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グランディア城~厩

「ミーちゃーん……」

 ありあは周囲をきょろきょろ見回した。中庭の裏手付近なら、と思ったけれど、この辺りにもいない。

(どこ行っちゃったんだろ、ミーちゃん……)

**********************************************************************

 ――朝早くから、続々と貴族達の豪華な馬車が到着していた。ぎりぎりまで表に出るな、と言われたため、ありあは王妃の間の窓から外を見ていた。正面入り口に到着する、煌びやかな衣装を身に纏った貴族達……。

(朝から本当にもう……!)

『お、おはようございます、アーリャ様……』

と、少し頬を赤らめたサリに挨拶されるわ、食事を持ってきた侍女も訳あり顔で微笑むわ、ヴェルナ―伯爵にもにこやかに挨拶されるわ、もう城中の皆が知ってるんじゃないの!? と疑いたくなるくらい、恥ずかしかった。

(やりすぎだって、絶対!!)

 ……まあ、皆の視線は微笑ましく見守ろう、という雰囲気で好意的だったけど……。

(こ、今晩から、どうしたらいいのよっ!?)

 考えれば考えるほどわからない。『子を産むのは待ってやる』と言ってたから、きっと……あーゆーことはしないでくれる……と思いたい……。


 ふう、と溜息が出た。何だかいろんな事に巻き込まれて、じっくり考えてる暇がないような、気がする……。

「ああーもう……」

 窓辺に伏せっていたありあの背中に、ぴょん、と軽い体重が乗り、そのまま黒い影が窓の外へ飛び出した。

「ミーちゃん!?」

 ありあが身を乗り出すと、軽い身のこなしで、窓の外の出っ張りを走り、ぴょんぴょんと降りて行ってしまった。

「大変……!」

 ミーちゃんはまだ、王妃の間の辺りしか知らないのに……!

 ありあは灰色のフード付きコートを羽織って、慌てて王妃の間、を出た。

「アーリャ様!?」

 サリや侍女たちの声。

「ミーちゃんが出て行っちゃったの! あなたたちも探してっ!」

 ありあはお待ち下さいという声を振り切って、廊下を全速力で走り抜けた。


**********************************************************************

「ミーちゃんー」

 ありあは(うまや)近くの茂みを覗き込んでいた。

(ここにもいないし……)

 もう時間がない。多分探しだして30分は経ってるし、そろそろ着替えないといけない時間になる……。


 みゃあ……


 僅かに子猫の声、がした。

「ミーちゃん!?」

 ありあは立ち上がり、厩舎の中を見た。ずらりと馬達がわらの敷かれた小部屋に入れられていた。その中の手前から二つ目の部屋の中に、黒い塊があった。

「ミーちゃん!」

 ありあが丸太一本の柵に近づくと、そこにいた白馬がぶるる、と鳴いた。前足をカツン、と鳴らし、落ちつかなげに首を上下に振った。

「あ、ごめんなさい」

 ありあはしゃがみ込んで、ミーちゃんに手を差し伸べた。

「ミーちゃん、おいで?」

 みゃ……、とミーちゃんがありあの方に近寄って来た。

「よしよし、いい子ね……」

 ありあは柵の下に少し頭を入れ、手を伸ばしてミーちゃんを抱こうとした。

 ――その時、白馬がいきなり前足を上げ、ありあの方に蹄を振りおろしてきた。


「きゃ……っ!」

「危ない!」

 ありあが頭を抱えるのと同時に、誰かがありあの身体に手を回し、柵の外へ引きずり出した。

「落ち着け、いい子だから」

 ミーちゃんを抱いて尻もちをついているありあの前に、金髪の男性が立ち、白馬の首筋をぽんぽんと叩いていた。

ぶるる……興奮していた白馬の動きが次第に治まった。

 くるり、と踵を返し、男性がありあを見下ろした。

「危ないだろう、いきなり馬に近づくなどとっ!」

(え!?)

 ありあは目を見張った。銀に近い金髪に青い瞳……だけど、その顔は……

「グラ……ント?」

 目鼻立ちが、双子と言ってもいいくらい、グラントに似ていた。

 男もフードの外れたありあを見て、驚いたような顔をした。

「……レヴァンダ皇国の巫女姫?」

 声も似てる……?

「ご、ごめんなさい。子猫が迷い込んでしまって……」

 男は手を差し伸べ、ありあを立たせた。

「お怪我がなければいいのです。今後勝手に馬に近づくのはお止め頂きたい」

「はい……ご迷惑をおかけしました……」

 ありあは深々と頭を下げた。そんなありあを、男はじっと見ていた。

 厚めのマントを金の紋章で留めている。どう見ても、従者ではない。

「こんなところで……」

 男が言いかけた時、サリの声が厩に飛び込んできた。

「ここにおられらのですか、アーリャ様っ!!」

「サリ!?」

 男が入り口の方を見た。サリが息を切らせながら、ありあの方へ歩いて来る。サリはスカートを持ち上げ、深々と男にお辞儀をした。

「アーリャ……?」

 男が不思議そうに呟いた。サリは顔を上げ、男に言った。

「アーリャ様をお守り下さりありがとうございました。お時間がございませんので、これで失礼いたします」

 さ、とサリに促され、ありあはぺこりともう一度お辞儀をした後、厩を出た。

「アーリャ様、急ぎますよっ!」

「ごめんなさい、サリ」

 サリの後を負って、ありあはスカートのすそを掴んで走り出した。


 ――男は、ありあの後ろ姿をじっと見つめていた。

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