グランディア城~執務室
「……それで、アーリャ様はご納得されたのですか」
ヴェルナー伯爵の問いに、グラントは答えた。
「……口止めして気を逸らした、というのが正しい表現だな……」
グラントは先程のやり取りを思い出していた。ありあは怯えきっていた。あのままだと、城出?しかねない。
今、この城から出すわけにはいかない。この状況では。
「とりあえず舞踏会の事で頭が一杯のはずだ。しきたりとか、大貴族の名前とかを教えてやってくれ」
「承知いたしました。ですが……」
ヴェルナー伯爵は硬い表情のまま言葉を続けた。
「アーリャ様がおっしゃっていたことが本当であれば、かなり事態は深刻です」
「……わかっている」
「……そもそも」
はあ、と大きな溜息をヴェルナ―伯爵がついた。
「愛妾が『懐妊したと王に伝えてくれ』と王妃に頼むなど、あってはならない事です。あの侍女が教えてくれなければ……」
『陛下。お願いします、アーリャ様をお守りくださいっ!!』
ありあが泣いて逃げたのと入れ替わりに、こっそりと王の間にサリがやって来た。
『アーリャ様はお優しい方ですから、何も疑っておられませんが……あの御方は……』
シャルロッテがありあに何を言ったのか、を教えてくれた。
「シャルロッテとは話をする。だが……」
グラントの銀の瞳が冷たく光った。
「……現時点で背後まであぶり出す事は難しい」
狙いは俺か、あるいは……。
「とにかく、アーリャ様から目を離さないで下さい。貴族達にお二人の関係を疑わせる訳には参りません」
グラントは溜息をついた。
「ありあの行動は予測不可能だ。おまけに……」
『馬鹿! 変態! 大嫌い!』
涙を浮かべて、こちらを睨む黒い瞳。
「……かなり、嫌われたらしい……」
ヴェルナー伯爵のこめかみがぴくり、と震えた。
「……まさか、とは思いますが……陛下……」
「……『寵愛を受ける正妃』として扱う、とは告げた」
ヴェルナー伯爵の責めるような視線を受けながら、グラントは言った。
……ありあには『騙されそうになって怒った』とは言ったが、本当のところは違う。
あの時、自分の心を支配していたのは、紛れもない、『嫉妬』。
他の男がありあに手を触れた、と思っただけで理性が吹き飛んだ。その結果、彼女を怯えさせるような行為に及んでしまった。
……自分でも驚いた。女性に対して歯止めが効かなくなる、など経験した事もなかった。
(あれで誤魔化せたのか……?)
この十日間は何とかやり過ごせるだろう。その間に……。
「ヴェルナー。調べて欲しい事がある」
グラントの言葉に、ヴェルナー伯爵は黙って頷いた。




