恥ずかしい……。ありあはちょっと俯いた。

「この度のご結婚、陛下には、お慶びを申し上げます」

 グラントの銀の瞳は、横のありあをちらと見た後、リカルドを鋭く見た。

うむ、とグラントが頷く。リカルドは再度お辞儀をし、目の前を辞した。


 シルヴェスタ公って……確か……

(グラントのお父さん、前国王のお兄さん、よね……)

 本来であれば王につくのは長男であるシルヴェスタ公の方だった、と教わった。ただ、公は身体が弱く、王の激務に耐えられないだろう、と弟君が王位についた、と。だから、リカルドはグラントの従兄弟、ということになる。

(それで、グラントに似てたんだ……)

 リカルドの方を見ているありあを見て、グラントの右眉が上がったことに、ありあは気がつかなかった。


**********************************************************************


「ふう……」

 ありあは大きな溜息をついた。

「お疲れになってでしょう、アーリャ様。さあ、お飲み物をどうぞ」

 サリが持ってきてくれたマグカップを受け取る。温かい飲み物をありあは飲んだ。甘くて、ココアのような味がする。

「美味しい……」

 ちょっと体力が回復した気がする。やっぱり疲れてる時は甘いものよね、とありあは思った。

「あれでよかったのかなあ……」

 王妃の間でソファにもたれかかりながら、ありあは呟いた。

「まあ! アーリャ様の笑顔に勝てる者などおりませんわ!」

「ありがとう、サリ」

 これから夕食会に舞踏会だ。気を引き締めていかないと……。


 こんこん。ノックの音が響く。

サリが入り口に向かう。


「……陛下!?」

え?

 ありあが顔を上げると、グラントがすたすたと歩いてきて、目の前に立った。

「……疲れたか?」

「ちょっと……でも大丈夫。サリが甘い物用意してくれてたし」

 ありあはソファの前の低めのテーブルにカップを置いた。

「ありがとう、グラント。様子見に来てくれたのね」

「……」

 グラントはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

「リカルドと会っていたのか?」

「え?」

 ありあはグラントの顔を見上げた。特に表情に変わった様子はない。

「う、うん。迷子になったミーちゃんを探して厩に入った時に、助けてくれたの」

「……」

「グラントの従兄弟さん、だよね? 似てると思った」

「……ああ」

 あれ? 何か……

「……グラント、何か気になることでもあるの?」

「……」

 グラントは黙ったまま、ありあの隣に腰を下ろした。そして……

「……グラント!?」

 グラントの腕が、ありあの身体を強く抱きしめていた。

「ど、どうしたの!?」

「……」

 ありあの心臓の鼓動が早くなった。サリがいるから、あまり逃げても……っ、と思ったら、身動きが取れない。

「……のか?」

 ぼそっとグラントが呟いた。

「え?」

「リカルドを……気に入った、のか?」

「は?」

 ありあは目を丸くした。気に入った……って……?

「あの……危ないところを助けてもらったから、いい人だと思うけど……そういう意味?」

「……」

 ぎゅっと一層強く抱き締められた後、ありあの身体は解放された。グラントは立ち上がり、赤くなったありあの顔を見た。

「……俺以外の男と踊るなよ」

「え?」

 ありあはきょとん、とグラントを見上げた。

「……私が踊りへたなの、グラントの耳にも入ってるの?」

「……え?」

「他の人の足、踏んじゃったら、グラントに恥かかせるよね……うん、踊らないように気をつける」

「……そういう意味では……」

 グラントの呟きは、うーんと悩んでいるありあの耳には入らなかった。


**********************************************************************


 はあ……と溜息がグラントの口から洩れた。

「……アーリャ様が来られてから、溜息の回数が増えましたね」

 ヴェルナー伯爵がグラントに言った。執務室の中は二人きり、だった。

「つきたくもなるだろう。相手(ありあ)がああでは」

 あのリカルドの目つき。前にも覚えがある。あの時は気にも留めなかったが……。

(……ありあには、手を出させない) 

 大体、ありあの警戒心のなさは何だ!? あれ程表に出るな、と言っておいたのに、厩でよりによってリカルドと出会い、『いい人』だと思っているとは。

「……御従兄弟様の事ですか? アーリャ様にさっそく近づいたようですね」

「今回は偶然らしいがな」

「アーリャ様は陛下の正妃、であらせられます。いくらシルヴェスタ公のご子息と言えども、表立っては何もできないはずですが」

「……あくまで、表立っては、だ」

「まあ……アーリャ様も、ああいう御方ですから、ご心配なのはわかりますが……」

「ありあからは目を離さない。お前も周囲に気を配っておいてくれ」

「承知いたしました。陛下……」

 ヴェルナー伯爵が時計を見ながら言った。

「そろそろお時間になります」

「……わかった」

 グラントは椅子から立ち上がり、ヴェルナー伯爵と執務室から出て行った。 

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