グランディア城~王妃の間
ありあはベッドに横たわり、天蓋の天井部分をぼーっと見ていた。
(明日……)
主だった貴族の家系図や、国同士の関係は頭に入れた……はず。でも……。
(ダ、ダンスはだめなままなんだけど……)
三拍子だから、ワルツっぽいけれど、どうにもリズムに乗り切れず……何度か先生の足を踏んだ。
グラントの足、踏んじゃったらどうしよう、とありあの胸はどきどきしていた。
(『自分と踊るのが仕事』って言ってたけど……他の人とも踊らないといけないんだよね……きっと)
うわーグラントに恥をかかせるかも……。
みゃーと鳴き声がした。ミーちゃんがベッドにぴょんと上がって来た。
「ミーちゃん、おいで?」
ありあは上掛けをはいで、ミーちゃんを迎え入れた。
「ふふっ、もふもふ」
丸くなったミーちゃんの背中をそっと撫ぜた。ちょっと落ち着いた気がする。
ヴェルナ―伯爵から聞いた、グラントの話が頭をよぎった。グラントにも……結局、ちゃんと会えないまま本番だけど……。
(グラントに……何て言おうかなあ……?)
大体、最後に二人で話したのが、このベッドの上っていうのも……。
ありあはぎゅっと両手で上掛けを握りしめた。
(と、とにかく、頑張ろう! お城のみんなも協力してくれた事だしっ!)
「おやすみ、ミーちゃん」
ありあはゆっくりと目を瞑り、深い眠りへと落ちていった。
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……ふにゃ……。
ありあはごろんと寝返りを打った。
「……」
……手が、何かに当った。手のひらを広げて、少し動かす。
(あれ……?)
枕、こっちにあったっけ……?
「……だぞ」
寝ぼけたままのありあの耳に、低い声が聞こえて来た。
「……もう、時間だぞ。そろそろ起きろ」
「ん……?」
ぼーとしたまま、ゆっくりと目を開ける。間近に金色の髪。朝日にきらきらして、綺麗……。
「……おはよう」
半開きのありあの唇に、そっと柔らかいものが重ねられた。
……
…………
………………え?
ええええええええええええっ!?
ありあの目がぱっちりと開いた。
(なっ、なになになになにっ!!)
がっちりと身体が抑え込まれていて、動けない。
な、なんか、我が物顔で唇奪ってる人がいるんですけどっ!?
「やっ……!」
顔をそむけても、すぐに捕まえられる。
「ん……っ!」
ゆっくりとついばむように、グラントの唇が動く。背筋がぞくっとした。
(か……らだが……しび……れ……)
――コンコン
「……失礼します。王妃様、そろそろ……」
きゃあっと小さく悲鳴が上がった。
「も、申し訳ございませんでしたっ!!」
バタン!
グラントがゆっくりと唇を離した。げほげほっとありあは咳き込んだ。
「……な……」
かあああっと頬が熱くなる。ありあの身体の上、にグラントがいた。
「な、に、してるのよっ……!」
ち、近い……銀の瞳が近い……っ!
にやり、とグラントが笑う。ありあの心臓が一瞬止まった。
「俺が寵愛している王妃だろ、お前は?」
ちょ……寵愛……って……
「こ、こ、こ、こういうことっ!?」
グラントがありあの頬を長い指でなぞった。触られるたびに、身体に痺れが走る。
(や、やめ……て……)
「今日から各地の貴族がこの城に集まってくる。そいつらが使用人を連れて来ない訳ないだろう。それが……」
きらり、と妖しい光が銀の瞳に宿った。こ、怖い……。
「……王が王妃の間を訪ねていない、と城の使用人から洩れたらどうする。どう考えても、おかしいだろうが」
「え……」
「だから、わざと侍女が来る時間にこうしたんだろ」
グラントが溜息をつく。温かな息が少し顔にかかった。ますます頬が熱くなる。
(も、もう、離れて……っ……)
「サリは信頼できるが、口が堅すぎるからな。サリを別件で呼び出して、わざと別の侍女を来させたから、今頃『王は王妃の間に朝までいた』と大盛り上がりに噂されているはずだ」
「えええええええええっ!?」
ありあは思わず叫んだ。
「そ、そんな噂立ったら、恥ずかしいじゃないっ……!」
(どうしよう、もう厨房とか行けない……っ)
「いや、そんな噂がない方が、恥ずかしいだろう」
やっとグラントが身体を起こした。ありあはがばっと身体を起こし、できるだけグラントから離れた。それを見て、グラントはまたはあ、と溜息をついた。
「……とにかく、今日から毎晩ここに来るから。そのつもりでいろよ」
「えええええええええええええええっ!?」
「『寵愛』されてるんだから、それぐらい我慢しろ」
もう何も言えないありあを置いて、グラントは立ち上がった。じろり、と銀の瞳がありあを見下ろす。
「……そうやってると、子どもみたいだな、お前」
ありあは自分を見た。薄いピンク色のネグリジェ。長袖で丈もたっぷり足首まであって、どう見ても『色気』はない。
「ど、どうせ、シャルロッテさんはもっと大人な感じなんでしょっ!?」
ぷくっと膨れたありあの顔を見て、グラントは吹き出した。
「お前の方がかわいい」
「!!!!!!!」
真っ赤になったありあに微笑みかけて、グラントは王妃の間を出ていった。
「はあ……」
ありあはベッドの上でのびた。ミーちゃんは……と見ると、部屋の隅でごろごろしていた。
朝起きたら、ミーちゃんとグラントが入れ替わってるって、心臓に悪すぎる。
(こ、こんなんで、私、持つの!?)
なんか、ショックが大きすぎて、勉強した事全部頭から抜けたかも……。
(忘れてたらグラントのせいだからっ!!)
サリが王妃の間に戻ってくるまで、もんもんとグラントに恨みごとを呟いていたありあだった……。




