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グランディア城~王妃の間

 ありあはベッドに横たわり、天蓋の天井部分をぼーっと見ていた。

(明日……)

 主だった貴族の家系図や、国同士の関係は頭に入れた……はず。でも……。

(ダ、ダンスはだめなままなんだけど……)

 三拍子だから、ワルツっぽいけれど、どうにもリズムに乗り切れず……何度か先生の足を踏んだ。

グラントの足、踏んじゃったらどうしよう、とありあの胸はどきどきしていた。

(『自分と踊るのが仕事』って言ってたけど……他の人とも踊らないといけないんだよね……きっと)

 うわーグラントに恥をかかせるかも……。


 みゃーと鳴き声がした。ミーちゃんがベッドにぴょんと上がって来た。

「ミーちゃん、おいで?」

 ありあは上掛けをはいで、ミーちゃんを迎え入れた。

「ふふっ、もふもふ」

 丸くなったミーちゃんの背中をそっと撫ぜた。ちょっと落ち着いた気がする。

 ヴェルナ―伯爵から聞いた、グラントの話が頭をよぎった。グラントにも……結局、ちゃんと会えないまま本番だけど……。

(グラントに……何て言おうかなあ……?)

 大体、最後に二人で話したのが、このベッドの上っていうのも……。

 ありあはぎゅっと両手で上掛けを握りしめた。

(と、とにかく、頑張ろう! お城のみんなも協力してくれた事だしっ!)

「おやすみ、ミーちゃん」

 ありあはゆっくりと目を瞑り、深い眠りへと落ちていった。


**********************************************************************


 ……ふにゃ……。

 ありあはごろんと寝返りを打った。

「……」

 ……手が、何かに当った。手のひらを広げて、少し動かす。

(あれ……?)

 枕、こっちにあったっけ……?

「……だぞ」

 寝ぼけたままのありあの耳に、低い声が聞こえて来た。

「……もう、時間だぞ。そろそろ起きろ」

「ん……?」

 ぼーとしたまま、ゆっくりと目を開ける。間近に金色の髪。朝日にきらきらして、綺麗……。

「……おはよう」

 半開きのありあの唇に、そっと柔らかいものが重ねられた。


 ……

 …………

 ………………え?


ええええええええええええっ!? 


 ありあの目がぱっちりと開いた。

(なっ、なになになになにっ!!)

 がっちりと身体が抑え込まれていて、動けない。

 な、なんか、我が物顔で唇奪ってる人がいるんですけどっ!?

「やっ……!」

 顔をそむけても、すぐに捕まえられる。

「ん……っ!」

 ゆっくりとついばむように、グラントの唇が動く。背筋がぞくっとした。 

(か……らだが……しび……れ……)


 ――コンコン

「……失礼します。王妃様、そろそろ……」

 きゃあっと小さく悲鳴が上がった。

「も、申し訳ございませんでしたっ!!」

 バタン!


 グラントがゆっくりと唇を離した。げほげほっとありあは咳き込んだ。

「……な……」

 かあああっと頬が熱くなる。ありあの身体の上、にグラントがいた。

「な、に、してるのよっ……!」

 ち、近い……銀の瞳が近い……っ!

 にやり、とグラントが笑う。ありあの心臓が一瞬止まった。

「俺が寵愛している王妃だろ、お前は?」

 ちょ……寵愛……って……

「こ、こ、こ、こういうことっ!?」

 グラントがありあの頬を長い指でなぞった。触られるたびに、身体に痺れが走る。

(や、やめ……て……)

「今日から各地の貴族がこの城に集まってくる。そいつらが使用人を連れて来ない訳ないだろう。それが……」

 きらり、と妖しい光が銀の瞳に宿った。こ、怖い……。

「……王が王妃の間を訪ねていない、と城の使用人から洩れたらどうする。どう考えても、おかしいだろうが」

「え……」

「だから、わざと侍女が来る時間にこうしたんだろ」

 グラントが溜息をつく。温かな息が少し顔にかかった。ますます頬が熱くなる。

(も、もう、離れて……っ……)

「サリは信頼できるが、口が堅すぎるからな。サリを別件で呼び出して、わざと別の侍女を来させたから、今頃『王は王妃の間に朝までいた』と大盛り上がりに噂されているはずだ」

「えええええええええっ!?」

 ありあは思わず叫んだ。

「そ、そんな噂立ったら、恥ずかしいじゃないっ……!」

(どうしよう、もう厨房とか行けない……っ)

「いや、そんな噂がない方が、恥ずかしいだろう」

 やっとグラントが身体を起こした。ありあはがばっと身体を起こし、できるだけグラントから離れた。それを見て、グラントはまたはあ、と溜息をついた。

「……とにかく、今日から毎晩ここに来るから。そのつもりでいろよ」

「えええええええええええええええっ!?」

「『寵愛』されてるんだから、それぐらい我慢しろ」

 もう何も言えないありあを置いて、グラントは立ち上がった。じろり、と銀の瞳がありあを見下ろす。

「……そうやってると、子どもみたいだな、お前」

 ありあは自分を見た。薄いピンク色のネグリジェ。長袖で丈もたっぷり足首まであって、どう見ても『色気』はない。

「ど、どうせ、シャルロッテさんはもっと大人な感じなんでしょっ!?」

 ぷくっと膨れたありあの顔を見て、グラントは吹き出した。

「お前の方がかわいい」

「!!!!!!!」

 真っ赤になったありあに微笑みかけて、グラントは王妃の間を出ていった。

「はあ……」

 ありあはベッドの上でのびた。ミーちゃんは……と見ると、部屋の隅でごろごろしていた。

朝起きたら、ミーちゃんとグラントが入れ替わってるって、心臓に悪すぎる。

(こ、こんなんで、私、持つの!?)

 なんか、ショックが大きすぎて、勉強した事全部頭から抜けたかも……。

(忘れてたらグラントのせいだからっ!!)

 サリが王妃の間に戻ってくるまで、もんもんとグラントに恨みごとを呟いていたありあだった……。

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